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君の隣に  作者: ミサ
第2章
31/35

その30

「……リョウさん」

 俺とリョウはドアを挟んで、お互い状況が呑み込めずに立ち尽くしていた。

「あ、ごめん……お邪魔みたいだね? 帰るよ」

 先に我に返ったリョウが気まずそうに言うと、そのまま廊下を歩いて行く。

「うわっ、待って下さいっ! リョウさん、誤解してます」

 俺はそう言うと、大きな声でリョウを呼び止める。

 彼は俺の言葉にゆっくりと振り向いた。

「誤解?」

「はい---俺と麻生は昨日、中学の同窓会があって、俺が酔いつぶれてしまったので部屋に泊めてくれただけで、何もありません。それに彼女は朝から出かけていて、今部屋にはいません」

 俺の言葉を聞くと、リョウはふっと笑った。

「なんだ、俺はてっきり2人上手くいったと思ったのに……いや、近くまで来たからついでに話を聞きたかったんだけど……まぁ、いいか、次にでも聞くよ」

 そう言って手を上げると、再び廊下を歩いて行った。

 その後ろ姿を俺は呆然と見送っていた。




「ただいま……って、どうしたの?」

 夜になってようやくメイが帰って来た。両手にはお土産であろう紙袋がぶら下がっている。

 それを受け取り、俺はそのままソファへと座り込んだ。

 メイは羽織っていたジャケットを脱ぐと、バッグと一緒にクローゼットへとしまう。

 それから俺の傍まで来ると、不思議そうな顔でこちらを見た。

「何? まだ気分悪いの? 冴えない顔してるけど……」


 気分……最悪だよ。


 俺はため息をつくと、メイの方を見上げた。

 彼女はまだ俺の方を見ていたので、お互いの目が合った。

「……夕方、リョウさんが部屋を訪ねて来た」

「リョウさんが?」

「あぁ……近くまで来たから話を聞きたい…とか何とか言ってたけど……それよりも悪い! 誤解されたかもしれない」

「え? 誤解って?」

 頭を下げた俺にメイが首を傾げた。

「実は、リョウさんが訪ねて来た時、俺は風呂から出たばかりで……その、バスローブしか着ていない状態でドアを開けてしまった。そしたら彼が『お邪魔したね』って……本当に悪かった! 俺、リョウさんにもう一回事情話すから」

 するとメイはゆっくりと首を左右に振った。

「麻生?」

「大丈夫……朝倉君が事情を説明する必要なんてないから。私とリョウさんは最初から付き合ってなんかいない……」

「ど…う…いう…意味だ?」

「リョウさんの恋人は唯香さんよ。唯香さんが一方的にリョウさんに別れを告げてしまったので、その理由を探る為に私と付き合っているって言って、彼女の嫉妬心を煽ろうとリョウさんが考えたの」

 ……何だよ…それ…

「だから朝倉君が気にする事なんて何もないから…」

「お前はそれでいいのか?」

「え?」

 メイが俺の顔を見た。そんな彼女に何故か苛立ちを覚える。

「だって……そうだろう? お前の気持ちを知ってて、リョウはそんな残酷な事をお前にしたんだぞ? 許せるのか?」

「朝倉君?」

 俺の言葉にメイが不思議そうな顔をした。

「許せるのか? そんなにリョウが好きか? 唯香から奪い取れるとでも思っているのか?」

「な…にを…言ってるの? 私はそんな事思ってないし、そもそもリョウさんに恋愛感情なんて持ってない」

「は?」

 麻生? お前、何言ってるんだよ---

 俺が唖然とした顔で、メイを見ていたために彼女ははぁっとため息をついた。

「私はリョウさんの事は仕事仲間としては好きだけど、恋愛対象としては見てないよ---それに、私には昔から好きな人がいるもの」

 メイの言葉に俺の心臓がズキッと痛んだ。

 ---昔から好き? それって一体---

 無言の俺に構わずにメイは更に話し続ける。

「私は『その人』の事を中学校の頃から好きだった---初恋だったわ。だけど、彼は私のことなんてただの『クラスメート』としてしか見てなかったと思う。それに彼は背の高い子は好きじゃなかったの」

 は? 待て……何、言ってるんだ。

「私はずっと嫌われてるって思ってた。でも再会した時、『友達』だって言って貰えて嬉しかった。それだけで良いって思ってたのに……だんだん欲が出てきて『友達』だけでは嫌だと思うようになった---そんな時にリョウさんから『2人で恋人のフリしてあの2人に嫉妬させないか?』って言われて、つい話にのってしまったけど---馬鹿よね、朝倉君が嫉妬なんてするはずないのに……むしろ応援されちゃったし」

 そう言うと真っ直ぐ俺の方を見た。

「麻生?」

「ごめんね、いきなりこんな事言って……迷惑なのは分かってる。だけど誤解されたままは嫌だったから……朝倉君、悪いんだけど帰ってくれる? さすがに今、2人でいるのは辛い」

「……あ、あぁ…」

 突然のメイの告白に俺は何も考えられず、彼女の言う通り帰り支度を始めた。

 自分のバッグに着替えを詰め終わるとメイの方を見たが、彼女は窓の外を見たままこちらを見ようとはしない。俺は小さくため息をつくとその背中に声をかけた。

「じゃ……帰るよ」

「うん、気をつけてね」

 振り向く事もなくメイは答えた。

 俺はそっとメイの部屋を後にした。

  

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