ベビーカステラ
「ぐぁ!?当たったのになんでだ?」
小学生に混じり、射的で騒がしい薫くん
もう何回目だろうか
私はというと、さっきゲットしたベビーカステラをはむはむと
昔から好きなんだよね
「薫くんまだやるのぉ?」
「ぐっ…仕方ない、諦めも肝心という奴か」
その言葉が出てから何回やったっけなぁ
「樹くん食べる?」
「ん…ありがとう」
樹くんとベビーカステラ…なんか笑える
あ、そうそう、樹くんも薫くんも浴衣でした
これがまた…カッコいいんだな
あの後…
「私チャラ男ってきらぁい」
「あの顔でナンパはないよなぁ」
薫くん…また随分と上から目線で
「茜ちゃん、浴衣似合ってんね」
「へへっ…薫くんもいい感じ、カッコいいよ」
「だろぉ?樹は乗り気じゃなかったんだけど、俺がゴリ押しして…着たら着たで似合ってるし…よかったろ?樹」
「ん…薫には負けるぞ?」
「まぁそうだろうねぇ」
…薫くんらしいかな、その自信満々な感じ
でも…確かに2人とも似合ってるなぁ
今の私って、はたから見たら両手に花状態だったりして
「いつも以上に可愛い茜さん、どこから行きます?」
「て、照れるよ…そうだなぁ…」
ちょっとだけ、浮かれてます
「花火までまだ時間あるんだよねぇ」
ある程度屋台を見終わって、食べたいものも食べて、やることも無くなってきたのです
可愛い子供神輿が通り過ぎて行く
「薫くんは…また射的?」
「いや、さすがにもういいわ…」
近くのベンチに座り、さすがに薫くんもちょっと疲れたみたい
私も、慣れない下駄で足が…
「樹は…例の場所行くのか?」
「ん…薫も来るか?」
「いやいや、俺は屋台回れれば十分だし、邪魔だろ?」
「いや、別に…」
「あーはいはい、樹はそういう奴だもんな、ま、今日の俺はサポートでいいし、なんなら自分で見つけるし」
「…ほどほどにな」
「その言葉、頑張れって意味で受け取るぜ」
???
ええっと…さっきからなんの会話でしょうか?
私、取り残されてます
「じゃ、茜ちゃん今日はありがとねぇ」
急に薫くんは立ち上がり、そう言って立ち去ろうとする
「へっ?花火見てかないの?」
「俺は屋台で十分なんだな、それに、2人の方がお似合いだぞ…じゃ、まったねぇ」
あ、あっさりと行ってしまった
隣の樹くんも小さく手振ってるし
お似合いって言われても…そ、そんな…
「っ…」
と、隣が見れない
さっきまでは普通だったのに、急に緊張が…
「ん…じゃ、行こっか」
「ふぇ?」
ま、間抜け過ぎな返事が
だって、こんなドキドキ状態じゃムリもないよぉ
促され後ろをついて行く
他の人たちも、そろそろ始まる花火を見ようと近くで見れる広場の方へ
しかし、私たちはその流れに逆行するように進んで行く
もちろん歩きにくくて
「ちょ、ちょっと待って」
周りの熱気というか、圧倒力というか
人も多いし、慣れない下駄だし
「ん…」
「んん!?…い、いい樹くん?」
ごく自然なように手を握ってきた樹くん
よく、お祭りで離れ離れにならないようにっていうんで手を握るのは聞いたことあるけど
ドラマとかアニメだけと思ってたし
まさか私が…手汗、大丈夫かな
「………」
しゃ、しゃべれない
言葉が出ない
なんなら樹くんの顔も見れない
だって、今の自分が凄く真っ赤だもん
嬉しさはある
飛び跳ねたいくらい
でも、それ以上に恥ずかしさが勝り過ぎている
樹くん…
「ここ…閉まってるよ?」
さっきまでの温もりがじわじわと冷めていく
それが寂しくて、ギュって握ってもダメで…
握られてたときはあんなにドキドキして、冷静さなんてこれっぽっちもなかったのにねぇ
「ん…許可はもらってる」
樹くんが連れてきてくれたのは、最近通い慣れてきた珈琲屋さん
そう、喫茶自鳴琴
慣れた手つきで鍵を開け中へ
「し、失礼しまぁす」
なんか…ちょっと怖い感じがする
もちろん店内のレイアウトとかはわかってるんだけど…夜の学校が不気味に感じるのと一緒かな
「2階なんてあったんだね」
カウンターの奥に入り2階へ案内される
多分…マスターの書斎なんだろうな
本棚にはいっぱいの本が
その中央には椅子とテーブルのセット
ってか、これだけしかない
「ちょっと待っててな」
そう言い残すと、樹くんは1階へと降りて行った
えっと…なんだろ、この気持ちは…
わくわく?
ドキドキ?
おろおろ?
なんか…居心地が悪いというか、落ち着かないというか…うん、落ち着かない
この言葉がぴったりだ
「っ!?な、なに!?」
急に部屋のライトが消える
わかるのは、窓から差し込む光だけ
「ん…」
「っ!?…び、びっくりしたぁ」
「すまん…」
いつの間にか樹くんが戻ってきてたみたい
顔は見えないけど…
「えっと…」
「………」
私の前まで来てなにも言わない樹くん
…す、すごい不安なんですけどぉ?
真っ暗で、2人っきりで、この状況…ドキドキが、ヤバイっす
もしかして、もしかして、もしかしてぇぇぇ???
ヒュー…ドーン
この音は…まさしく花火!
振り向けば、光が差し込んでた窓の向こう、それも中央に大きな大輪の花
「綺麗…」
思わず言葉がこぼれる
というか、この言葉しか出てこない
「これ…見せたくて」
隣には樹くん
なんか、めちゃくちゃいい感じじゃない?
この状況、神だぁぁぁ!!!
「こ、こんなとこに穴場があったんだね…」
ドキドキで上手く言葉に出来ない
さっきまでは花火に意識が行ってたけど…樹くんに意識がいってからは…
「ぅ…」
「…」
樹くんが普通過ぎるのか
私が意識し過ぎなのか
と、とりあえず、花火に集中しよう
でも…
「…そういえば…さ…」
「ん?」
「…浴衣…可愛いんじゃないか?」
「ふぇ?」
一瞬、なんのことを言ってるのか理解できなかった
樹くんと目が合い、ほんの少しだけどにこってした感じがして…
ヒュー…ドッカーン!!
特大の花火が上がった
しかも連発で、止まりそうにないくらい
祭囃子が終わりに向かおうとしてる中、この特大連発花火は言うことを聞いてくれないようだ




