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戦国魔法少女〜丹羽長秀と人形少女〜  作者: ザザミス


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第40話 インターミッション:勉強会そのさん

焚き火の勢いも落ち着き、炭火が赤く揺れていた。

 エリは残った魚を食べ終え、満足そうに息をついた。


「それで、今後の歴史はどうなるの?」


 天音は少し考え込むように腕を組む。


「正直、もう予測困難ですね。史実との乖離が激しすぎて。」

「そんなに?」

「ええ。」


 天音は地面へ小枝を置き、簡単な地図を書き始めた。


「まず現在の織田家ですが、史実より遥かに状況が良い。」


「比叡山は無血制圧。浅井は降伏。このまま朝倉も、おそらく時間の問題でしょう。」


 小枝で北近江から越前へ一本線を引く。


「つまり織田は、本来なら数年かけて消耗するはずだった戦を、ほとんど無傷で終えようとしています。」


「兵も。」

「武将も。」

「兵糧も。」

「金も。」

「時間も。」

「全部温存できている。」


 エリは地面を覗き込む。


「それって、かなり大きい?」

「非常に。」


 天音は頷く。


「戦国時代において、一番貴重なのは時間です。」

「戦をしなければ、その間に田畑は実り、税は入り、兵は訓練でき、城は改修できる。」

「織田はそれを丸ごと手に入れたことになります。」


 エリは「へぇ」と感心したように声を漏らす。


「史実では、この後。」


 天音はさらに地図へ線を書き加える。

 中央部より若干東に大きめの丸。


「武田信玄が西へ進軍します。いわゆる上洛ですね。」

「信長にとって最大級の危機の一つです。」

「でも。」


 小枝を置く。


「私は、それは起こらないのではないかと思っています。」

「なんで?」

「織田が強すぎるからです。」


 史実の信玄は、浅井・朝倉が織田を引き止め。

 各地で戦線が広がっていたからこそ動けた。

 だが今の織田は違う。


「北はほぼ片付き。」

「宗教勢力も大義名分を失い。」

「兵力も国力も温存している。」

「そんな相手へ正面から挑むのは、武田にとっても得策ではありません。」


 エリは腕を組み、


「ふーん。」


 と頷く。


「じゃあ武田は戦わない。」

「私ならそう考えます。」


 天音はそう答えた。

 エリは少しだけ口元を緩める。


「魔法少女がいれば?」


 天音は即座に答えた。


「じゃあもう予測不能ですよ何考えても無駄無駄無駄」


 間髪入れない返答に、エリは思わず吹き出した。


「早い早い。」

「だってそうでしょう。」


 天音はうんざりした顔で川に石を投げ込む。


「魔法少女自体にも能力の質や実力差もあるのに。そんな時点で、今まで積み上げた予測なんて全部紙くずです。」


「結局そこ。」


「結局そこです。」


 天音は肩をすくめる。


「私が歴史を語れるのは、『魔法少女がいなかった世界』まで。これから先は、私にも誰にも分かりません。」





 エリは焚き火へ川の水をかける。

 じゅう、と音を立てて白い湯気が上がった。


 刀を消し、魚が詰まった籠を肩へ担ぐ。


「帰る。」


 天音も立ち上がり、着物についた草を軽く払った。


「今日はありがとうございました。」


「いや、勉強になった。授業ありがとう先生。歴史詳しいんだね。」


「ええ、信者の方に大学の教員の方がいたので色々と。」


 少し歩き出したところで、天音がふと思い出したように口を開く。


「……そういえば。エリさん、飲み込みが早いですね。」


 エリは歩みを止めずに振り返る。


「そう?」


「単純に歴史の知識がないだけで、話を理解するのは非常に早い。普通に頭がいいんじゃないですか。」


 エリは肩をすくめた。


「まぁね。協会仕込みの脳みそだから、質はいいんじゃない。」


 天音の足が止まる。


「……はい?」


 エリは何でもないことのように続けた。


「私。協会に作られた人造人間だから。」


 天音は目を瞬かせた。


「…………。」


 言葉が出ない。

 エリはその様子を気にも留めず、淡々と説明する。


「人造人間。プラス、人造魔法少女。」


「い、いや……。」


 天音はようやく口を開く。


「確かに、その白髪とか気になる点はいくつかありましたけど……。」


 こめかみを押さえ、数秒考え込む。


