第33話 サンドリヨン
「あーそうかい。」
ククリは頭を掻いた。
周囲には木片が散らばっている。
先程までサキを囲んでいた人形たちの残骸だった。
「じゃあお望み通り見せてあげますよ。」
高台。
長秀たちは戦況を見守っていた。
その時だった。
天音を運んできた人形が、てててと長秀まで走ってくる。
何かを持っていた。
小さな棒。
いや、筒だった。
人形はそれを長秀へ差し出す。
「……なんだこれは。」
誰にも分からない。
勝家も。
秀吉も。
信長も。
だが天音と、エリには心当たりがあった。
「マイク?」
「マイク、ですね……」
「まいく?」
長秀が聞き返した、その瞬間。
『長秀さーん、聞こえるー?』
全員が飛び上がった。
秀吉が腰を抜かしかける。
勝家が思わず刀へ手を掛ける。
長秀も数歩後ずさった。
信長は目を見開き、筒を注視している。
筒から。
ククリの声が聞こえた。
「な、なんだこれは!?」
「ククリか?」
『そうそう。ちょっとその人形と握手してくれる?』
「握手……?」
長秀は困惑する。
だが今さらである。
今さら何が起きても驚くまい。
そう思いながら人形へ手を差し出す。
人形も手を出す。
握る。
『よし。』
ククリの声が聞こえた。
次の瞬間。
『補助用AI”サンドリヨン”起動。』
声が変わる。
感情が消える。
女とも男とも分からない。
冷たい声色。
音程のおかしな、まるで幽霊の声のような。
高台が静まり返る。
誰も意味が分からない。
最早声すら出ず、秀吉は腰を抜かす。
勝家も今度ばかりは腰を抜かしかける。
信長も情報量に耐えているのが精一杯であった。
『遺伝子情報登録。丹羽五郎左衛門長秀へ臨時上位者権限を付与。』
長秀が固まる。
『以降、戦闘終了後まで形態変更権限をサンドリヨンへ委譲要請。』
機械音声は続く。
今度はククリの声が答える。
『はい承認。ただしカタストロフとサジタリウスは禁止。』
『了解。終末形態及び射撃形態をロック。』
長秀は助けを求めるように信長を見る。
信長も珍しく黙っていた。
「エリさん、これは?」
「これがククリの本気かな。……私も詳しくは知らないけど。」
理解出来ていない。
それだけは全員共通だった。
そして再びククリの声。
『じゃあ長秀さん。』
妙に軽い。
『終わったら「ストップ」って言ってね。「ストップ」ね。長秀さんの言葉じゃなかったら反応しないから。』
「す、とっぷ……?」
意味は分からない。
だが。
その言葉だけは何故か妙に印象へ残った。
戦場にて。サキは笑っていた。
「何やってんだ?」
余裕があった。
まだ余裕がある。
だが。
その余裕は次の瞬間に消えた。
『形態変更。』
ククリの口から、機械音声が流れる。
『指揮官形態から兵士形態へ。』
ククリの身体が変わる。
最初に見えたのは線だった。
身体中へ格子状の線が走る。
まるで賽の目。
その直後。
ひび割れる。
肌が。
腕が。
脚が。
首が。
全身が。
亀裂を生じる。
戦場の全員が息を呑んだ。
肉体が壊れていく、そう見えた。
だが違う。
剥がれている。
“裏返っている”。
皮膚のように見えていたもの。
肉体のように見えていたもの。
その一枚一枚が反転していく。
その裏側は。
白銀だった。
磨き上げられた金属。
月光を反射する機械の装甲。
人間の肉体がどんどん消え失せていく。
腕が変わる。
脚が変わる。
胸部が変わる。
戦場に沈黙が落ちた。
サキも動かない。
いや。
動けない。
初めてだった。
初めて恐怖した。
醜悪だからではない。
気味が悪いからではない。
本能だった。
何かは分からない。
だがアレは、”違う”ものだ。
その感覚だけが胸を貫いた。
アレはただの機械では無い。
ちょっと強い機械程度なら協会との戦闘で経験している。
人型兵器との戦闘も初めてではない。
だが、アレはそれらと比べるものでは無い。
魔法少女という存在からしても、アレは異常に過ぎた。
「じゃあサキ。」
最後に残った口が。
その言葉を残して反転する。
「殺したらごめんな。」
そして裏返った後には。
金属製の排気口。
そして、AIが告げる。
『システム《クラウンパペット》起動。』
白銀の身体から微かな駆動音が響く。
口のあった部分、排気口から鋭い蒸気音が轟く。
『脅威判定を更新中。』
一秒沈黙。
『更新完了。』
サキが無意識に一歩下がる。
『標的設定。』
機械音声が続く。
『対象、カテゴリ”魔法少女”。個体名、藤宮サキ。』
月光が白銀の身体を照らす。
『戦闘開始。』
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本気を見せたククリを前に、サキの感情が大きく揺れ始める。戦いを会話と信じる少女は、ただ一つの願いを叫ぶ。自分を見ろ、と。
次回「藤宮サキ」
鎖の奥底で、少女の孤独が牙を剥く。
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