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戦国魔法少女〜丹羽長秀と人形少女〜  作者: ザザミス


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第28話 城下の三人

 岐阜城下。


 美濃の中心。

 信長の本拠。


 夕陽が西へ傾き始めていた。

 城下町には帰宅を急ぐ商人や農民の姿が見える。


 だが。

 その外れを見張っていた兵たちは、遠くに現れた異様な影を見つけた瞬間に顔色を変えた。


 巨大な鉄の塊。

 その下から何本もの鎖が足のように伸びている。


 まるで巨大な蜘蛛《くも》。

 あるいは地を這う妖怪。


 その上には一人の少女。

 そして一本の鎖にぶら下げられた男。



 木下藤吉郎秀吉は疲労困憊だった。


 肉体的にも。

 精神的にも。

 道中ずっと神経を擦り減らしていた。


「信長様は今岐阜におられます。」

「へぇ。」

「ただこの先の街道は雨で荒れておりまして。」

「じゃあ別の道。」

「そうですな。」


「こちらの方が安全かと。」

「ふーん。」


「最近賊が出るそうで。」

「あ?別に殺しゃあいいだろ。」

「い、いや賊程度にサキ様の手を煩わせるわけには参りませぬ!」



 一つ一つ。


 慎重に。

 露骨にならぬように。

 不自然にならぬように。


 回り道を挟む。

 遠回りをする。


 少しずつ。

 少しずつ。

 時間を稼ぐ。


 幸いだったのはサキが地理を知らないこと。

 そして思ったほど短気ではないことだった。


 途中で農民が悲鳴を上げて逃げた。

 商人が荷車を捨てて逃げた。

 寺の僧が念仏を唱えながら転げ落ちた。


 だがサキは気にしない。


 秀吉も気付いた。


 この少女は。

 他人へ興味が無い。

 少なくとも自身と同等以上の存在にしか興味が無い。


 ククリ。

 今はただそれだけで動いている。


 そうしてただひたすらに揺られ続け。

 ようやく。

 ようやく岐阜へ辿り着いた。


(間に合っていてくれ。)


 秀吉は祈る。

 人生でこれほど神仏へ祈ったことはない。


 そして。

 城下を見下ろす丘へ差し掛かった時。


 秀吉は息を呑んだ。


 いた。

 二人。


 城下へ続く道の真ん中。


 夕陽を背負い。

 静かに待っている。


 一人は長い茶髪の少女。

 落ち着いた着物姿。


 もう一人は白髪の少女。

 ぼんやりした表情。



 周囲には軍勢もいる。

 だが近付いてはいない。

 遠巻きに囲んでいるだけだ。


 誰も前へ出ない。

 出られないのだ。

 対岸の火事にわざわざ近づく馬鹿はいない。



 サキも気付いた。

「へぇ?」


 興味深そうに目を細める。


「同類かな。」


 笑う。


「ククリ以外にもいたか。」


 その瞬間、秀吉は投げられた。


「うおぉっ!?」


 鎖が解かれる。

 体が宙を舞う。

 何とか地面を転がり受け身を取る。



 肩が痛い。

 肘も痛い。


 だが。

 生きている。



 秀吉は即座に立ち上がる。

 もはやサキは秀吉など眼中にない。


 一目散に走った。

 信長の元へ。


 振り返る余裕は無い。

 振り返りたくもない。


 後ろでは既に怪物同士の会話が始まっていた。



「どうも。」


 茶髪の少女が一礼する。


「桐原天音です。」


 白髪の少女も続く。


「協会所属のエリ。」


 そして。

「あなた、黒蛇組《くろへびぐみ》の藤宮サキだね?」


 サキは片眉を上げた。


「お。あのクソ協会の下っ端ね。」


 少し嬉しそうだった。

 そして辺りを見回す。


「んで?ククリは?」


 天音は小さく息を吐いた。


「まずは前座の私たちがお相手しましょう。」



 そう言って、虚空へ手を伸ばす。


 次の瞬間。

 二挺の短機関銃が現れた。


 見慣れぬ黒い武器。

 天音はそれを自然な動作で両手に構える。


 夕陽を浴びた銃身が鈍く光る。


 エリは一歩横へ出る。

 相変わらず眠そうな顔のまま。


 そして指を鳴らす。

 次の瞬間、どこからともなく刀が現れ地に突き刺さる。

 一本、二本、三本、四本、五本。


 その刀はエリの手に応じ浮き上がり、宙に舞う。


 サキはそれを見ていた。

 数秒沈黙。


 そして。

 口元が吊り上がる。


「ハハ。」


 肩が震える。


「ハハハハハ!」


 楽しそうだった。


 心の底から。

 ようやく面白い玩具を見つけた子供のように。


 夕陽の中、鎖が鳴った。


 じゃらり。

 鉄の音が静かに響き。


 一瞬の後。


 黒鉄の怪物が二人に殺到した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 鎖が唸り、刃が舞い、轟音が夕暮れの岐阜城下へ響き渡る。誰も近づけぬ戦いを前に、信長らはその行方を見据えていた。異能を持つ少女たちの激突は、勝敗だけでは終わらない。戦国という時代そのものへ、新たな問いを突き付けていく。


 次回「撃鉄姫と刀姫と鎖姫」

 誰も知らない時代が、幕を開ける。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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