二章・四話
「はぁ…はぁ……」
ビエールイは居なかった。きっと私同様、“夢の声”に連れられてしまったのだろう。
「独りぼっち…か…」
胸の奥がじんと痛む。あの時、ビエールイと逃げていれば。“夢の声”に惑わされることなく、真っ直ぐに駆けていれば。
でも不思議だった。本当の孤独なんて初めてで、本の中の物語じゃ計り知れない不安と恐怖にうち震え、混乱して頭が真っ白になる筈なのに。
「……お化けは、みんなと幸せになることなんて、できないんだ…」
あの日以来、私は初めて涙を流した。
自分でさえ涙の意味が解らぬまま、街路樹の下で蹲った。
-------なぜ泣くの?
あの声だ。
-------此方へおいでよ。
嫌だ。
-------妹さんを守りたいんでしょう?
そう言ってお前は見捨てさせたじゃない。
-------選んだのは他でもないあなたでしょう?
お前が言わなきゃ良かったんだ。
-------あのまま二人で死にたかった?
そんな訳ないでしょ。
「ならもう一度僕に頼ってよ」
脳裏に直接焼き付けるように聞こえていたその声が、私の間近で聞こえた。
顔を上げると、不気味な程に眩しい笑顔をした青年が、私に手を差し伸べていた。
「おいで。妹さんと幸せになるお手伝いをしてあげよう」
薄暗くじめじめとした地下牢。
一人の罪人が、壁に文字列を刻み続けていた。
「…これが…………実現すれば……私は……!!」
ガシャン、カコン。牢の錠前の外される音に、その罪人は自ら外した轡を落とした。
「騎士団長が面会を求めておられる。速やかに面会室へ移動しろ」
見張り番の言葉に、罪人は鼻で笑った。
「面会?はっ。笑わせるのもいい加減にしな。私は下等なヒト無勢に合わせるツラなんざ持ち合わせてねぇよ。とっとと消えろと言っておけ」
「無礼者が!!騎士団長に向かっ「お待たせ、新入りくん」
「……誰だてめぇ」
「僕は君と同じ様なものさ。夢で話しただろう?僕の所で働けば、君の望みは叶うと」
見張り番の亡骸を踏みつけ、面会者は罪人に微笑んだ。
「君の願いを叶えてあげよう」
つづく




