第11話 また明日
信長の部屋を辞した後。
長秀と勝家は並んで廊下を歩いていた。
日は傾き始めている。
岐阜城の廊下に差し込む夕陽は美しかったが、それを楽しむ余裕は二人には無かった。
勝家が大きく息を吐く。
「五郎左。儂は今、戦の後より疲れておるかもしれん。」
長秀は思わず笑った。
「拙者も同感です。未来人に異能、聞いたこともない組織に宗教勢力。半日で聞く話ではございませぬ。」
「戦ならば良い。」
勝家は腕を組む。
「敵がおる。味方がおる。斬るか斬られるかだ。だが今日は何一つ分からぬ。」
「全くですな。」
長秀も頷いた。
二人とも歴戦の武将である。
分からぬことには慣れている。
だが今日は質が違った。
知識が足りないのではない。
常識そのものが噛み合わないのだ。
しばらく歩いてから、長秀はふと思い出した。
「そういえば勝家殿。」
「何だ。」
「エリ殿はどのようにして勝家殿の元へ現れたのです。」
勝家は苦い顔をした。
「聞くか。」
「ええ。」
「笑うなよ。」
「努力します。」
勝家は少しだけ考えた。
そして語り始める。
「ある日、屋敷へ突然現れた。白髪の童が一人でな。どこから入ったかも分からぬ。最初は当然追い返そうとした。」
それは長秀のところへククリが来た時と同じだ。
長秀は内心で頷く。
「ところが兵が刀を抜いた瞬間だ。」
勝家が続ける。
「刀が浮いた。」
長秀は足を止めかけた。
「浮いた。」
「ああそうだ、浮いた。」
勝家は真顔だった。
「兵が握っていた刀も。腰に差していた刀も。壁に掛けてあった刀もだ。」
長秀は思わず想像する。
刀が勝手に宙へ浮く。
不気味極まりない。
「そして儂の周囲に数十本の刀が並んだ。切先を儂に向けてな。」
勝家がため息を吐く。
「それは。」
「中々に肝が冷えた。」
勝家がそう言うのだから相当である。
「後で聞けば刀を生み出し、操る力らしい。しかも他人の刀でも刀である以上は操れるとな。」
長秀は思わず唸る。
それは戦国武将にとって極めて相性の悪い能力だ。
武士の多くは刀を持つ。
つまり近くにいるだけで武装解除されるに等しい。
「その後は。」
勝家が続ける。
「ククリの話を聞いていると大体同じだな。妙な話を始め、訳の分からぬ異能を見せ、結局は信長様へお目通りさせることになった。」
「なるほど。」
長秀は苦笑した。
どうやら二人とも同じ道を辿ったらしい。
異能を持つ少女。
常識外れの能力。
そして信長への報告。
そこまではほぼ同じだった。
ただし。
「未来人の話は。」
長秀が尋ねる。
「無かったな。」
勝家は即答した。
「少なくとも儂は聞いておらぬ。」
「やはりそうでしたか。」
つまり今日の場で初めて判明した情報だったのだ。
長秀は窓の外を見る。
夕暮れの城下町。
行き交う人々。
誰も知らないだろう。
城の一室で五百年後から来た娘たちが歴史を語っていることなど。
「勝家殿。」
「何だ。」
「これからどうなると思われますか。」
勝家は即答しなかった。
城下を見下ろしながら考える。
本気で考える。
だが。
やがて首を横に振った。
「わからぬ。」
長秀は苦笑した。
「同感ですな。」
未来人。
魔法少女。
異能。
協会。
撃鉄教。
どれ一つとして先が読めない。
長秀は戦の先を読むことには自信があった。
だが今は違う。
明日何が起きるのか。
あの三人が何を語るのか。
信長が何を考えるのか。
何も分からない。
勝家もまた同じだったらしい。
「五郎左。」
「は。」
「明日は今日以上に疲れる気がする。」
長秀は静かに頷いた。
それだけは確実だと思えた。
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信長の計らいで同じ部屋に泊まることになったククリ、天音、エリ。軽口を交わしながら互いの過去や未来の出来事を語り合う三人だったが、話題はやがて「この時代をどう生きるか」という問いへ移っていく。それぞれの価値観がぶつかり合う中、ククリが迷いなく口にした答えは、天音の胸に小さな波紋を残す。
次回「ガールズトークしようぜって言ってんの」
三人三様、その信念が語られる夜。
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