「そこまでとは思いませんでした。」


「うん。」


 エリは頷く。


「魔法少女ってさ。極端なトラウマとか、異常な体験とか、そういう精神状態が能力の発現に影響することが多いでしょ。」


「まぁ……どうもそうみたいですね。私も親殺しですので。」



「だから協会は考えた。だったら最初から、そういう記憶を植え付ければ人工的に魔法少女を作れるんじゃないかって。」


「うーわ。」


 天音は額へ手を当てる。


「私よりやってることド外道じゃないですか。」


「否定はしない。」


 エリは苦笑した。


「実験体はたくさんいたらしい。」


「家族を殺された記憶。」

「虐待された記憶。」

「戦争を経験した記憶。」

「そういう人生を最初から頭へ入れて、能力が目覚めるか試してた。」

「時には複数の。時には同じ記憶を何度も。」

「他の女の子からコピーしたトラウマを、人造人間に植え付けていった。」


 天音は絶句する。


「でも、みんな失敗。魔法少女になれなかった。

 廃人化する子もいれば、ギリギリ踏みとどまって協会のサポート要員へ回る子もいた。」


 天音は静かに尋ねる。


「それで、エリさんは。」


「唯一の成功例。」


 あまりにも軽い口調だった。


「でも。」


 エリは少しだけ空を見上げる。


「なんかそういう記憶、私には無いんだよね。」

「協会の推測だと『矛盾した複数の記憶が打ち消し合ったのでは?』とか言われてたけど確証は無いらしいし。」

「能力覚醒も三年前で記憶挿入時からはズレがあるし。担当管理官も『わけわかんねー』って言ってた。」


「だから。」


 自分の胸を指で軽く叩く。


「何で私だけ魔法少女になれたのか、誰にも分からない。」





 天音はしばらく黙ったまま歩いていた。

 やがて思い出したように口を開く。


「……そういう話って。言ってしまっていいんですか?協会の規則的に。」


 エリは前を向いたまま答える。


「多分、あんまりよくない。」


「でしょうね。」


「でも。」


 少しだけ笑う。


「天音になら、いいかなって。」


 天音は首を傾げた。


「……なぜです?」


 エリは足を止める。

 天音の方を見て、小さく「ふーん」と呟いた。


「友達だと思ってたの、こっちだけか。」


 天音は固まる。


「…………えっ?今、そういう話でした?」


 エリは肩をすくめる。


「せっかく一緒に死線くぐった仲なのになー。命懸けでサキと戦って。魚まで一緒に焼いたのに。」


 天音は慌てて両手を振る。


「ああもう、違います違います!そういう意味じゃなくて!その……機密とかあるじゃないですか!」

「別に。」


 エリはあっさりと言う。


「話したかったから話しただけ。協会の規則なんて今の状況じゃ意味ないし。友達にならいいかなって。」


 天音は額を押さえ、大きくため息をついた。


「……分かりました。私が鈍かったです。」

「うん。」


 エリは満足そうに頷く。


「まぁいいよ。天音どうせ友達いなかっただろうから。」


 天音の眉がぴくりと動く。


「はぁ!?いましたけど!同年代の信者とか!」


「それは友達じゃない。」


 エリは即答した。


「何でですか!」

「教祖と信者じゃ上下関係。」


「い、一緒にインスタとか撮ってたし!」

「どうせ布教活動の一環じゃないの。」


「ぐっ……。」


 天音は言葉に詰まる。


「ほら。反論できない。」


「で、でも!魔法少女になる前の知り合いとか!」


「いた?」


「……。」


「いた?」


「…………。」


 天音は視線を逸らした。

 エリは吹き出す。


「やっぱり。」


「うるさいですよ!いいじゃないですか別に!」


 二人のやり取りが、秋の夕暮れの土手へ響く。

 笑い声と他愛のない言い合いを続けながら、二人は並んで帰路についた。

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 舞台は武田領へ。未来の知識を売る魔法少女・周防ミシェルは、自ら発明するのではなく、戦国の職人や学者へ知識を託す道を選んでいた。研究に没頭する者たちと、それを支える彼女の商人としての哲学。


 次回「武田文明 科学勝利への道」

 知識は商品。そして文明は、最高の投資先である。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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