↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国魔法少女〜丹羽長秀と人形少女〜  作者: ザザミス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/56

第54話 降伏勧告

 一、此度の兵は、徳川家そのものを滅ぼすために起こしたものにあらず。


 一、武田が求むるは、ただ徳川家康一人の首のみ。


 一、家康自ら腹を切るもよし、あるいは家臣が討ち取り首級を差し出すもよし。


 一、家康の首が武田へ届けられたならば、武田はただちに兵を退き、徳川の家名・領地・家臣・領民に一切手を触れぬことを約す。


 一、もしこれを拒み、なお兵を挙げるならば、武田は徳川を敵と定め、城一つ、村一つ残さず攻め滅ぼす。


 武田晴信


 ◆


 浜松城。


 本丸の一室には重苦しい空気が流れていた。


 武田よりの使者は既に城を去っている。

 畳の上には、丁寧に認められた降伏勧告が置かれていた。


 酒井忠次が静かに読み上げる。


「……以上にございます。」


 読み終えると、部屋は静まり返った。

 誰も口を開かない。


 あまりにも明快。

 あまりにも残酷な条件だった。


 家康は書状を手に取り、最後まで目を通す。

 やがて畳へ置くと、小さく笑った。


「信玄殿らしい。余計な飾りがない。」


 本多忠勝が拳を握る。


「御屋形様。このような戯れ言、お聞き入れになる必要はございませぬ。」


 榊原康政も頷く。


「左様。徳川武士に、主を売る者など一人としておりますまい。」


 酒井忠次は書状を見つめたまま呟く。


「……されど、民は揺れましょうな。武田は家康様一人で済むと言うております。

 領民の耳に入れば、『殿一人で皆が助かるなら』と考える者が出ぬとは申せませぬ。」


 その言葉に、家臣たちの表情が曇る。

 家康は静かに頷いた。


「そこまで読んで、この書状を寄越したのであろう。人の心を折ることもまた、戦よ。」


 忠勝が一歩前へ出る。


「ならば、なおさら戦うのみ。我らがお守りいたします。」


 家康は忠勝を見て微笑んだ。


「頼もしい。」


 その時。

 廊下を小走りに駆ける足音が近づいてくる。


 障子が勢いよく開き、綾が姿を現した。


「父上!」


 部屋の重苦しい空気を感じ取ったのか、綾は家臣たちを見回す。


「何か、あったのでございますか。」


 家康は書状を静かに畳み、袖へ納めた。


「案ずるな。少々、武田から面白くない文が届いただけよ。」


 綾は家康の顔をじっと見つめる。


 その笑顔が、いつもより少しだけ無理をしていることに気付いていた。



「父上。お願いがございます。」


 家康は綾を見る。


「申してみよ。」


 綾は迷いなく頭を下げた。


「私を戦場へお連れください。」


 その言葉に、部屋の空気が凍り付く。

 家康は間を置かず答えた。


「ならぬ。」


「ですが!」


「ならぬ。」


 重ねた一言に、綾は言葉を詰まらせる。


「私は忠勝殿にご指導いただきました。武芸も以前とは比べものになりませぬ。皆様のお役に立てます。」


「それでも、ならぬ。」


 家康は静かに首を振る。


「武芸の優劣ではない。戦場とは、人が死ぬ場所よ。」


 綾は顔を上げた。


「しかし、武田は父上のお命を狙っております!ならば尚更、私が父上を――」


「綾。」


 家康の声は穏やかだった。


 だが、それ以上言わせぬ響きがあった。


「儂はお前を失いたくない。」


 綾は唇を噛み締める。

 その姿を見た家康は、胸の内で苦笑した。


(まだ二月。生まれて、たった二月なのだ。)


 人の身ならざる成長を遂げ、忠勝すら舌を巻く武芸を身につけた。

 それでも家康にとって綾は、あの日、卵から生まれたばかりの幼子だった。


 沈黙を破ったのは忠勝である。


「恐れながら。」


 家康は視線を向けた。


「何だ。」


「前線へ出すことには某も賛成いたしかねます。なれば、本陣近くにお控えいただくのであればいかがでしょう。御屋形様の御警護としてお傍に置くのです。」


 家康は黙した。

 それが最も理に適っていることは分かる。


 万一、本陣まで敵が迫るようであれば、その時点で綾を隠している余裕などない。

 ならば最初から傍に置いた方がよい。


 しかし。

 戦へ連れて行く。

 その一線だけは越えたくなかった。


 しばらく考えた末、家康は静かに口を開く。


「……綾。」


「はい。」


「前へは出さぬ。儂の傍を離れることも許さぬ。それでもよいなら、同行を許す。」


 綾の表情がぱっと明るくなった。


「はい!ありがとうございます、父上!」


 その笑顔を見て、家康は小さく息を吐く。


「勝手に飛び出せば、その時は二度と戦場へは連れて行かぬ。」


 綾は背筋を伸ばし、深く頭を下げる。


「必ず、お約束いたします。」


 決戦の時は刻一刻と迫っていた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



武田軍は現代兵器を駆使し、徳川本陣へ爆装ドローンによる空襲を敢行。空を裂く死の兵器に対し、片鱗を見せる龍の娘。轟音と爆炎が戦場を飲み込む。


次回「斬首作戦」

人の知恵と異能が、乱世の空で激突する。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。