二章・六話
罪人はピエロに導かれるまま、街のとある建造物に迎えられた。
煉瓦造りのありきたりな建物で、内装は流行りに乗った豪華な飾り付けが施されていた。
「おいおい。此処で研究しろってのか?」
「さすがにこの建物じゃ無理だろうね。でも、此処からでないと行けないんだよ」
「行けない…?ここは儀式の場か何かで、魔術で彼方の世界に行くってか?」
「違うよ。彼方の世界じゃ、君の研究は出来ないだろう?ちゃんと此方の世界でやるよ」
罪人は胡散臭いと嘲笑いながら、ピエロについていった。
ピエロはリビングのカーペットのど真ん中で立ち止まり、カーペットに描かれた円形の模様の中心を足で強く押した。
すると、ガタンという物音がし、物音の方を向くとソファが倒れてソファのあった場所に地下へ降る為の階段があった。
「この下に君に使ってもらう場所がある。敷地は充分だと思うし、自由に使ってくれて構わない。ただし、人間にバレてはいけない。この家にはサーカス団の連中が住んでいる。見つかるなよ」
ピエロはそう言うと、階段を降って行った。罪人もそれに続く。
「そりゃバレないようにするさ。私としてもバレたらとんでもないことになるしよ。それに、私が此処を出ることは無いだろうからな」
「それぐらい研究に没頭してくれれば此方も助かるよ。」
一瞬の静寂の後、罪人は声を落としてピエロに向き直った。
「それで、お前の願いとはなんだ。それに何故私なのだ。お前は私の事を云う程、知らない様だが?」
ピエロは首を傾げた。
「君の名前なら知っているよ。イルザ・ヴァイアーシュトラスさん、でしょう?君の生い立ちも知っているよ。全て解った上で君に頼んでいるんだ」
ピエロは着用していた首巻きを取り、罪人に手渡した。
「その首巻きは魔術で作った中々に珍しい代物さ。僕の願いを叶える上で必ず役に立つよ」
「だからその願いとは何なんだ。いい加減吐け」
ピエロは少しも変わらぬ笑みで、とんでもない事を云い放った。
「世界中の妖や魔術師を此処に集めて欲しいんだ。
僕の研究の為に」
「馬鹿云うな!それがどんな事か分かって言っているのか?世界を滅ぼせと言っている様なものじゃないか!」
「分かっているよ。直ぐにとは言わない。それに世界中全ての妖や魔術師とは言わない。能力の高い者を集めて欲しい」
ピエロのしようとしていることの恐ろしさを、罪人は骨身に滲みて理解していた。
罪人は苦虫を噛み潰した様な顔をし、焼け爛れた右目を抑えた。
「古傷が痛むのかい?大丈夫さ。何も心配は要らないよ。僕に全てを委ねてしまって構わない。それに、今僕を失うのは君にとっても辛い筈だよ」
ピエロの甘言が忌々しくて仕方が無いと云う惰性と、このままその言葉に甘えてしまいたいと云う本能の狭間に揺れる心を必死に肉体に留め、罪人はピエロを真っ直ぐに見つめた。
「私の願いを叶えろ」
「契約成立。だね」
つづく




