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戦国魔法少女〜丹羽長秀と人形少女〜  作者: ザザミス


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第29話 撃鉄姫と刀姫と鎖姫

 じゃらり。


 サキの足元で巨大な鉄球が蠢く。

 鎖がほどける。

 何十本もの触手となって広がる。


 まるで巨大な海の怪物。

 あるいは地獄から現れた百足。


「いいねぇ!」


 サキは笑う。


「まずはお手並み拝見といこうかァ!!」


 鎖が唸る。


 一本。

 二本。

 三本。


 鞭のように。

 槍のように。

 時には破城槌のように。


 地面を抉りながら襲い掛かる。


 その正面。エリは静かだった。



 刀が浮いている。


 一本。

 二本。

 三本。

 四本。

 五本。


 それらが意思を持つように空中を舞う。

 鎖と刀が激突する。


 火花。


 さらに一本。

 さらに二本。


 刀が回る。

 交差する。

 受け流す。


 エリ自身はほとんど動いていない。

 だが周囲の刀がその代わりに踊る。


 鎖が叩き付けられる。

 刀が受ける。


 鎖が絡み付く。

 刀が捻り返す。



 巨大な怪物と剣舞。

 そんな光景だった。


「おお。」


 サキが感心したように笑う。


「お前結構やるじゃん。」


 鎖が二本同時に襲い掛かる。

 エリは一歩前へ出た。


 刀が回転する。

 鎖と刀が噛み合う。


 鍔迫り合い。

 浮遊する刀と生きた鎖が互いを押し合う。


 その隙を。

 天音は逃さない。


 後方、天音は既に移動していた。


 両手の短機関銃《ウージー》が火を吹く。

 戦国時代にはあり得ない、火砲の絶え間ない連続射撃。

 弾丸がサキへ降り注ぐ。


 だが鎖が割り込む。


 火花。

 弾丸が弾かれる。


 さらに天音は位置を変える。

 エリを挟むように角度を変える。


 正面にはエリ。側面には天音。


 どちらかを向けばどちらかが死角に。 

 単純だが強力な挟撃《クロスファイア》だった。


「チッ。」


 サキの顔から少し笑みが消える。

 銃女が邪魔だ。


「うっとおしいなァ!!」


 叫ぶ。

 その瞬間、鎖が伸びた。


 今までの倍。

 いや三倍。


 まるで蛇が獲物へ飛び掛かるように。


 一直線、天音へ。

 地面を砕きながら突き進む。



 兵たちが悲鳴を上げる。

 だが天音は至極冷静だった。


「やっぱり来ますよね。」


 両手の機関銃を投げ捨て、片手を虚空へ伸ばす。

 取り出したのは鉄の筒。


 当然戦国時代の人間は見たこともない、一見するとただの筒。


 だが、現代人ならよく知っている。

 よく映画で登場する、特にミリタリー映画ではお約束の。


 サキが目を見開く。


「は?」


 対戦車擲弾発射器 RPG-22。


 天音は口角を上げながら肩に構え、トリガーを引く。


 鉄筒の後ろから炎が噴き出し、烈風が吹き荒れた。草が薙ぎ倒され、砂塵が舞い上がる。兵たちは思わず顔を庇う。


 次の瞬間、火を引いた矢のようなものが空を裂く。


 それは鎖に触れ、雷鳴にも似た爆音が轟いた。

 激しい爆発と噴煙。


 轟音。

 爆発。

 衝撃波。


 鎖が吹き飛ぶ。

 土が舞う。

 夕陽が見えなくなるほどの土煙。


 天音自身も爆風を利用して後方へ跳ぶ。

 着地。

 本来の爆発であるならただでは済まない距離だが、天音になんら支障は無い。


 もはや用済みとなった筒を投げ捨て、新たな武器を取り出す。


 自動小銃(M4カービン)。

 本来両手で構えるべきそれを、天音は片手で二丁持ち。

 慣れた動作だった。




 天音の異能は『殺意を兵器の形にして具現化する』。

 他人に付与できるのはあくまで副次的効果であり、これが本来の姿である。


 実際の兵器に存在する反動や爆風、バックファイア等は天音を傷つけることはない。


 なぜならこれは天音の殺意から出来たモノだから。


 己の意識から出来たモノが、己を傷つける訳がない。

 殺意とは敵に向けるものであり、己に向けるものではない。


 自傷行為など何の意味もない。自殺など言語道断。



『汝の殺意を肯定せよ』。



 これが桐原天音にとっての真実であり権能である。




 サキは爆煙の中で目を見開いていた。


 流石に。

 流石に予想外だった。



「ハ、ハハハ、ロケランまで出せんのかよ。」



 声が漏れる。

 楽しい。

 これぞ命の獲り合い、究極のコミュニケーション。


 その時。

 左側。

 爆煙の死角。


 白刃が煌めく。

 エリがその白髪を靡《なび》かせて吶喊《とっかん》する。


