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戦国魔法少女〜丹羽長秀と人形少女〜  作者: ザザミス


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第7話 織田上総介信長

 長秀は一歩前へ出た。


「丹羽五郎左衛門長秀、参上いたしました。」


 畳に手をつき頭を下げる。


「うむ。」


 上座から声が返る。

 聞き慣れた主君の声だった。


 長秀は顔を上げる。


 そこには織田信長。

 その傍らには柴田勝家。

 ここまでは予想通りだった。


 だが。


 その前に座る二人の少女を見て、長秀は僅かに目を細めた。


 まず一人。

 年の頃は十五、六か。


 髪は茶色。

 長く伸ばされている。

 その色合いは珍しいが、不自然というほどではない。

 光の加減で説明できそうな範囲だった。


 着物を着ている。

 女性向けの着物ではある。


 だが袖は短めで、裾も動きを妨げないよう工夫されている。

 どちらかと言えば旅装束に近い。

 戦国の娘としては珍しいが、理解はできる。


 表情も落ち着いていた。

 姿勢も良い。

 信長や勝家を前にしても必要以上に緊張していない。

 まるで場慣れしているようだった。

 こちらはククリほど危なっかしくなさそうだ。


 そしてもう一人。

 こちらを見た瞬間、長秀は眉をひそめた。


 短い白髪。

 老人ではない。

 年若い少女だ。


 それなのに雪のように白い。

 初めて見る色だった。


 そして服装。

 こちらはさらに異様だった。


 袖が短い。

 腕が露出している。

 脚も露出している。


 小袖でもない。

 袴でもない。

 南蛮の服とも違う。

 子供が着る着物を途中で切り落としたような格好だった。


 年の頃はククリと同じくらい。

 十三か十四か。


 だが表情は妙に落ち着いている。

 信長を見ても。

 勝家を見ても。

 長秀を見ても。


 特に怯える様子がない。

 ただこちらは落ち着いているというより、あまり興味がない、というのが正しいか。


 まるで顔の知らぬ親類の葬儀にいる童《わらべ》のごとし。


 二人とも。

 おそらくはこの時代の人間ではない。

 自分の後ろにいるククリと同様に。


 服装だけではない。

 立ち居振る舞い。

 視線。

 空気。

 何もかもが違う。


 信長が笑う。


「五郎左《ごろうざ》!」


 上機嫌だった。


「お前のところにも来るとはな!」


 長秀は視線を二人から信長へ戻した。


「は。」


 短く答える。


 勝家がため息を吐いた。


「殿、笑っておる場合ではございませぬ。」


 柴田権六勝家《しばたごんろくかついえ》。

 長秀にとっては古参の同僚であり、同時に織田家を支える重臣の一人だった。


 年齢は一回りほど上。

 信長が家督を継ぐ以前から織田家に仕えている。

 若い頃の長秀から見れば、既に名の知れた武将だった。


 武勇。

 その一点において勝家を疑う者はいない。

 戦場へ出れば先陣に立つ。

 敵陣へ最も深く斬り込む。

 武士たちが思い描く理想の武将像に最も近い男だった。


 兵からの信望も厚い。

 勝家が前へ出れば兵は続く。

 余計な言葉は要らない。

 そういう男だ。


 一方で。

 世間で言われるほど単純な人物でもない。

 長秀はそう思っている。


 確かに豪胆だ。

 気性も荒い。

 だが決して考え無しではない。

 むしろ慎重な部分すらある。


 目の前の異常事態を見ればそれはよく分かる。

 信長が面白がる中。

 勝家は現実的な問題を見ている。


 未来人。

 異能者。

 得体の知れぬ娘たち。

 面白いで済ませてよい話ではない。

 それを口にできる人間は織田家でも多くない。


 信長の前で意見を述べるには勇気がいる。

 勝家はそれを当然のように行う。

 だから信長も重用しているのだろう。


 長秀自身、勝家を嫌ったことは一度も無い。

 考え方の違いはある。

 戦への向き合い方も違う。

 だが信頼はしている。



 勝家は二人の少女を見た。

 そして後ろのククリも見る。


「この調子ではまた出てきてもおかしくありませぬ。」


