第21話:神も人も、大変です
お久しぶりです、はねみやびです。
本日より、毎日1話更新となります!
40話前後で一区切りとなりますので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです。
『豚足』の世界から帰還して数週間、ユキはルーティンとなった家事をしつつ、何気ない日常に感謝をしていた。
社畜時代のように、急な呼び出しも、残業もない。3食コンビニ弁当ではなく、栄養のある料理を作って、セツナと食べる。
家事も常識の範囲内に収まり、時間があれば鍛錬をしたり、V Tubeを見る。
あぁ、こんなFIREを達成したような生活がずっと続けばいいと思いながら、鼻歌を歌いつつ、箒で玄関を掃いていると……
ニヤニヤしたセツナに呼ばれた。
「ちょっと〜ユキ!こっちに来て!面白い動画があるわよ」
「はいはい、今行きますよ、セツナ様。コーラとポップコーンを準備するので、少々お待ちください」
――ユキは、セツナとの暮らしに大分慣れていた。
箒を片付け、ポップコーンとコーラを用意して、ソファーにつくと、セツナがリモコンを操作する。
「見てよ、ユキ!ついにこの日が来たわ!あんたの活躍がヴィーナスちゃんねるにアップされたのよ!」
「え……撮影されてたんですか?というか、アップって?」
「そのままの意味よ。ヴィーナス様直々に、あんたの活躍を編集してくれたの。もっと喜びなさいよ」
「そもそも撮影されていたことも初耳なんですが……」
「あれ、言ってなかったけ?安心しなさい。なんと、収益の70パーセントをくれるのよ!」
ユキは、リモコンを持つ手を思わず止めた。視線がわずかに宙を泳ぐ。
「70パーセントは魅力ですが……ちょっと人権団体に相談に行こうと思います」
「残念ね。ここには、神権団体しかないわよ」
セツナはポップコーンをひょいと口に放り込み、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「……神権団体はあるんですね」
――ユキは、神界の闇を垣間見た気がした。
「大丈夫よ。V Tubeのルールとして、その世界の外に存在するものは、直接写せないの。これは、ヴィーナス様でも破れないのよ」
「それは素晴らしいルールですね!本当に素晴らしい!」
興奮気味に神界のルールを褒め称える彼に、セツナは若干引いた。
「……急に立ち上がって、どうしたのよ?大丈夫?」
「失礼しました。そういう破ったらどうのじゃなく、そもそも破れないルールというのは、前世では無かったのでつい……」
――ユキは、新人が勝手に大事な書類をネットの世界にバラまいた過去を思い出していた。
「まぁ、何でも良し悪しはあるものよ。そんな事より、早く見るわよ!再生開始!」
――
「みなさ〜ん、こんにちは!Volume(量)、Velocity(速度)、Variety(多様性)、3V揃ってVictory(勝利)。ヴィーナスちゃんねるへようこそ!今回の動画は、いつもと少し違うわよ〜!さらにValue(価値)も追加した、4Vなのよ〜!」
美しい金髪をたなびかせた、芸術的なプロポーションの女神が元気よく挨拶をする。
「今日は、以前にも来た『転生しても豚だった件。最弱の俺は、自分の足で立ち、一心不乱に夢を追う』略して『豚足』の世界に来ていま〜す!」
彼女はわざとらしく、人差し指をチチチと左右に振ってみせた。
「『豚足』になんて興味がない!そう思ったあなた!安心してね。なんと!『豚足』の世界で荒ぶるイノシシを討伐するために、他世界から『来訪者』が来たのです!」
そして、画面の隅でお茶をすする、丸眼鏡をかけた白衣姿のトトに手のひらを向けた。
「この事件をどう思いますか!トト様?」
「これは非常に珍しいことですね。そもそも転生者は、『主人公』になれる可能性の高い世界を選ぶのが一般的です。『主人公』になれなかった場合も、世界の片隅で静かに余生を過ごすのが一般的です」
「そうなんですよ!まぁ、前回来訪時も、イノシシは暴れまわっていましたが、そこはどうお考えですか?」
「実はですね、転生者が行うある程度の悪さは、許容される傾向にあるのです。そもそも前世があまりにも悲惨な者が転生する場合が多いので、『等価交換』の考えに基づき、マイナス分がプラスに反転するまでは、見逃されるのです」
「なるほど!だから、小悪党みたいな転生者がゴキブリのように湧くんですね〜」
わざとらしく、胸の前でポンと手を叩くヴィーナス。
「そうですね。しかし、そのような転生者は、来世はゴキブリ確定なので、目を瞑ってあげましょう」
「分かりました!慈愛の心を持って、見守ります!」
「話を戻しますが、討伐対象となるのは、世界に与える影響があまりにも大きいか、そういう存在が関係している可能性があるものに限られます」
「ということは、あのイノシシの裏には黒幕がいる可能性もあるのですね!」
「そうですね。特に『リリス』案件の場合、問題のある転生者を隠蔽されてしまうため、こういう機会にまとめて対処するしかないのです」
「あちゃ〜、『リリス』案件ですか!これはひと筋縄ではいかなそうですね。あ、リリス〜、見てる?この前あなたのせいで、緊急会議やったのよ!まぁ、元々はアダム(カス)が悪いんだから、あいつを吊し上げて終わったけどね」
「まぁ、『リリス』は、それが仕事のようなものですからね」
停止ボタンを押し、ユキはセツナに尋ねる。
「『リリス』とは、一体どういう方なんですか?」
「う〜ん、そうね。あんたは、『アダム』って知ってる?」
「うろ覚えですが……確か『アダム』と『イブ』は神が最初に創造した人間ですよね」
「そうなのよ。ただ、『リリス』は『イブ』より前に生み出され、『アダム』の男尊女卑の考えについて行けず、『アダム』の元を去ったと言われているわ」
「もしそうだとしても、3人とも神ではないですよね」
「最初に創造した人間だからこそ、神々も愛着があり、後に神と成ったと言われているわ。真相は分からないけど、『アダム』、『イブ』、『リリス』の名を持つ神は天界にいるわけだしね……あら、キャラメルポップコーンも美味しいわね」
セツナの空気を察し、ユキもそれ以上の追求をやめる。
「塩もいいですよ。今度、醤油バター味でも買ってみましょうか?」
「いいわね!動画の収益でポップコーンパーティでもしましょう。……それよりも早く再開しなさいよ。コーラの炭酸が抜けるじゃない」
「このまま、忘れてくれるかと思ったのですが……」
「いいからよこしなさいよ」
セツナはユキからリモコンを奪い、動画を再生した。
「前置きは飛ばしちゃいましょう」




