↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国魔法少女〜丹羽長秀と人形少女〜  作者: ザザミス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/56

第16話 上杉謙信と血抜き少女

 春日山城《かすがやまじょう》。


 越後国《えちごのくに》を治める上杉家の本拠。


 山全体を要塞とした巨大な山城であり、越後の守りそのものと言ってよい城である。


 その館の中庭で、上杉家の重臣たちは揃って頭を抱えていた。


 長尾景虎《ながおかげとら》改め、上杉謙信。


 直江景綱《なおえ かげつな》。

 柿崎景家《かきざき かげいえ》。

 甘粕景持《あまかすかげもち》。


 名将と呼ばれる男たちが一様に困惑している。


 戦なら分かる。

 政なら分かる。

 妖術ですらまだ分かる。

 だが目の前の存在だけは理解できなかった。


 庭石の上に少女が寝転がっている。

 年の頃は十五、六。

 ボサボサとした黒髪。


 着ている衣服は奇妙だった。

 肩や腹が露出した傷んだ服に、膝上までしかない短い下衣。

 布は破れ、ところどころ擦り切れている。


 この時代のどの身分にも属さぬ格好だった。

 だが不思議と不潔さは感じない。


 顔色も良い。

 肌も健康的だ。

 むしろその辺の農民より血色が良いくらいだった。

 問題はそこではない。




 少女の手首から血が流れている。

 そして、流れた血は地面に落ちず、宙へ浮かび上がる。


 そして槍を二本ほど縦に重ねた高さの場所に集まり、巨大な赤黒い球となっていた。




 球はゆっくりと回転している。見れば見るほど気味が悪い。

 そして刻一刻と、血の球はその大きさを増していった。


 しかし当の本人は欠伸をしながら寝転がっていた。

 まるで昼寝でもしているようだった。


 謙信は額を押さえた。


 しばらく黙って様子を見ていたが、状況が改善する気配はない。


「娘よ。そろそろ良いか。」


 少女は顔だけ向ける。


「なに?」


 声は暗い。

 やる気も無さそうだ。


 だが病人のような弱々しさは無い。

 ただ全てが面倒そうなだけだった。


 謙信は空を見上げる。

 頭上で回る血の球。


「先程から気になっておるのだが、その血はいつまで続く。そのまま見過ごして良いものか判断がつかぬ。」


「あー、これ?」


 少女も上を見る。


「別にいつでも止められるよ。」


 その返答に重臣たちが安堵しかける。

 しかし次の言葉で全員の思考が止まった。


「じゃあ止めた血どこに捨てればいい?」


 謙信が聞き返す。


「捨てる?」

「うん。溜まってるじゃん。汚いし。」


 少女は当然のように上空を指差した。

 謙信は数秒黙り込む。


「川……?」

「川はまずいと思う。」


「何故だ。」

「多分死人が出る。」


 少女はさらりと言った。


「私の血、結構毒だから。」


 場が静まり返る。

 誰もすぐには反応できない。

 柿崎景家がようやく口を開いた。


「……毒?」

「うん。」

「血そのものがか。」

「そう。」

「それは、どの程度の……?」

「あー、触ったら溶けるよ?手が。」


 あまりにもあっさりした返事だった。


 まるで今日は雨が降るらしい、程度の口調である。


 謙信の息が止まりかける。

 そして慎重に言葉を選ぶ。


「娘。その状態はどれほど維持できる。」

「溜めるだけなら結構。」


 少女は寝返りを打つ。


「眠くなったら解けるけど。」

「解けると?」

「落ちる。飛び散る。」


 再び全員が上を見る。

 巨大な血の球。

 誰もその先を想像したくなかった。


「だから急いでね。」


 少女はそう言って起き上がった。

 そして懐から短刀を取り出す。


 嫌な予感がした。

 謙信だけでなく全員が同じことを思った。


「待て。待て待て待て!」


 謙信が制止する。

 しかし少女は止まらない。

 何の躊躇もなく短刀を首筋へ当てる。


 ざりっ。


 皮膚が裂けた。

 鮮血が噴き出る。


「何をしておる!」


 柿崎が叫ぶ。

 直江も立ち上がる。


 しかし少女は平然としていた。

 まるで痛みを感じていないようだ。


 流れた血は再び宙へ浮かび、上空の球へ吸い込まれていく。

 少女はその様子を見ながら肩を竦めた。


「だって時間かかりそうじゃん。どうせしばらく相談終わらないでしょ。だったら今のうちにもうちょっと抜いとこうかなって。」


 言っている意味が分からない。

 いや、言葉の意味は分かる。

 分かるからこそ理解できない。


「……あー。イイね。スッとしてきた。首からはいい感じで抜けるんだよね。」


 少女は目を細めた。

 少しだけ嬉しそうに。

 少しだけ安心したように。


「汚い汚い私の血。どんどん抜いていかないとね。」


 その瞬間。

 謙信は本気で眩暈を覚えた。


 武田信玄と渡り合った男。

 数万の軍勢を率いた男。

 その男が今、生涯で最も理解できない存在を前にしていた。


 身体がぐらりと傾く。


「殿!」

「御館様!!」


 直江と柿崎が慌てて支える。

 辛うじて倒れなかった。


 少女はそんな騒ぎを眺めながら首を傾げる。


「おじさん、なんでそんなに慌ててるの?貧血?」


 本気で不思議そうだった。

 悪意も無い。

 嘲笑も無い。

 ただ純粋に理解できないという顔だった。


 それが余計に、上杉家の重臣たちを困惑させていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 未来から来た少女たちが各地へ現れる中、蝦夷ではこれまでとは異なる異変が始まっていた。異常な力を得た獣たちが人々を襲い、その中心には一人の幼い少女が立っている。無邪気な笑顔の裏で語られる壮大な夢は、この戦国の世にさらなる混乱を呼び込もうとしていた。


 次回「蝦夷の女王」

 獣の軍勢が、新たな時代を名乗り始める。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。