5.
◇
朝のうちに下拵えはばっちりやっておいたので、あとは焼くだけでよかった。
ナツキが制服に着替え直しているうちに、チーズケーキが焼き上がる。
オーブンをあけると、芳しい香りにナツキの表情が華やいだ。
調理室のステンレスの実習台に向かい合って座り、取り分けた豆腐ハンバーグとチーズケーキをいただきながら、二人はようやくひと心地ついた様子で和んでいた。
ハンバーグの優しい味と、チーズケーキの甘酸っぱさに、ナツキは先ほどまでの緊張感がすっかりほどけて、表情をほころばせている。
こと今日に限っては、ほかの部員どもがやってこなかったことに感謝するミナトだった。
食後の紅茶をゆっくり味わいつつ、ナツキは自分の身体から抜き取られた赤い糸、そのなかでも特に長い一本を指先でもてあそんでいた。
よく見ると、その一本のもう一端はミナトの手元までずっと伸びていた。
ほう、こんなに長い生き残りがいたとは。ミナトは感心して、そのもう一端を指先でつまんで、くるくると回してみた。
なんということのない、ただの細い糸だった。
たったこれだけで、人ひとりを縛りつけてしまうのだから、なんとおそろしい。
そんなことを考えていると、もう片方をつまんだまま、キョトンとした表情でこちらを見ているナツキと目が合った。まだ、変身状態の余韻で目元が少しトロンとしているように見える。
「ナツキ、これを機に反省して、俺をからかおうなんてもう思わないこったな」
「ふふ」
反省しているのかしていないのか、どちらともつかないフワフワした曖昧な笑みを浮かべていた。今日一日で色々あったせいで、疲れて魂が抜けかけているのかもしれない。が、ここはきちんと“こちら側”に引き戻してやらねば。
「あのなぁ、今回はたまたま俺が助けてやれたからよかったけどさ。また雑巾にでもされてみろ、バケツの水のなかに沈められて、思いっきりギュウギュウに絞られちまうかもしれんぜ?」
そう言われ、ナツキはキョトンとした表情のまましばらく考えてから…………ようやくいつものようなニヤケ顔を浮かべてこう言った。
「…………ミナトくんになら、しぼられてもよかかも」
「いいかげんにしろ♡」
ミナトはいかにも呆れた様子でナツキにツッコミを入れる。
「よし分かった。次にお前が体操服に変身しているところを発見したら、俺が真っ先にとっ捕まえて、ギュウギュウに絞ったろ!」
「えーやだー! 先輩のヘンターイ」
おおげさに、両腕で抱いた自分の身体をよじりながら、ナツキはゲラゲラと笑う。
それを見て、ミナトもやっと一部始終が終わったような心持ちになれた気がして、自然と笑いが漏れていた。
しぼらんて。本当にはしぼらん。
でも、冗談でもそう言ってもらえるのは悪い気はしない。なんて思ってしまう自分がいる。




