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戦国魔法少女〜丹羽長秀と人形少女〜  作者: ザザミス


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第10話 授業中断

 天音の能力についての説明が終わると、部屋の中に妙な静寂が落ちた。


 信長は腕を組みながら考え込んでいる。

 長秀も同様だった。


 だが最も深刻そうだったのは勝家だった。

 勝家は額を押さえ、大きく息を吐く。


「……殿。」


「何だ、権六。」


「少々待っていただきたい。」


 信長が眉を上げる。


 勝家は真面目な顔だった。


「異能の娘が三人。」

 指を一本立てる。


「未来人。」

 二本目。


「宗教勢力。」

 三本目。


「数万の異能者。」

 四本目。


「人を守るための巨大組織。」

 五本目。


「誰にでも異能を与える異能。」


 そこで手を下ろした。


「正直申しますと、頭が痛くなって参りました。」


 部屋が静まり返る。

 次の瞬間。


 信長が吹き出した。


「ははははは!」


 長秀も思わず笑いそうになる。

 確かにその通りだった。

 半日で聞く話ではない。


 勝家は戦場で幾度も死地を潜り抜けた猛将である。

 その男が敵軍ではなく情報量に押し潰されかけていた。


「殿。」


 勝家は続ける。


「本日はここまでとしてはいかがでしょうか。」


「ふむ。」


 信長も考える。

 そして頷いた。


「よかろう。」


 信長は三人の少女を見る。


「俺も聞きたいことは山ほどある。」


 そう言って笑う。


「だが一日で聞き尽くせる量ではないな。」


 天音が安堵したような顔になる。

 エリも少し肩の力を抜いた。

 ククリだけが首を傾げていた。


「もう終わり?」

「お主はまだ話せるのか。」


 勝家が呆れる。


「うん。」

「若いな。」


「権六さんも若そうじゃん。いくつ?」

「おい。」


 長秀が睨む。

 ククリは慌てて口を閉じた。

 信長は楽しそうに笑う。


「よいよい。」


 そうして一同が席を立とうとした時だった。

 長秀はふと気になっていたことを思い出す。


「待たれよ。」


 全員が長秀を見る。

 長秀は天音へ視線を向けた。


「お主は未来を知っていると言ったな。」

「ええ。」

「ならば。」


 長秀は続ける。


「これから起こることも知っているのか。」


 部屋が静かになる。


 信長も。

 勝家も。

 エリも。

 ククリですら天音を見る。


 天音は少し考えた。


 そして。


「当然知っています。」


 そう答えた。

 長秀は思わず身を乗り出しかける。


 だが。

 天音は続けた。


「もっとも。」


 苦笑する。


「もうこの時点で、私の知っている未来とはかなり食い違っています。」

「食い違う。」

「ええ。」


 天音は周囲を見回す。


「そもそも私の知る歴史に、ここで信長様と話している未来人三人なんて存在しません。そしてここからの行動により、更に本来の歴史とは外れていくでしょう。」


「ふむ、成程な。」


 信長が笑う。

 確かにその通りだった。


「ですから。」


 天音は肩を竦めた。


「私が知る未来は、もはや参考程度でしょうね。」


「ふむ。」


 長秀は納得半分、疑問半分だった。

 だが信長は違った。


「良い。」


 信長が言う。

 その声には先程までの面白がる色が無かった。


「未来云々は聞かなかったことにする。」


 長秀と勝家が信長を見る。

 信長は腕を組んだまま続けた。


「余計な諍いを生む。」


 部屋が静かになる。

 長秀は理解した。


 もし未来を知る者がいると広まれば。

 家臣たちは聞きたがる。

 敵も聞きたがる。


 都の公家も。

 寺社も。

 大名も。


 誰もが未来を欲しがる。

 それは争いの種になる。

 信長はそれを嫌ったのだ。


「五郎左。」

「は。」

「権六。」

「は。」


「この話はここまでだ。お主らも聞かなかった事にせよ。」


 二人は頭を下げた。

 信長は満足そうに頷く。


 そして再び笑った。


「明日だ。」


 三人の少女を見る。


「まだまだ聞きたいことがある。」


 ククリがすんすんと鼻を鳴らす。

 天音がため息を吐く。

 エリは諦めたように頷く。



 未来の話を打ち切った後、部屋の空気は少し緩んだ。

 信長も立ち上がり、今日の話は終わりという雰囲気になる。


 そこで信長が何気なく尋ねた。


「して、お主らはこれからどうする。」


