第14話:贔屓では、ありません
男が二度寝をしようとすると、涙目のシュリが、ぐいぐいと肩を揺さぶった。
「ブヒィ!ブヒィブヒィ!!」
必死な鳴き声に、男は諦めて目を開ける。あぁ、意識を失って、スキルが切れたのかと気づき、シュリを落ち着かせるように手を上げながら、【女神の奴隷:意思疎通】を発動した。
「大丈夫ですか、奴隷様!こんなにボロボロになるまで、私達のために戦ってくださりありがとうございます!」
「本当にありがとうよ、旦那!おかげで皆無事だぜ!」
「そうでやんす!おいらたちのために、倒れるまで戦ってくれた旦那をリスペクトでやんす!」
――シュリ達は、自分達が男を引いたことを、しれっと無かったことにした。
――男も空気を読んだ。
ゆっくりと身体を起こしながら、胸に手を当てる。
「僕はそのために来たのです。皆さんが無事で何よりです」
その言葉に感極まり、シュリ達は瞳を潤ませ、再び男に飛び付くのであった。
その瞬間、鍛練の成果か、男は反射的にスキルを発動する。
【女神の奴隷:重量物運搬:効果:質量を無視して、受け止める事が可能:メモ:重たい物は、2人以上で運びましょう】
肩に、腕に、腹に――次々と体当たりしてくる豚たちを、男は微動だにせず受け止めていく。こうして、潰されることなく、全ての豚を受け止めたのであった。
(まさか、ここで鍛練の成果が出るとは)
男は、豚まみれになりながら、遠い目で乾いた笑みを浮かべた。
――
シュリ達をなだめながら、遠くを見つめる姿を、女神達はくすくすと笑いながら見ていた。タブレットを覗き込み、肩を寄せ合って笑っている女神達の背後から、くぐもったうめき声が響く。
ようやく、『犯人』が目を覚ましたのだ。
「どこだ、ここは!油断したが、次こそは、憎き女神を葬ってやる」
アテナはそれを、ちらりと一瞥した。惜しむような、わざとらしく大きな溜息をつきながら、
「じゃあ『犯人』も起きたことですし、そろそろ始めましょうか」
そう言って、名残惜しそうに席に戻った。
ヴィーナスは、一瞬あいつ誰だろうと首を傾げながら、ポンと手を叩いて、カメラを構えた。
「セツナ、タブレットは仕舞いなさい」
セツナはしょうがなく、タブレットを片付けて、『犯人』に中指を立てながら座り直した。
アテナは、呆れた目をセツナに向けつつも、開会の宣言をする。
「それでは、これからヴィーナスの『最後の神判』を始めるわ」
セツナは、『犯人』に憐れみの視線を向け、両手を合わせて小声で「ざまぁ」と呟きながらご冥福を祈った。
ヴィーナスは満面の笑みを浮かべながら、カメラを男に向ける。
「任せてちょうだい!私達が人間相手に直接手を出せるのは、この時だけだから、張り切っちゃうよ〜!」
アテナは、苦笑いをして、口火を切る。
「それでは、『最後の神判』を始めます。それでは、ヴィーナス。まずは男の素性の説明を」
「は〜い!ではでは、早速始めます!」
ヴィーナスは、指先をくるりと回しながら、権能を発動する。
【女神の権能:支配】
淡いピンク色の光が、カイザーの全身を包み込んだ。
「じゃあ、『犯人』!早速、自己紹介からお願いしま~す!」
「はい。俺は、こちらの世界では、カイザー・エンペラーと名乗っています。通称は、『黒の終焉者』です。前世の名前は、凡田 太郎です」
セツナは、その様子を静かに見守りながら、内心でカイザーに同情する。
(相変わらず、ヴィーナス様の権能は、えげつないわ。どんな人間も、彼女の前では、全てを曝け出すのよね)
ヴィーナスの後を引き継ぎ、アテナが尋問を始める。
「カイザー・エンペラーよ、自己紹介をありがとう。続いて今日までの経緯を簡単に説明しなさい」
「はい。チートスキルで無双した俺は、救世主となり、5人の嫁を得て、あることに気付いたのです。それは、救世主の俺が他の世界も支配したほうが、もっと良い方向になるということです」
アテナは、表情ひとつ変えずに切り捨てた。
「なるほど。典型的な勘違い野郎ということですね」
「そして、俺に『拡大解釈』を教えてくれた、漆黒の女神は、俺のスキル『生成』と『拡大解釈』を合わせることで、世界を渡れる術を授けてくれたのです。お礼に女神を俺の6人目の嫁に迎え入れようと提案したところ、あの女はよりにもよってこの俺を振ったのです。だから、支配だけでなく、仕返しも兼ねて、他の世界を侵略しながら、俺を振った女神を倒すことを目的としていました」
アテナは、こめかみを軽く押さえた。
「はぁ、漆黒の女神ということは、やっぱり『リリス』案件ですね」
「まぁ大体のトラブルは彼女のせいですね」
ヴィーナスは、遠い目をしながら呟いた。
「あとで、また、会議かなぁ」
セツナが、はっとした様子で口を挟む。
「あ、私は執事をこちらに戻さないといけないので、欠席します。というか、戻さない理由をお告げで知らせるのを忘れてました」
「あなたは……タブレット使っていいから、早く知らせてあげなさい」
「さすが、アテナ様!」
嬉々として、タブレットを弄りだすセツナ。
「カイザーよ。自分勝手な理由で、他世界に侵略をしたため、残念ながらあなたの魂は消滅が確定しました。『神判』の前に、ヴィーナス、好きなように、遊んでいいわよ」
「ふふ、待ってました!それでは、元救世主、カイザー君の黒歴史でも見ちゃいましょう!まずは、『生成』で生み出した恥ずかしいスキルとその理由をどうぞ〜!」
「俺が生み出した、実は恥ずかしいスキルは、「鑑定:女性のピーを知るため」、「千里眼:女湯をピーするため」、「透明化:女湯にピーするため」、「転移:女湯にピーするため」、「風神:スカートをピーするため」、「水神:服を濡らして、ピーするため」です」
カイザーは、まるで手柄でも語るかのように、堂々と言い放った。
「あら〜!元救世主は、ただのムッツリだったのですね!じゃあ次は何にしようかな〜?」
こうして、カイザー・エンペラーの黒歴史は、全ての神に知れ渡るのだった。
その様子を見て、セツナとアテナは揃って呆れた顔をしていた。
「アテナ様、カイザーは先ほどから、お湯を沸かしたヤカンのように、ピーしか言ってないですね」
「きっと、頭の中が沸騰してるのよ」
「あるいは、頭に虫でも湧いてるのかもしれませんね」
「あなたの執事と同じ人種とは、とても信じられませんね」
「当然です。カイザー・エンペラーって、皇帝・皇帝という意味ですよ。そんな奴と比べないでください」
セツナは、心外だとばかりに、きっぱりと言い切った。
「それは失礼。ヴィーナスが満足したら、終わらせましょうか。カイザーと、彼の世界を」
アテナは、そう言って、静かに目を細めた。




