第24話:大切な、職場です
動画が終わってから、数分後。ぼんやりと宙を漂っていた視線の焦点が、ゆっくりと戻ってくる。
「いやぁ、シュリさんも親子分豚も、随分強くなっていましたね。皆の元気な姿が見れて、良かったです」
――ユキは、先ほど見た映像を、無かったことにした。
「そうね。あんな事になるなんて、誰にも想像出来なかったわ。これもあんたのおかげよ」
「せっかく忘れようとしてるのに、蒸し返さないでくださいよ……」
セツナは、いつものからかうような色を消し、ふと零すような声で言った。
「あら、でも彼らが四天王を倒せたのは、あんたのおかげじゃない」
「そうなんですけど……倒し方に問題が……」
「倒し方なんて関係ないわ。結果を見なさい、結果を。あんたがいたから、彼らは自分達で考え、戦えるようになったのよ」
「それは、彼らが努力したからですよ」
「そんなことないわ。あんた以外があの世界に行ってたら、きっと何も変わらなかったわ。脅威が去っても、何も出来ず戦ってくれるかもわからない『転生者』を待つだけだったのよ」
ユキは俯き、自嘲気味に口の端だけを上げた。
「……それでも、僕は大したことはしてないですよ」
彼女は、彼の頭を叩いた。
「もっと自分に自信を持ちなさい。主人の私が、あんたを行かせて正解だったと言ってるの。褒めてあげてるんだから、素直に受け取りなさい」
「そんな横暴な褒め方、聞いたことないですよ」
そう答えたユキの目から、一筋の涙が零れた。
――社畜時代は、やるのが当たり前。
やったら、上司の手柄、出来なければ、自分の責任。どんなに一生懸命働いても、誰にも感謝されることのなかった彼は……
初めて認められたことに、無意識に感情が込み上げた。
「え、どうしたの、急に泣いて……そんなに痛かったかしら?」
「……そういう訳ではありませんよ」
「ならいいわ。それより、大人のガチ泣きって実際に見ると引くわね」
ユキは即座に背を向けた。
「……泣いてないですよ。少しだけ、お待ちください」
その背中を見る彼女の視線には、愛おしむような温かい色が宿る。
そして、彼の背中に、セツナはそっと腕を回した。ユキは一瞬だけ体を強張らせたが、すぐに力を抜いた。
セツナの腕にも、わずかに力がこもる。
「頑張ったわね。さすが私の執事よ」
ユキは、その感覚に懐かしさがあり、記憶を遡ろうとして……
【女神の奴隷:無意識:効果:女神の前世に関わる思考を、静かに沈める:メモ:主人の前世に関わる記憶を思い出すことは、許されない】
……頭の奥に微かな眩暈にも似た疼きを覚えながら、結局何も思い出せなかった。
ただ、背中にセツナの体温を感じて、少しだけ前を向いて生きてもいいのかなと、静かに目を閉じるのだった。




