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第17話:OJT、始めました

 男は、『神器』を回収しながら、独り言を呟いていた。


「はぁ〜。中年が、まだ若いであろうシュリさんに熱く語ってしまった…大丈夫かな…引かれてないかな」


 男は、額に浮かんだ汗を拭いながら、うんざりしたような、それでいてどこか照れくさそうな表情を浮かべる。


――男は自分の言葉に羞恥心を抱いていた。


『神器』を見つけ、重い足取りで戻ると、そこには目をギラつかせた豚たちの群れが待っていた。


 それを見て、若干引きつった顔をしながらも、引かれていないことに安堵して、先頭にいるシュリに問う。


「シュリさん、女神様からの提案への回答は決まりましたか?」

「はい!奴隷様!私達を鍛えてください!」


 シュリは、涙の跡も新しい顔で、まっすぐに男を見上げた。


「旦那ぁ!俺はやってやるぜ!!」


 親分豚が、前脚を高く掲げる。


「やってやるでやんす!」


 子分豚も、力強く頷いた。


「分かりました。それでは、始めます」


 男は、【巨大化】と【拡大解釈】により生まれた2つの『神器』にスキルを行使する。


【女神の奴隷:資産流動化:効果:モノを別のモノに変換する:メモ:金の看板は不要】+【女神の奴隷:適材適所:効果:適したモノに適したモノを分配する:メモ:誰にでも、向き不向きがある】


『神器』は光の粒子となり、シュリ達に降りそそぐ。淡い光の粒が、豚たちの体を優しく包み込んでいった。


「さぁ、まずは、訓練用の服に着替えてきてください」

 

 男は、スキルで作った女神シャツを皆に配布した。豚たちは、戸惑いながらも、嬉しそうに着替えにいく。

 そして、皆が着替え終えたことを確認すると、スキルを発動する。


【女神の奴隷:OJT教育:効果:実技を通して、基礎を教える:メモ:丁寧に教えないと、意味は無い】+【女神の奴隷:新人育成:スキル初心者の状態を瞬時に把握:メモ:とうに諦めたはずの、優しさ】


「時間もありませんが……辛かったら言ってくださいね」


 男は、優しく、しかし真剣な眼差しで、豚たちを見渡した。


――そうして、彼らは宴会を中止し、夕日に向かって走るのであった。



――

 ヴィーナスは、タブレットから目を離すと、目を丸くしたまま、感嘆の声を上げた。


「今どき、こんな子もいるのね……さすがに予想の斜め上を行き過ぎよ!」


 セツナは、胸を張り、誇らしげにドヤ顔を浮かべる。


「まぁ、私の執事ですからね」

 

 ヴィーナスは、目を細めながら、そんなセツナの頭を優しく撫でた。


「えぇ、そうね。あなたとお似合いなくらい、『美しい』在り方ね。私もぜひ、会ってみたいなぁ〜なんて」

「……あげませんよ」

 

 セツナは、間髪入れずに、ぴしゃりと言い放つ。


「冗談よ、冗談!拗ねた顔も可愛いわねぇ」


 ヴィーナスは、くすくすと笑いながら、セツナの頬をつつく。

 そんな二人の背後から、低い声がかかった。


「いつまで私を待たせるのですか」


 腕を組んで立つアテナの姿に、二人はびくりと肩を跳ねさせる。


「あ、セツナちゃん!そういえば、アテナが呼んでたわよ。じゃあまたね〜!」


 ヴィーナスは、慌てた様子で手を振ると、身を翻し、そそくさとその場を後にしようとする。

 セツナは、その背中に、じとりとした目を向けた。

 数歩進んだところで、ヴィーナスは、思い出したように、ぴたりと立ち止まる。振り返ると、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「あ、セツナちゃん!良いものを見せてくれたお礼に、動画の収益は70パーセントあげるわ!今後も頑張ってね〜」


 セツナの表情が、ぱっと華やぐ。


「ありがとうございます、ヴィーナス様!今日も最高に美しかったです!」


 弾んだ声で、そう告げた。ヴィーナスは、満足げに片目をつむると、今度こそ軽やかな足取りで去っていった。

 そんなやり取りを尻目に、アテナは、大きくため息をついた。


「さぁ、セツナ。報酬の話をするから、部屋に戻りますよ」

「あ、少々お待ちください」


 セツナは、はっとした様子でタブレットを取り出す。


「執事が面白い事を始めたので、帰還は明日の夕方にすることを伝えます」


 真剣な顔で画面に指を走らせるセツナに、アテナは呆れたように眉根を寄せた。


「相変わらずマイペースなんですから……ほら、行きますよ」


 アテナは、セツナの襟首を軽くつまむと、部屋の奥へと引っ張っていく。


「あ、待ってください、アテナ様!」


 引き摺られながらも、セツナは名残惜しそうにタブレットへ視線を送るのであった。

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