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未定  作者: ちゅう
25/50

マルボロ

ピピピという目覚ましの音を止めながら上体を起こす

今日もいつもの1日が始まる

ベットから立ち上がり、軽く伸びをする


「…おはよ」


あれから毎日繰り返している

返ってくることのない挨拶

無意味なことは理解している

余計自分を苦しめていることも自覚している

しかし、続けているのは本能からだろうか



同じ制服を着た集団に紛れ、高校へと歩を進める

いつもと変わらぬ景色

全国、そこらじゅうで同じような景色はあるんだろう

それを、退屈な日々と表現する人もいるが…退屈なくらいがちょうどいい


「ウーッス」

「…おはよ」


薫は…今日も変わらないな

そのことに嬉しさを感じる人は少ないのだろう


「昨日出された課題、学校着いたら写させてくれ」

「…またやってないのか?」

「当たり前だろ?」


開き直りも、ここまで来ると気持ちいいものだな


「お、今日もいるぜ」


そう言って薫の視線を追えば、黒髪セミロングの女の子がこっちを見て立っている

気付いたのか、こちらに軽く手を振ってくる

それに対し、薫はというとオーバーと言えるくらいの手の振りよう

…誰かのコンサートか?


この光景も、日常になりつつある


「茜ちゃん…可愛いよなぁ」

「…」

「んだよ!無反応かぁ?」

「ん…あぁ…うん…」


どうなんだろうか…


「今日も樹を待ってたんだろ?いいよなぁ」

「…俺か?…薫の方がモテるんだろ?」

「んあ?俺はダメダメ、軽いって言われてるのは俺自身も自覚してるし…なんか違うんだよなぁ」


Mens Always Remember Love Because Of Lomance Only

男は真実の恋を見つけるためにいくつも恋をする

マルボロの語源と言われてるこの一説

薫もなのか…


「おはよう」

「うっスー」

「…おはよ」


茜はそう言って、薫と俺の間に入ってくる

…こうして登校するようになった最初の頃か

薫が俺の方にいた茜に対して文句?…ひがみ?…を言ったことで茜の位置が決まった

モテる薫の割には、こういうことを気にするのか


「茜ちゃんのクラスの飯塚さんってどんな子なの?」

「なに?また別の女の子狙ってるの?薫くんも相変わらずだねぇ」

「そんなんじゃねぇって」


高校に向かいながら、いつも通り薫と茜の会話が続く

…この2人の方がお似合いだとは思うが…

そんなことを薫に言えばまたひがむんだろうな

俺はというと…まぁいつも通り…


「じゃぁまったねぇ」


自分のクラスの前で茜と別れる

結局…と言ってもいつも通り、俺と茜の会話はなかった

それでも、茜はあの一件以来、毎日俺らと一緒に登校している

あいつなりには楽しいのだろうか…



放課後

今日もバイトに向かおうと教室を出る


「あ、樹くん」


声のした方を向けば、朝見た顔がまたそこに


「今日なんだけど、お店行っていい?」

「ん…大丈夫だと思うぞ」


珈琲の勉強を始めて、やってみたいって言ってて…実際に淹れてみるのか


「最初から美味しく淹れるのは…難しいよね?」

「ん…俺も…まだ満足はしてないかな」

「うそぉ!?あんなに美味しいのに?」

「ぅ…ぅん」


そういえば、俺の淹れた珈琲がきっかけでって言ってたっけ

なんか…嬉しいもんだな


「私の当面の目標は樹くんだからね」

「ん…その…頑張ってくれ」

「はぁい」


…俺も…頑張んないとな



「じゃあ樹、頼んだぞ」


そう言いながら、俺の肩を叩く

そして、注文を聞きにお客さんのところへ

…俺がバイトし始めて、この姿を目にするのは初めてだな


「…マスター…行っちゃったね」

「ん…まぁ…任せたってことだろうな」


マスターの気遣いというか、お節介というか…

…人に教えるのは苦手なのだが…


「あんれぇ?新しいバイトさんですかぁ?」


珈琲の淹れ方を教えていると、俺にとっては聞き慣れた声がカウンター越しからかかる

顔を上げれば、明るい茶色の髪がよく似合う女の子の姿


「…今日もありがとな」

「どもどもぉ…新しく入ったんですかぁ?」

「いや、珈琲の練習というか、体験というか…」


俺がここでのバイトを始める前から、彼女はここの常連だった

うちの高校とそう離れてない女子校の学生で、いつも友達数人と来ては、課題をしたり、雑談を交わしたりしている

確か…紗希(さき)といったか


「もしかして…彼女さん?」


その言葉に、なぜか大きく反応する隣の茜

…まぁ…こんな俺が相手と思われたらイヤだよな


「…紗希、わかって言ってるだろ?」

「べっつにぃ〜そんなこともないけどなぁ」


明らか過ぎるこの反応

いつものことだが…


「樹さんにその手の話がなさ過ぎるんですよぉ」

「…紗希も同じようなもんって言ってなかったか?」

「ひっどぉい…これでもモテるんですよ?」


紗希が相手だと…どうも調子が狂う


ちゃっかりと2杯目の珈琲を持って席に戻っていく

もちろん、大量のガムシロップも一緒に

お子ちゃまと言ったら少し怒ってたっけ


「…中断して悪かったな」

「ぅぅん…大丈夫」


少し伏目がちな茜


「樹くん…今日は、ここまででいい?」

「ん…構わないけど…」

「うん…また、お願いするね」


マスターに挨拶して、足早に店を出て行く

いつもより少し声が小さく感じたのは…俺の気のせいではないと思うが…


「もう、あがっても構わないぞ」

「ん…お疲れ様でした」


紗希も帰り、お客さんもあと1人になった頃、マスターに声をかけられる

店を出て、疲れた顔をしたサラリーマンに紛れ家路を辿る

苦味の効いた珈琲の香りが、いつもより残っていた

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