 刀を従え一直線。

 地を滑るような踏み込み。



 首を狙う。

 胴を狙う。

 心臓を狙う。


 複数の刃が同時に迫る。



 そして。

 サキは笑った。

 心の底から。


 獲物を見つけた猛獣のように。



 ◆



 戦国の兵たちは遠巻きにその戦いを見ていた。

 誰も近付けない。


 近付くという発想すら生まれない。

 目の前で行われているのは戦ではない。

 少なくとも彼らの知る戦ではなかった。


 岐阜城下を見下ろす高台。


 信長はそこにいた。


 柴田勝家。小姓たち。

 そして今しがたたどり着いた、息を切らせた木下藤吉郎秀吉。


 秀吉はようやく信長の前へ辿り着くと、その場へ膝をついた。

 髪は乱れ、着物も着崩れている。普段の秀吉を知る者なら、これが同じ男かと疑うほどの有様だった。


「信長様。木下藤吉郎、た、ただいま参上仕りました。」


 信長は軽く目を向けるとすぐさま遠くの戦いに目を戻す。


「おうよ、サル。大儀であった。」


 勝家は戦闘から目が離せず、労いもそこそこに秀吉に問う。


「秀吉よ、どうなっておるのだ。あの鎖の娘は何者か。」


 信長は遠くの戦闘を見ながら秀吉を促す。


「長秀からの早馬では仔細は全く分からぬ。説明せよ。」

「は、ははぁ!」


 秀吉は、自らが遭遇した怪物について語り始めた。


 浅井方に現れた鎖の少女。


 横山城を一撃で破壊したこと。

 自分が捕縛され、無理やり案内役にされたこと。

 そして比叡山を落とした人形使い――沢渡ククリを探していること。


 途中から勝家は言葉を失っていた。

 話の内容があまりにも常軌を逸していたからだ。


 しかし信長だけは最後まで静かに聞いていた。

「放置すれば織田家存亡の危機」と言い切ったところで口を開いた。


「サル。」

「は。」

「もうよい。」


 秀吉は思わず顔を上げる。

 信長は前方を見ていた。


 夕暮れの城下外れ。

 土煙が立ち上り、ときおり雷鳴のような音が響く。


 遠目でしか見えないが、それでも異様さは十分伝わってきた。

 何本もの鎖が大蛇のように暴れ回り、その間を幾筋もの刃が舞っている。

 そこへ絶えず何かが撃ち込まれ、時折大地そのものが爆ぜる。


 もはや戦ではない。

 妖怪同士の喧嘩を見ている気分だった。



「見ておけ、サル。」

「……は。」

「俺はこれまで多くのものを見てきた。」


 信長は戦火を背景に静かに語り始める。


「鉄砲が伝わった時もそうだ。初めは誰も大して気にも留めなかった。だが今や戦の形そのものを変えつつある。」


 秀吉は黙って聞く。


「南蛮船もそうだ。堺の商人もそうだ。新しいものは最初、皆が笑う。だが後になって世を変える。」


 そう言った信長は再び戦場へ目を向けた。

 そこでは既に何度目か分からぬ爆発が起きている。

 兵たちは近付くことすら出来ず、ただ遠巻きに見守るだけだ。


「あれらのどちらが勝ったとしても、もはや今までの道理は通用せぬ。池に投げ込まれた石のごとく、巨大な波を引き起こすだろうよ。」


 そこまで言って、信長は思わず笑った。


「これが何者かの意図だとしたら、なんとも雑な者よ。投げ込んだ石が大きすぎるわ。池ごと空にする勢いではないか。」


 秀吉は考え込む。

 織田信長をもってしても、あれらは御せぬ怪物であるというのか。


「……と、ところで殿。あの二人のどちらがククリなる娘なのですか?」


 話を変えるように秀吉は問う。

 一見して人形などは使ってないように見えるが、やはり何らかの暗喩であったのか。


「……サルよ。どれだけ必死であろうと、人の話は聞くものだぞ。」


「は……?」


 信長は呆れた様子で溜息を吐き。

 勝家が肩を竦めながら言った。


「ククリは先ほどまで、長秀殿と共に佐和山城におったのだ。今まさに、長秀殿と共にこちらへ向かっておる所だろう。」


「……で、ではあの二人が敗れた場合は……」

「あの鎖の娘は怒り狂い、この城も破壊するであろうな。」


 秀吉の膝が震え、これまでの疲労と共に崩れ落ちる。

 慌てて小姓らが支える。


 信長は視線を戦場へ向ける。

 夕日が沈みかけ、闇が訪れようとしていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 城下を揺るがす異能同士の戦いは、新たな局面を迎える。互いに力を探り合っていた均衡は崩れ、戦場には圧倒的な速度と破壊が吹き荒れる。変化する戦況を前に天音とエリは即座に対応を迫られ、見守る者たちもまた、その激しさに息を呑むのだった。


 次回「双頭の蛇」

 力とは、速さと重さ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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