 最初に答えたのは長秀だった。


「拙者は城下に宿を取っておりますので、そちらへ。」


 本来なら岐阜城内に部屋を用意されても不思議ではない。

 だが今回は急な来訪だった。

 長秀自身も数日で帰る予定であり、城下に滞在していた。


「ふむ。」


 信長が頷く。

 するとククリが露骨に不満そうな顔になった。


「えー。」


 全員が見る。


「せっかく城来たのにー。」


 長秀は頭を抱えたくなった。

 城は観光地ではない。

 だがククリの感覚ではそう変わらないのだろう。

 信長はむしろ面白そうだった。


「構わぬぞ。」


 あっさり言う。


「部屋は余っておる。」


 ククリの顔が明るくなる。

 だが。

 信長はそこで何か思いついたように笑った。


「いや、そうだな。」


 嫌な予感がした。

 長秀だけでなく勝家も同じだったらしい。

 そして案の定だった。


「天音の同室でよいのではないか。」


 沈黙。

 天音が固まる。


「えっ。」


 ククリは即座に乗り気だった。


「おっ、いいじゃん!」


 身を乗り出す。


「パジャマパーティーしようぜ!」

「パジャマ無いけど。」


 エリが真顔で返した。


 長秀には何の話か分からなかった。

 だが未来の娘たちの遊びなのだろう。

 勝家も同様らしく、深く追及しない。


「エリもそのようにするか。」

「私も?」

「年頃の近い童同士、仲良くするといい。」


 勝家はごく自然に言った。


 戦国の価値観では珍しい話ではない。

 旅先で見知らぬ娘同士が同室になることもある。

 ましてこの三人は同じ未来人だ。

 共通の話題も多いだろう。


 そう考えるのは自然だった。


「まぁいいけど。また山降りるの面倒だし。」

 エリもその気のようだ。


 ただし。

 一人だけ納得していない者がいた。


「いや。いやいやいやいや。」


 天音が手を挙げる。


「ちょっと待って下さい。」

「何だ。」


 信長が聞く。


「さっき言いましたよね。」


 天音はククリを指差した。


「私たち一応殺し合った仲なんです。」


 もっともな意見だった。

 長秀も頷く。

 確かにそうだ。


 教祖と討伐者。

 普通なら同室どころではない。


 だが。


「いいじゃん。」


 ククリが言う。


「細かいこと気にしない。」

「細かくないですって。」

「もう終わった話だし。」

「ああもう何この子……」


 エリが横から口を挟む。


「私は別に平気。」

「エリさんはそうでしょうね。」


「ククリ、寝相悪そう。」

「お、よく分かるね。実はそうなんだよ。」

「ああやっぱりね。」

「お?もしかして今ちょっと馬鹿にした?」

「ソンナコトナイヨ」


 天音は頭を抱えた。

 信長は豪快に笑う。


「ははは!」


 そして言った。


「どちらも今ここで争う気は無いのだろう?」


 天音が黙る。

 ククリも黙る。


 しばらくして。


「まぁ、無いですね。」


 天音は頷き、


「私も無い。」


 ククリも頷く。


 信長は満足そうだった。


「ならば良し!」


 戦国武将らしい結論だった。

 長秀は内心で苦笑する。


 実際、この時代では珍しくない。

 昨日まで敵だった者が今日には味方になる。

 共に酒を飲む。

 同じ陣で寝る。


 そんなことは幾らでもある。

 もちろん武将同士の話ではあるが。


 そう考えれば。

 未来人の娘三人が同室になるくらい大したことではないのかもしれない。


「では決まりだな。」


 信長が言う。


 天音は天を仰いだ。


「えー。」


 本気で嫌そうだった。

 だが。


「まぁ、いいですけど。」


 そこで言葉を切る。


 ククリを見る。

 ククリは既に楽しそうにしている。


「はぁ。なんでこんな子に負けたんですかね……」


 天音の口から漏れたのは、敗北を認めた人間の声だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 信長のもとを辞した長秀と勝家は、それぞれが出会った未来人について語り合う。異なる能力、異なる出会い方――だが共通していたのは、誰も常識では測れない存在だったということ。戦なら先は読める。しかし彼女たちだけは読めない。歴戦の武将たちは、静かに明日への覚悟を固めていく。


 次回「また明日」

 新たな一日が、さらなる驚きを連れてくる。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

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