↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国魔法少女〜丹羽長秀と人形少女〜  作者: ザザミス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/56

第50話 ダンスバトル

 岐阜城大広間。


 広く磨き上げられた板間には、両家の家臣が向かい合うように膳を並べて座していた。


 織田方。

 徳川方。

 酒肴は豊かに用意され、祝いの席に相応しい華やかさである。


 しかし、その空気は決して気の緩んだ宴ではなかった。


 互いに同盟を結ぶ大名家。

 されど武士同士。

 一挙手一投足を見られているという緊張感は、大広間全体を静かに包んでいる。


 上座では織田信長と徳川家康が向かい合って座っていた。


 信長が盃を手に取る。

「家康殿。遠路、大儀であった。」


「このたびのご勝利、誠にめでたく。」

 家康も盃を取り、一礼する。


「浅井、朝倉を降され、中部を平定されたこと。同盟者として、これほど喜ばしきことはございませぬ。」


 信長は満足げに頷いた。


「礼を申す。これも同盟あってのこと。今後とも変わらず頼りにしておるぞ。」


「こちらこそ。よろしくお願い申し上げます。」


 互いに盃を掲げる。

 その様子を見守る家臣たちも、自然と肩の力を抜いていく。


 一方。


 長秀とククリは織田方の席に並んで座っていた。

 ククリは膳をじっと見つめている。


 焼き魚。

 吸い物。

 煮物。

 栗飯。


 視線だけが忙しい。


「……。」


「まだ手を付けてはならぬぞ。」


 長秀が小声で釘を刺す。


「わかってますゥ。」


 口を尖らせながら返事だけはする。

 しかし目は一瞬たりとも料理から離れない。


 長秀は苦笑すると、ふと徳川方へ視線を向けた。


 家臣たちの列。

 その中で一人だけ若い少女が座っている。


 年の頃はおそらくククリと同じほど。


 礼儀正しく背筋を伸ばえているが、その首筋や手には橙色の鱗が覗いていた。


(……飾り、か?)


 ならば話は早い。

 しかし今の長秀は、その程度の異常でも安心できなかった。


(もしや。魔法少女か。)


 長秀は隣へ顔を寄せる。


「ククリ。」


「ん?」


「あの娘は。あれも魔法少女、であるか。」


 ククリは徳川方へ視線を向けた。


「んー?」


 しばらく見つめる。


「……いや。見覚えはないけど。」


 あっさり答えた。


(……信用ならぬ。)


 天音の時もそうだった。

 見覚えがないと言いながら、途中で「あ、知ってる」と思い出した。

 この娘の記憶は当てにならない。


 長秀は改めて徳川の少女を見つめた。


(やはり。気になる。)