「結構ではないか。」


 信長は笑う。


「面白い。」


 勝家は頭を振った。

 長秀も同感だった。


 面白いかどうかはさておき。

 異常事態であることだけは間違いない。


 信長は手招きする。


「さあ来い五郎左。」


「は。」


「説明せよ。」


 長秀は前へ進んだ。


 そして改めて思う。


 茶髪の少女。

 白髪の少女。

 そして黒髪の沢渡ククリ。


 まるで異なるようでいて。

 三人ともどこか同じ空気を纏っていた。


 この時代に属していない者特有の空気を。


 長秀は前へ出た。

 ククリも後ろから付いてくる。

 言いつけ通り黙って大人しくしている。


「こちらは沢渡ククリと申します。」

「うむ。」


「年は十三。異能を持ちます。」


 信長が頷く。

「どのような。」


「木人を作り、それを自在に操ります。」

「ほう。」

「兵十余人を無力化いたしました。」


 信長の目が細くなる。

 面白がっている。

 長秀には分かる。

 これは興味を持った時の顔だ。


「他には。」

 信長が尋ねる。


 長秀は一瞬迷った。

 だが隠しても意味は無い。


「本人の申すところによれば。」

「うむ。」

「未来人、つまり後の世より来たとのこと。」


 沈黙。

 信長が止まった。

 勝家も止まった。

 部屋の空気が止まる。


 長秀は少し首を傾げた。

 反応がおかしい。


 未来人。

 確かに奇妙だ。

 だがこの部屋には既に異能者が二人いる。

 そこまで驚くことだろうか。


「未来人?」

 信長が聞く。

「後の時より来たと。そう申すのか。」


「は。」

 長秀が頷く。

「書面にもそのように記してあったはずですが……」

「む?待て。」

 そこで信長は懐から書状を取り出し、読む。


「ふむ。すまぬ、少々興奮しておったので見逃した。」

「は、はぁ。」

「仕方ないだろう、こんな奇怪な娘が現れ!更に権六《ごんろく》からも似たような知らせが届いたのだ!俺でなくとも見逃すわ!」

「はい、全くもって。」


 それについては長秀も同感であった。


 そして改めて。

「未来人……つまり後の時より来たと。」


 そこで。


「なんでバラしてんですか……」


 茶髪の少女が呟いた。


 長秀は固まる。

 信長も固まる。

 勝家も固まる。


 次いで。白髪の少女が口を開く。

「言っていいんだそれ。」


 静寂。

 長秀はゆっくり二人を見る。


 栗色の髪の少女は呆れ顔。

 白髪の少女は感心した顔。

 そんな顔をしていた。


 信長が笑った。

「ほう。」


 面白そうだった。

 非常に面白そうだった。


「どうなのだ、天音《あまね》。」


 茶髪の少女が顔を覆う。

「どうもこうも。」

「お主もか。」


 天音と呼ばれた少女はため息を吐いた。


「ええ。」

 認めた。

「そうです。」


 今度は勝家が白髪の少女を見る。

「ではお主もか、エリ。」

「そう。」


 あっさり答える。

「私も。」


 長秀は思わず黙り込んだ。

 沢渡ククリ。

 栗色の髪の少女、天音。

 そして白髪の少女、エリ。


 全員が後の世から来たと言う。

 偶然ではない。

 そう判断するしかなかった。


 ククリだけが首を傾げている。

「え。」

 全員が見る。

「言ってなかったの?」


 天音が頭を抱えた。

 エリは呆れた顔をした。


 信長は笑う。

 勝家はため息を吐く。

 長秀はようやく理解した。


 一番最初に未来人だと言い出した沢渡ククリが特殊だったらしい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 未来から来たことを認めた桐原天音は、自らの過去について語り始める。戦乱を生きる信長や長秀には理解しがたい未来の社会、そしてそこで生まれた教えとは何なのか。戦国の常識と未来の価値観が交わる時、誰もがその言葉の意味を考え始める。


 次回「桐原天音と撃鉄教」

 戦国の常識は、未来では常識ではない。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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