第22話:ネタのはず、だったのに……
「前置きは飛ばしちゃいましょう」
セツナは、スキップを押した。
ユキは、なぜか非常に嫌な予感を覚え、コーラのコップを持つ手にわずかに力を込めた。
――
「さぁ、いよいよ『来訪者』の登場です!」
「どんなチート持ちが来るのか、わくわくしますね」
「あ、『来訪者』は、チートの名称もNGなので、トト様も言っちゃ駄目ですよ〜!まぁ、もし当てちゃっても、ピー音になるだけなんですけどね!」
「神の口から、ピー音が出るのは避けたいので、細心の注意を払わなければいけませんね」
「前にピー音を発した神は、しばらくあだ名が『神秘』でしたもんね!」
「裏では、『ゲリピー』とも言われてましたよ……同じ轍は踏まないように、気をつけてコメントしていこうと思います」
「あ、トトさま!見てください!ついに『来訪者』が降り立ちました!ルールに基づき、全身モザイクですが、現地の住民である白豚と上手くコミュニケーションを取れてますね!」
「そうですね。名前は、情報保護の観点から、ニックネームで表示されていますね。なになに、ニックネーム『エクスカリバー』と。全身モザイクのエクスカリバーとは、この『来訪者』は神でも計り知れないセンスを持っていますね」
ユキの頬が、微かに引きつった。血の気が音もなく引いていくのが、自分でも分かる。
――ユキは無言でリモコンに手を伸ばす。
――爆笑しながら、それを迎え撃つセツナ。
「リモコンをこちらに渡してください」
「それは無理よ。いいでしょ、あんた、最初に会った時から、エクスカリバーネタをかましてきたじゃない」
「あくまでネタだったんです!これじゃあ、神界中の笑いものですよ!?」
「安心しなさい。神がそんな簡単に、人間に興味を持つわけないじゃない」
「……まぁそれもそうですか」
「あら、でも視聴回数もコメントも中々ね」
――
視聴回数:15万回
コメント:283
@ゼウス
エクスカリバーは草ww
@アルテミス
ほぼ新品のようね
@リリス
↑私がもらおうかしら♪
@アダム
なるほど、鍛錬が必要だな。今度、一緒にいい店に行こう!
@イブ
↑あなたのエクスカリバー、叩き折りますよ
@リリス
アダムは下手カス
@ヘーパイストス
聖剣ではなく、性剣か。さすがに俺でも鍛えられないな
@アルテミス
動物とおしゃべり出来るなんて素敵ね~
@ロキ
最後のシャツから推測するに、心は豚なのかなっww
――
ユキは死んだような魚の目をしたまま、虚空を見つめる。
「凄いじゃない!あんた人気者よ!」
「…………」
「……大丈夫よ。神は一柱ずつ領域を持っていて、基本的には互いに不可侵だから、会うこともないわ。それに、ヴィーナス様の編集は、誰にも見破れないのよ」
「……はぁ、分かりましたよ。セツナ様が、明日の家事を担当してくれるなら、忘れます」
「……執事のくせに生意気な事を。まぁいいわ。それで手を打ってあげる」
ユキは、空になったコップを片付けようと立ち上がった。まぁ、身バレしないなら、問題ないだろう。
――彼は、社畜時代に広報の協力のため、TikTokenで踊らされた過去があった。
すると、セツナが袖を引っ張る。
「えっ?」
思わず振り返ったユキの目に映ったのは、いつものからかうような笑みとは、どこか違う横顔だった。
「もう1本あるから、待ちなさい」
「……出来れば、しばらく1人にさせていただければと…」
「あら、あんたがいいなら構わないわよ。『豚足』の世界に、新たな『転生者』が来たらしいんだけど……」
――ユキの脳裏に、シュリや親子分豚の顔が浮かぶ。
別れの際に、涙をこぼしながらも真っ直ぐにこちらを見ていた瞳。そして、鍛錬を続けると誓ったあのまっすぐな声。
彼は、片付けかけたコップを机に戻した。
「あれ、セツナ様。コップが空ですよ。やっぱり動画を見るなら、キンキンのコーラですよね」
ユキは、冷蔵庫から新たなコーラを持ってきて、セツナのコップに注いだ。
セツナは、その一連の仕草をじっと見つめていたが、何かを言いかけて、結局は飲み込み、わざとらしく足を組んだ。
「善きに計らいなさい」
「仰せのままに」
ユキが再び座るのを確認し、セツナは動画を探す。
「あった、これよこれ!」
そのタイトルは
「【衝撃の展開!!】『豚足』に新たな転生者出現!ついに魔王四天王の一人と決着!」
――彼は思った。これは、よくある釣りタイトルではないかと。
「凄いわよね!魔王四天王を1人倒したらしいわよ!」
「……セツナ様、これ色々と大丈夫ですか?」
あらゆる嫌な想像が頭をよぎり、ユキはおろおろと視線を泳がせた。
「あんたも心配性ね。ほら、いいから見るわよ!」
――
セツナが討伐に行く際の情報収集と『豚足』の最新動画をアップしてもらう交換条件で、ユキの討伐動画の撮影許可を出していたのは秘密。




