第6話 なんと奇遇な
岐阜城へ入ってからも、長秀の気苦労は絶えなかった。
城下町を抜け。
山道を登り。
幾つもの門を通る。
岐阜城は戦のための城である。
城下の賑わいとは違い、中へ入るほど空気は張り詰めていく。
兵たちの視線も鋭い。
当然だった。
ここは織田家の中枢。
主君の居城である。
そしてその中を。
沢渡ククリはきょろきょろと辺りを見回していた。
「おー。」
「静かにせよ。」
長秀は即座に言った。
「これから御前へ出る。」
「うん。」
「うん、ではない。」
長秀は足を止めた。
ここまで来る間にも何度か説明している。
だが念のためもう一度だ。
「信長様は儂の主君だ。」
「知ってる。」
「御前では礼を失するな。」
「善処する。」
「善処では困る。」
ククリは不満そうな顔をした。
「だって分かんないし。」
「分からぬなら黙っておれ。」
「ひどくない?」
「むしろ優しい。」
長秀は真顔で答えた。
「余計なことを申せば、わしでも庇えぬ。」
ククリは少しだけ黙った。
その様子を見て長秀は内心安堵する。
多少は理解したらしい。
多少だが。
そこへ向こうから一団が歩いてきた。
織田家の兵だ。
長秀も見覚えがある。
柴田勝家の配下である。
相手も長秀に気付いたらしく、すぐに頭を下げた。
「長秀様。」
「うむ。」
長秀は頷く。
そして何気なく尋ねた。
「勝家殿が来ているのか。」
「はい。」
兵は即答した。
だがその表情が妙だった。
どこか困惑している。
そしてククリへ視線を向けた。
「もしや長秀様も奇怪な女子をお連れに?」
長秀は足を止めた。
「……も、とは。」
兵は苦笑した。
「勝家様のところにも現れまして。」
長秀とククリが同時に固まる。
「え。」
「何だと。」
兵は頷く。
「ええ。」
そしてククリを見る。
「そちらがそうですな。」
「いや待て。」
長秀は思わず口を挟んだ。
「勝家殿のところにもおるのか。」
「おります。」
「奇怪な女子が。」
「おります。」
「木人を操るのか。」
「いえ。」
兵は首を振った。
「ですが奇怪です。」
「……。」
「ぜひご自身の目で。」
兵はそれだけ言って頭を下げた。
それ以上は語らない。
長秀は顔をしかめる。
勝家のところにも。
自分のところにも。
偶然にしては出来過ぎていた。
ククリも考え込んでいる。
「魔法少女かな。」
「まほうしょうじょ。」
長秀は深く息を吐いた。
嫌な予感しかしない。
再び歩き出した。
城の奥へ。
主君の待つ部屋へ。
やがて最後の廊下へ出る。
兵が控えている。
障子の向こうから声も聞こえる。
長秀は立ち止まった。
「ククリ。」
「なに。」
「最後だ。」
長秀は真剣な顔で言う。
「余計なことは申すな。」
「難しい注文だなぁ。」
「頼む。」
「そこまで言う?」
「言う。」
ククリは少し考えた後、
「努力する。」
と答えた。
長秀は不安しか感じなかった。
兵が障子を開く。
長秀は部屋へ入った。
「丹羽五郎左衛門長秀、参上いたしました。」
視線を上げる。
上座には織田信長。
そばに柴田勝家。
そして。
長秀は思わず言葉を失った。
少女が二人いた。
一人は十五、六ほど。
栗色の長い髪。
もう一人はククリと同じくらいの年頃。
老人かと見まごうばかりの白髪。
どちらも明らかにこの時代の人間ではない装いをしている。
その瞬間。
長秀は理解した。
これは偶然ではない。
沢渡ククリだけではなかったのだ。
部屋の中の全員が。
新たに現れた者たちを見ていた。
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信長、勝家、そして見知らぬ二人の少女――長秀を待っていたのは、予想を超える顔ぶれだった。異能を持つククリについて説明を始める長秀だったが、その場で交わされた何気ない一言が、事態をさらに複雑なものへと変えていく。思惑と驚きが交錯する中、歴史の中心で新たな物語が幕を開ける。
次回「織田上総介信長」
天下人の前で、運命が交わる。
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