第15話:ここだけの、お話です
カイザーで遊ぶのに満足したヴィーナスは、カメラの録画を止め、アテナに終わったことを告げた。
「アテナ〜!終わったわよ!撮れ高、最高!」
満足げに親指を立てるヴィーナスに、アテナは小さく頷き返す。
「それは何よりです。セツナ、あなたは席を外しなさい。ここからは、見ていて気持ちの良いものでは無いですよ」
セツナは、床に転がるカイザーへちらりと視線を落としてから、素直に立ち上がった。
「分かりました。では、経費でコーヒーでも飲んできます」
「はいはい、何でも好きなのを食べてきなさい」
アテナは、追い払うように軽く手を振った。
「またね〜!セツナちゃん!」
ヴィーナスが、ひらひらと手を振り見送る。
「では、ヴィーナス様も。後はよろしくお願いします。収益、楽しみにしてますね」
そう言い残し、セツナは一礼して部屋を後にした。扉が閉まる音を確認してから、アテナは表情をわずかに引き締めた。
「では、ヴィーナス、【魅了】を解く前に『アレ』の確認を」
「おっけ〜!」
ヴィーナスは、いつもの陽気な口調のまま頷くと、カイザーに向き直った。
「それでは、カイザー、最後に確認します。あなたは、これまでにいくつの世界に侵攻しましたか?」
「はい、俺は2つの世界の自称主人公を倒し、それらの国から得た資源を持ち帰り、自分と嫁達のために使いました」
カイザーは、淀みなく、誇るように答える。
ヴィーナスは、笑顔を保ち続けるが、その目から温度は失われる。
「どうしてそんな事をしたのかな?」
「俺が嫁達と出会った時、彼女たちは他者のせいで不幸だったから、不幸だった分を取り返したかったんです」
アテナが、確認するかのように、カイザーに問いかける。
「だから、自分の世界だけではなく、他者の世界も侵害したんですね」
「そうです。不幸だった分、幸せになるためには、しょうがなかったんです」
「あなたは、自分がされたことを、他者にしてるわけだけど、どう考えてるの?」
「俺は主人公だからいいんです。主人公は、何をしても許されるんです」
カイザーは、悪びれる様子もなく、胸を張ってそう言い切った。
「アテナ、もういいかな?さすがに頭が痛くなってきたわ」
「ありがとう、ヴィーナス。【服従】も解除して大丈夫です」
アテナは、静かに目を伏せながら答えた。
【服従】を解除されたカイザーは、これまでの告白を思い出し、顔を真っ赤にして叫ぼうとする。
しかし、アテナが手を向けると、口をパクパクさせるだけに終わる。
「それでは、カイザー。あなたに『神判』を言い渡します」
それを聞き、カイザーは口をパクパクさせながら、身体をバタつかせる。血走った目に、初めて明確な恐怖の色が浮かんだ。
ヴィーナスは、無言でカメラを構え直し、録画を始めた。
「あなたは、身勝手な理由で他の世界にまで、不利益を与えました。そのため、【神罰:等価交換】により、あなたとあなたの嫁を含む世界は、この瞬間を以て消滅。そして、そのエネルギーは、あなたが損害を与えた2つの世界への補填に使用されます。なお、あなた達から利益を享受していないものに関しては、記憶を調整して、2つの世界のどちらかへの移動とします」
驚愕の表情を浮かべるカイザーの前に、ヴィーナスはタブレットを置いた。そこには、彼のいた世界。
彼の嫁と仲間達だけが、王のように振る舞い、他の住民を虐げている様子が映されていた。
ヴィーナスはよそ行きの顔をやめ、心底軽蔑したように、画面を見つめる。
「なんて、醜い世界なのかしら。立場が変わった瞬間に、あっという間に堕ちていく。これだから、人間は嫌いだわ」
冷え切った声で、ぽつりと呟いた。
そして、取ってつけたように、ぱっと笑顔に戻る。
「さぁ、いよいよ【神罰】の時間です!それでは、アテナ、お願いします」
「そんな前振りは無いでしょうに……」
アテナは、呆れたように一つ息を吐いてから、カイザーへと向き直る。目には、これまでにない厳かな色が宿っていた。
「では、カイザーよ。己の罪を受け入れなさい」
その瞬間、タブレットに映っていた世界は、全てが真っ白な粒子へと変わり、静かに消えたのであった。
カイザーは現実を受け入れられないかのように、口を開けたまま、呆然としていた。
「それでは、次はあなたですね。さようなら、カイザー」
その言葉とともに、カイザーの輪郭が、光の粒子となってほどけていく。抵抗する間もなく、その姿は瞬く間に、空気の中へと溶けて消えた。
部屋に、しばしの静寂が満ちる。
「ヴィーナス、今日は手伝っていただき、ありがとうございました」
アテナが、深く頭を下げた。
「気にしないで!今回の【神罰】は最大級だったし、これは収益も期待大よ〜!」
ヴィーナスは、両手を広げ、明るい声で答える。
アテナは、微笑みながら、小さく肩をすくめた。
「あなたも、素直じゃないですね」
ヴィーナスも柔和な笑みを浮かべる。
「アテナに言われたくないかなぁ。わざわざ席を外させたくせに」
「私が指示しなければ、あなたがそうしたでしょう?」
「それはそうよ!セツナちゃんは、私にとってもお気に入りなのよ。彼女が女神と成った理由は、美の女神である私から見ても、人としての『美しさ』の象徴であると思ったんだもの。もし、それを醜い『執着』と言う者がいるなら、神でも許さないわ」
ヴィーナスは、真剣な顔で言い切った。
「あなたも中々過激ですね」
「……アテナ、さっきから全部ブーメランよ。セツナが成った当時、彼女の陰口を言ってた女神を私達で締めたこと、忘れた訳では無いでしょ」
ヴィーナスが、じとりとした目を向ける。アテナは、ばつが悪そうに視線を逸らした。
「……あれは、若気の至りですよ」
「その後、私のヴィーナスちゃんねるで、ヘラやデメテルと一緒に、陰湿女神のお仕置き動画を散々あげてたわよね!あれで危うくBANされかけたのよ!」
「この話はやめましょう。帰るなら、ついでにセツナを呼んで来てください」
アテナは、明らかに話題を逸らすように、そそくさと立ち上がった。
「おっけ〜!『醜い』人間を見て、疲れたから、セツナちゃんで癒されながら帰るね!」
ヴィーナスは、けらけらと笑いながら、扉へと向かう。
「……そうやってだる絡みするから、嫌な顔をされるのよ」
「いいじゃない!そういう正直なところも気に入ってるのよ」
ヴィーナスは、機嫌よく鼻歌交じりに、扉の向こうへと消えていった。




