ドッグフード
「ここの動物園何年振りだろう」
少し先を行くりぃたんがそうつぶやく
隣にはクラスで仲のいい男子
事情は知ってるらしい
英太…って言ったっけな
「俺小学校の時に来た以来だなぁ…りぃ動物好きだったん?」
「特別にって訳じゃないけど…改めて来たら面白そうじゃない?」
「俺ウサギに追い回された記憶がある」
「ウサギに!?嘘でしょ!?」
「いやマジマジ」
「………」
前の2人は楽しそうだなぁ…
あんな感じで、お互い友達感覚だからりぃたんも誘ったんだろうなぁ
「い、樹さんはここ来たことあります?」
「いや…初めて」
私の隣には樹さんが…私服だとちょっと新鮮で、それだけでなんだかドキドキと…
わ、私はいつもと変わんないお気にのスカートで…別に着飾ってもいなくて…
なんか…意識し過ぎ?
「紗希ぃ、置いてくよぉ〜」
「あ、ちょっと待ってよぉ〜」
いつの間にか距離があいていたみたい
頼むから2人っきりにしないでぇ〜
「うぉ!また来やがった」
「あはは…英太がそんなにいっぱい人参持ってるからでしょ〜」
門をくぐったところではウサギが放し飼いになってて、自由に餌の人参があげられるようになっている
好かれてるのか嫌われてるのか…英太くんの周りには無数のウサギが…
りぃたんも楽しそうだな
「お腹空いてるんだね、この子たち」
私が持ってる人参スティックを、美味しそうに食べてるウサギさん
い、癒されるぅ〜
「…食べるか?」
私の隣にしゃがんだ樹さんも同じように…って近っ!?
か、顔がすぐそこですけどぉ…
「…食べない」
「へっ?」
あわあわしてた私は樹さんのつぶやきでハッとする
見れば…確かに樹さんが人参をあげようとしてるウサギさんは、目の前に人参が来ても無反応
口にちょんちょんってやっても…やっぱり無反応
「う〜ん…この子だけお腹いっぱい?」
「…どうだろうな」
「貸して」
「ん」
樹さんの持ってた人参を受け取り、私もあげてみる
「あれ?…食べた」
「………」
きょとんとして…ちょっぴり寂しそうで…
「あ!樹さんご飯の邪魔しないのぉ!」
「ん…すまん」
突然、樹さんがウサギのほっぺをツンツンしたのだ
ふふっ…もしかして、樹さん悔しかった?
「ちょ、ムリムリぃ」
「だぁいじょうぶだってぇ」
やって来たのはライオンの餌やりコーナー
網を挟んで目の前にいるライオンに、お肉をトングで掴んであげられるんだけど…
これが想像以上の迫力で
テレビではライオンとたわむれるおじいさんがいたけど…
「樹くんはできるぅ?」
「ん…大丈夫」
りぃたんから渡されたトングを持って、ささっとライオンの大きな口にお肉を
ウサギさんは食べてくれなかったのに、なんでだろ…
「上手じゃん…じゃ、次紗希ねぇ」
「ん」
「ちょ、りぃたんホント無理だってぇ!」
私にトングを渡そうとしてくる樹さん
いや、ホントいいからぁ
「紗希頑張ってぇ」
「頑張ってって言われてもぉ」
「………」
うぅ…ライオンさん、そんな牙を私に向けないで下さいぃ
「…ほら」
「ふぇっ?」
ふと、私の手が暖かいなにかに包まれる感覚がした
それが、樹さんの手だと認識するのにどれくらい時間を要しただろうか
気づけば、私は樹さんの両手とともにトングを握らされていた
目の前にライオンがいるのに、怖さはほとんどない
いや、それ以上に…
「ん…できた」
「う、うん…ありがとう」
樹さんの優しい顔
私の手から樹さんの手が離れていく
なんだろ…絶対、心臓のドキドキは早くなってる
普段なら、多分恥ずかしくて、収まれぇってなってる
でも、それ以上に穏やかな気持ちというか、居心地がいいというか、ぼーっとしてるっていうか…
樹さんから…目が離せない
「さぁきぃ」
「へっ!?…あ、ふぁ…な、なに?」
思いっきりにやついたりぃたんの顔が目の前に来て、ハッと我に帰る
「固まってるよぉ…ほら、次行こ」
「う、うん」
樹さんと英太くんはすでに先に行っていた
りぃたんに促されて私も歩き始める
と…
「樹くんて…大胆なとこあるんだね」
「な!?」
りぃたんが私の耳元でそう囁く
一気に顔が火照っていくのが自分でもわかった
「顔赤いぞぉ」
「り、りぃたんあのね!」
りぃたんは…意地悪だ
「い、犬はマジムリだから!」
「いいからほらぁ!」
英太くん…めっちゃ嫌がってるし
りぃたんは強引に腕を引っ張って行こうとしてるけど…
ってか、犬って普通動物園にいる?