 その時だった。


 信長がゆっくり立ち上がる。

 家康も続いて席を立った。


 大広間が静まり返る。

 信長は盃を高く掲げる。


「此度の勝利と。両家の末永き繁栄を願い。皆、盃を取れ。」


 家康も盃を掲げた。


「乾杯!」


 両家の家臣たちが一斉に盃を掲げる。


「乾杯!」


 祝いの声が大広間へ響き渡った。



 ◆



 祝宴も半ばを過ぎる頃には、大広間の空気はすっかり和らいでいた。


 酒が注がれ、笑い声が交わされる。

 織田方と徳川方の家臣たちも、互いに盃を交わし始めている。


 そんな中。

 信長が不意に声を上げた。


「ククリ。」


 料理へ夢中だったククリが顔を上げる。


「何の用……。」


 長秀が横から軽く肘で突く。

 ククリは「あっ」という顔になり、慌てて居住まいを正した。


「……何でございましょうか、信長様。」


 その言い直しに周囲から小さな笑いが漏れる。

 信長も口元を緩めた。


「そう堅くなるな。家康殿へ紹介したい。」


 ククリは家康へ向き直り、ぺこりと頭を下げる。

 家康も静かに一礼を返した。


「これなるが、浅井朝倉を降した娘。」


 信長はゆっくりと言葉を続ける。


「沢渡ククリよ。」


 家康は思わず少女を見た。

 年はまだ幼い。

 背丈も低く、どこにでもいる町娘と言われれば信じてしまうような風貌だった。


 しばらく見つめた後、家康は思わず苦笑する。


「御冗談を。このような幼き娘が、浅井・朝倉を降したと仰せになりますか。」


 周囲の徳川家臣も同じ思いだった。

 誰一人として信じていない。


 信長は笑みを浮かべる。


「ククリよ。少しばかり余興を頼みたいのだが。」


「余興?」


「なに、家康殿を少々驚かせてもらいたい。」


 ククリの顔がぱっと明るくなった。


「宴会芸ってこと?任せんしゃい!」


 ぱんっ。

 軽く手を鳴らす。


 次の瞬間。

 畳が小さく盛り上がった。


 そこから赤子程度の大きさの畳人形が五体、ぴょこんと顔を出す。

 徳川方の家臣たちは思わず息を呑んだ。


「……!?」

「なっ。」

「畳が……。」


 一方。


 織田方からは歓声が上がる。


「いよッ!」

「待ってました!」


 すっかり見慣れた光景なのだろう。

 酒も入っていることもあり、宴席は一気に盛り上がる。


 五体の畳人形は一列に並ぶと、ぴたりと礼をした。


 そして。

 一体が逆立ちを始める。

 残る四体がその上へ次々と飛び乗り、小さな五重塔のような組体操を完成させた。


「おおーっ!」

 拍手が起こる。


 今度は軽快な足取りで跳ね回り始めた。


 腕を振り。

 足を交差させ。

 くるりと回転し。

 勢いよく跳び上がる。


 この時代の舞とはまるで違う。


 五体は息を合わせ、目まぐるしく隊形を変えていく。


 最後は全員が一斉に宙返りを決め。

 きれいに横一列へ着地した。


 ククリが胸を張る。


「ジャァーン!」


 織田方から大歓声が上がる。


「見事!」

「いよッ!『佐和山の人形師』!」

「酒がうまい!」


 徳川方は。

 誰一人として拍手を忘れていた。


 家康は目の前の光景から視線を離せない。


「……も、もしや。噂の者が、この娘であると。」


 もはや確信に至る。

 比叡山の土人形も、岐阜の巨人も、白銀の英雄も。

 全て真実。


 信長は静かに頷く。


「いかにも。魔法少女、という者だ。」


 家康はその言葉を反芻する。


「……まほうしょうじょ。」


 聞き慣れぬ名。

 だが。


 目の前で畳そのものが命を持って踊る光景を見せられては、疑う余地はどこにもなかった。


 ククリは胸を張って信長を振り返る。


「どう!?」


 信長は愉快そうに笑い、手を打った。


「お見事!後ほど褒美を取らす!」


「アザッス!」


 満面の笑みで頭を下げるククリ。

 織田方から歓声が上がる。


「さすがククリ様!」

「相変わらずお見事!」

「もう一つ!」


 酒も入り、家臣たちは完全に宴の空気である。


 一方の徳川方は。

 拍手こそしているものの、歓声は少ない。


 驚愕。

 困惑。

 そして畏れ。

 誰もが、目の前の光景を理解しようと必死だった。


 その空気を見た一人の少女が、静かに立ち上がる。


「父上。」


 綾である。

 家康は娘を見上げた。


「いかがした。」


 綾は信長へ深く一礼する。


「信長様。僭越ながら、私にも余興を披露することをお許しください。」


 信長は静かに頷いた。


「構わぬ。見せてみよ。」


 綾は広間の中央へ進み出る。


「織田方の妙技、まこと見事にございます。されど徳川も、ただ驚いて座してばかりはおれませぬ。」


 凛として響く、芯のあるよく通る声であった。

 そして綾は大きく息を吸い、軽く畳を踏み鳴らす。


「未熟ながら、私も一差し舞わせていただきます!」



 先ほど畳人形が踊っていた激しい舞を、一分違わず身体だけで再現してみせた。


 腕を振り。

 足を交差させ。

 くるりと回転し。

 勢いよく跳び上がる。


 すべてが寸分違わぬ。


「おおっ!」


 今度は徳川方から歓声が上がる。


「綾様!」

「見事!」

「一度見ただけで!」


 織田方からも感嘆の声が漏れる。


「なんという身のこなしだ。」

「人形とはまた違う。力強い舞よ。」


 信長は盃を口元まで運んだまま、その動きを静かに見つめていた。

 家康もまた、表情を変えず綾を見守っている。


 家康が口を開く。


「信長殿。これなるは徳川綾。」


 家康は一呼吸置き、


「龍の娘にございます。」


 宴の喧騒の仲、確かに口にした。

 信長は綾を一瞥する。


 その体に点在する橙色の鱗を見る。


「……龍、とな。」


 それ以上は何も問わない。

 家康もまた、多くは語らなかった。


 二人の間に、短い沈黙だけが流れる。

 その時だった。


「なかなかやるじゃん!」


 ククリが立ち上がる。


「じゃあこれはどうよ!」


 ぱんっ、と手を鳴らす。

 畳人形たちが再び飛び出し、先ほど以上に激しく踊り始めた。


 綾も笑みを浮かべる。


「負けませぬ!」


 人形が跳べば綾も跳ぶ。

 人形が回れば綾はさらに一回転多く回る。

 即興で動きを組み替えながら、互いに譲らない。


 広間は一気に熱を帯びた。


「おおおっ!」

「綾様!」

「ククリ様!」

「そこだ!」


 織田も徳川も関係なく、家臣たちは酒盃を掲げて声援を送る。


 その熱狂とは対照的に。

 上座だけは静かだった。


 信長は盃を傾ける。

 家康もまた、一口酒を含む。


 互いに一瞬だけ視線を交わす。

 言葉はない。


 だが、その一瞬だけで十分だった。


 織田信長。

(徳川もまた、常ならざるモノを得たか。)


 徳川家康。

(ククリなる娘、国の均衡そのものを変える力だ。)



 両雄の心中には、未来への構想が複雑に積みあがっていった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 宴の余興を終え、ククリと綾は無邪気に言葉を交わす。その一方で長秀は、本多忠勝から綾の常識外れの出生と成長を聞かされる。そして、和やかな祝宴は一通の急報で終わりを告げる。武田勢、挙兵間近。織田と徳川、それぞれの思惑が交差する中、少女たちは再会の約束を交わす。


 次回「急報」

 別れの先に待つのは、戦か、それとも再会か。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。