第5話 岐阜城下
岐阜へ近付くにつれ、人の数が増えていった。
最初は街道を行き交う旅人。
次に荷を運ぶ馬。
やがて商人の一団。
さらに進めば、農民だけではない。
僧。
職人。
武士。
様々な人間が同じ道を行き交っている。
長秀は馬上からその様子を見ていた。
岐阜は変わった。
かつての稲葉山の頃と比べても明らかだ。
人が集まり。
物が集まり。
金が動く。
主君が目指しているものはまだ完成には遠い。
だが確実に形になりつつある。
「おお。」
横から声がした。
ククリだった。
さすがに木人の上からではない。
岐阜へ入る前に降ろさせた。
人形たちは荷運びの従者を装っている。
無論、全く装えてはいない。
周囲の人々は遠巻きにしている。
だが少なくとも城下で寝転びながら移動されるよりはましだった。
「人多い。」
ククリは辺りを見回していた。
黒髪の短い横髪が揺れる。
珍しそうに店を眺めている。
「思ったより都会。」
長秀は少し口元を緩めた。
「そうであろう。」
「もっと田舎かと思ってた。」
「失礼なことを申すな。」
「だって戦国時代だよ?」
長秀はその言葉に眉をひそめた。
未だに慣れない。
戦国時代。
ククリの言う後の世では、この時代をそう呼ぶらしい。
「殿のお力だ。」
長秀は前方を見ながら言った。
「信長様が岐阜を整えられた。」
ククリは店先に並ぶ品々へ目を向ける。
干魚。
野菜。
反物。
陶器。
紙。
道の両側には店が並び、人々の声が絶えない。
「確かに栄えてる。」
「商いも盛んだ。」
「コンビニはないけど。」
「こんびに。」
「何でもない。」
長秀は追及を諦めた。
どうせまた意味不明な単語だろう。
岐阜の町は活気に満ちていた。
道行く者たちも長秀の一行に気付いて頭を下げる。
城主格の武将が来れば当然だ。
だが視線はその隣にも集まる。
ククリ。
そしてその後ろの木人たち。
ざわめきが起こる。
当然だった。
木人は大人ほどの背丈がある。
しかも自ら歩いている。
目立たないはずがない。
「見られてるね。」
ククリが小声で言う。
「当然であろう。」
「なんかごめん。」
長秀は少し意外だった。
「気にするのか。」
「そりゃする。」
「そうは見えぬ。」
「失礼だな。」
ククリは頬を膨らませた。
その様子を見て長秀は苦笑する。
やはり年相応の部分もあるらしい。
ただ。
それでも異質だった。
町の人々は木人を恐れている。
武士たちは警戒している。
長秀自身も未だに正体を掴めていない。
それなのに本人だけが平然としている。
まるで自分が異常だという自覚がない。
「見えた。」
ククリが突然足を止めた。
長秀も視線を上げる。
岐阜城。
金華山の頂にそびえる主君の居城。
険しい山の上に築かれた城は、遠くからでもよく見えた。
城下を見下ろすその姿は、まるでこの土地そのものを支配しているようだった。
ククリはしばらく黙ってそれを見ていた。
そして。
「思ったより山の上だ。」
小さく呟く。
長秀は思わず笑った。
「今更か。」
「いやもっと平地だと思ってた。毎日登るの?」
「城とはそういうものだ。」
ククリは城を見上げたまま言う。
「絶対面倒くさい。」
長秀は何も言わなかった。
長秀は馬を進める。
岐阜城はすぐそこだった。
そしてその先には。
未来から来たと名乗る少女が会いたがっていた男。
織田上総介信長が待っている。
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信長との対面を前に、礼儀作法を何度も言い聞かせる長秀。だが岐阜城で耳にしたのは、自分たちと同じような「奇怪な少女」が現れたという思いがけない知らせだった。困惑を抱えたまま御前へ進む一行。その先で待っていた光景は、誰も予想していなかったものだった。
次回「なんと奇遇な」
異変は、一人だけでは終わらない。
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