ペットショップだけかと思ってたけど
ここも、エリアの中で犬が放し飼い状態
お客さんが好きにボールで犬と遊んだり、ドッグフードをあげたりできる
ドッグラン並みの広さはあるかな
「わわっ…ちょっと、じゅ・ん・ば・ん!」
ドッグフードを持って行ったらすぐに犬達が寄って来て、立ち上がってねだってきた
犬は好きだけど、こ、こんなにいっぱいはぁ…わわ
「い、樹さん助けてぇ〜」
私よりも大きな犬も立ち上がって来て、思わず樹さんに助けを求める
樹さん、チワワと遊んでる場合じゃないっすよ
「…ほら、こっち」
私の手からドッグフードを受け取り、やはり苦労しながらあげてる樹さん
高く上にあげたドッグフードを求めて、前から横から、犬達が立ち上がってくる
「…凄いな」
「ふふっ、樹さん大丈ぶぅわわ!」
大丈夫?って言おうと思ったら、急に大きな犬が私に向かって立ち上がって来て、バランスを崩し、そして…ドンっ
「っと…」
「っ!?」
私の体は、見事に収まっていた
それも…樹さんの腕の中に
抱きとめた感じ…とでも言いましょうか
見上げること45度
ち、近い
「わわっ…えっと、あの…」
「…よしよし」
「っぅぅぅ!?」
あ、あああ、頭なでなではち、ちょっと…
「い、い、いい樹さん、なにをぉ?」
「…食べるか?」
「い、犬じゃない!!」
はぁ…なんか疲れた
いつも以上に感情の起伏が激しかったからだろうか
その原因…悪い意味ではないけど、私を揺さぶっているのは…
「…」
お腹を押すとキュッて音がなるぬいぐるみで遊んでいるこの男
樹さん…また幼稚なもので遊んでますね
…ぬいぐるみが可哀想です
「…樹くん、意外に幼稚?」
「かもねぇ…ってりぃたんもかい!」
ライオンのパペットを手にはめ、私の顔をがぶっと
えっと…前が見えません!
「どうだった?今日のデ・エ・ト♡」
「デートって…なんか疲れたよ」
「ありゃ?楽しくなかったの?」
「楽しく…は…」
そう言われ、思い返そう…としてすぐやめた
だって、危うく顔が真っ赤に…
「もう赤いぞ?」
「なっ!?」
り、りぃたん、心が読めるんですか
「紗希ってこんなにわかりやすかったんだね」
「ぅ、うるさいなぁ…りぃたんは英太くんとないの?」
「ん?ないない、あいつも私もそこだけは共通認識だからねぇ…今日の収穫は、樹くんかなぁ」
「やっぱり狙うの?」
「違う違う…ホントにつまんない人だったらどうしようかと思ってたけど…紗希と合ってるんじゃない?」
「なっ!?」
なんでそうなるの!?
私だけあわあわしてて…バカみたいで…不釣り合いでしょ?…
「別にくっつけなんて言わないよ、紗希の好みも、樹くんの好みだってあるし…ただ…羨ましいくらいの2人になるのは確実なんじゃない?お互い居心地がいいというか」
「………」
ライオンの餌やりの時のことが思い出される
あの時は、自分でも不思議な感覚で…今まで味わったことなくて…決してイヤな感覚でもなくて…
「紗希も、いい加減恋に恋してないで、前向きになりな」
「…りぃたんだってまだ彼氏いたことないクセに」
「ありゃ、痛いこと言ってくれるなぁ」
なんか…嬉しかった
私には、素敵な友達がいます
感謝感謝です♡
「じゃ、また明日ねぇ〜」
「えぇ〜…」
前言撤回しよう
私と樹さんだけを残し、去って行くりぃたんの背中を見て私は思った
これは…くっつけと言ってるようなもんじゃないですか?
「………」
「え、えっと…」
な、なにを話せばいいんだぁぁ
前なら普通に話せたのに、りぃたんがデートって言葉を口にしてからおかしくなってしまった
い、意識してまうやろぉぉ!!
「…疲れたか?」
「へっ?」
むしろ話しかけられ、これまた間抜けな返事が
「い、いや、大丈夫です、久しぶりの動物園、楽しかった」
「そっか…ちょっといいか?」
「は…はい…」
間抜け過ぎやろぉ!
「…お待たせしました」
いつもの席、いつもの香り
でも、いつもと違って私だけ
りぃたんもあぁちゃんもいない
「か、可愛い…」
さらにいつもと違う珈琲
ガムシロが鎮座していない
いや、それ以上に…
「たれ耳わんちゃん…可愛い」
ラテアートって言うんだっけ…初めて見た
「飲むのが勿体無いよぉ…でも、なんで?」
「ん?…感謝…かな」
「私に?」
「…こんなつまんない男と1日…ありがとな」
「い、いや、そんな…こちらこそです」
思いがけない樹くんからのサプライズ
私も嬉しさマックスで…りぃたんの言葉が思い出されて…
「あ、あの…」
「ん?」
恋に恋してないで前向きに…少しはなれたかな




