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君の隣に  作者: ミサ
第2章
30/35

その29

 ---何で、俺じゃないんだ---


 ---あいつよりも俺の方が、お前の事をずっと前から好きだったのに---


 俺は夢の中で、そんな事を思っていた。


 ---私も、あなたの事が好きよ---


 夢の中で彼女の声が聞こえ、何度も何度も『好き』と囁いた。俺はその声に安心すると深い眠りについた。



「ん…っ…」

 俺は喉の渇きと、いつもと違うリネンの感触に目を覚ました。

 目の前には高い天井があり、室内はベッドサイドの明かりだけで薄暗くよく見えない。

「あ……起きた?」

 ベッドの上に起き上った俺に、誰かが囁くように声をかけた。

「ここは…?」

 すると目の前に、ミネラルウォーターのペットボトルが差し出された。

 差し出した手に視線を移し、その人物の顔を見上げる。

「麻生? 俺……何で…」

「朝倉君、みんなが注いだお酒を全て飲んで、酔いつぶれたのよ」

 メイは呆れたように呟いた。

 あぁ、そうだ---橋本と話をした後、みんなから祝杯と称してお酒を注がれて、俺は自棄になって全て飲んだんだ。 メイからペットボトルを受け取ると、俺はキャップを開け水を飲む。

 渇いた喉に流し込んだ水は冷たかった。

 水を半分ほど飲み、人心地つくと周りを見渡す。

「ここは?…」

「私が泊まっているホテル。夜遅くこんなに酔った状態で家に送っても、おばさん達に迷惑になるかなと思ったから」

「……ごめん、帰るよ」

 そう言ってベッドから出ようとして……身体がふらついた。

 そんな俺を、メイは支える様に抱き止める。

「無理よ。まだ酔いは醒めてないんだから。ベッドは2つあるから泊ってって」

「そうはいかないだろう。男と一緒に泊まったって知られたら……」

「朝倉君は友達・・でしょ? それにここに連れてきたの、林原君だし…」

「林原? だったら家に送ってくれたらいいのに」

「そうはいかないわよ。もう深夜だし、林原君は麻美ちゃんと一緒に帰る事になってたし…私がここに運んでってお願いしたの。あ、服を脱がせたのは林原君だから」

 メイに言われて自分の格好を見る。上半身はシャツを脱がされアンダーシャツ、下半身はボクサーブリーフだけの格好だった。

「シャツとパンツが、しわになったら困るだろうって……クローゼットにかけてあるから」

 心なしか焦り気味の俺に対し、メイは何でもない事の様に淡々と答えた。

「あ、あぁ……ありがとう」

 そう答えるとメイは、抱き止めていた俺の身体から離れた。

 それが何故か寂しく感じるのは、酔っているからだけじゃない。

「わかったら大人しく寝てちょうだい。私は明日、おばさんと美樹ちゃんに会うから、早めに起きなくちゃいけないの。もう眠らないと……じゃ、おやすみ」

 そう言って自分のベッドの方へと行くと、掛け布団をめくりその間へ身体を滑り込ませる。まるで俺など存在しないかの様に、すぐに寝息が聞こえてきた。

 その光景の一部始終を俺は呆然と見ていたが、次第に睡魔が襲ってきた。

「---俺も、寝るか」

 まだ酔ってふらついている体をベッドに横たえて、隣のベッドですやすやと眠っているメイを見ながら瞼が落ちる瞬間にそっと呟いた。

「おやすみ……」

 そして俺は眠りについた。



「おはよう、朝倉君」

 耳もとでメイの声が聞こえてきて、俺は浅い眠りの中から意識を浮上させた。

「…んっ……今、何時だ?」

 俺は痛む頭を押さえながら、ゆっくりと目を開けた。そこには、心配そうに俺の顔を覗き込んでいるメイがいた。

「今、朝の9時だけど、朝食どうするかな? って思って。何かルームサービスとる?」

「いや、いいよ。食欲ないし、気分悪い」

 そう言った俺に、メイは一旦姿を消すと再び戻ってきて、ミネラルウォーターを手渡した。

「喉渇いてるんじゃない? 二日酔いは水分多めに摂った方がいいよ」

「サンキュ」

 俺は受け取ると一気に飲む。冷たい水が体中に沁みこむ。少しだけ生き返った様な気分だった。

「私はそろそろ出かけるけど、朝倉君はどうする? なんなら今日はここで眠っててもいいわよ」

「いやっ、そんな迷惑はかけられない。俺も帰るよ」

 慌てて言う俺をメイは手で制した。

「そんなに慌てなくていいわよ。どうせあと2日泊るし、私は今から朝倉君の家に遊びに行くから。夕方までは眠ってても大丈夫よ。気分かなり悪いでしょう? ゆっくりしてたら?」

 メイの言葉に俺は一瞬心惹かれた。夕方まで眠れば体調も元に戻るだろう。俺が考え込んでいる間に、メイは出かける準備を終えていた。

「じゃ、行ってくるから寝ててね。それから私が帰って来るまでは部屋にいてよね」

「何で?」

「鍵置いて行くから……勝手に帰ってもらったら困る」

「…フロントに預けて行けばいいだろう」

「---それはそうだけど……あと、話したい事もあるし」

「話したい事?…」

 俺が聞き返すと、メイは頷いた。

「だから……ここにいて。じゃ……行ってきます」

 そう言うと、俺の返事も聞かずに部屋を出て行った。



 俺はメイが出て行った後、また眠ってしまい、次に目を覚ますとすでに午後になっていた。

「うわっ……もう、こんな時間か? 風呂でも入るかな」

 そう独り言を呟き、着替えが車にあることを思い出した。

 どうする? 取りに行くか。

 さすがに2日続けて同じ下着や服を着る気分にはなれなくて、俺は部屋を出ると地下に駐車してある車へ着替えを取りに行った。

 部屋に戻り、風呂へ入ろうとバスルームへ向かう。

 熱いシャワーを浴びると、少しすっきりしてきた。二日酔いもだいぶ治まってきている。これならもう大丈夫だろう。

 ホテルに備え付けのローブを着てバスルームから出ると、髪をタオルで拭く。

 その時、部屋をノックする音が聞こえた。時計を見るとまだ4時を少し回ったところだった。

 メイが帰って来たのかと思った俺は、何も考えずに扉を開いた。

「麻生、早かったな?」

「え? 朝倉君?」

 開いた扉の前に居たのは、驚いた様な表情のリョウだった。




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