その28
「いらっしゃいませ!」
扉を開けると、威勢の良い声が店内に響いた。入口にいたスタッフに予約の名前を告げると、すぐに奥の個室へと案内される。
「おぉ! 朝倉、来たな」
部屋の中にはすでに大勢のクラスメートが集まっていて、誰がどこにいるのかさえ判別出来ない。
そんな中、林原が俺に気づいて合図を送ってきた。その林原の声につられて、中にいた面々が一斉に振り向いた。俺は一瞬その光景に怯んで、恐る恐る片手を上げて挨拶する。
「よぉ、みんな久しぶり」
そんな俺の方を見て、みんな驚いた様な顔をしている。
何で? 俺、何かしたか?
「……さ…つき…ちゃん?」
林原の横に座っていた後藤の視線が、俺の後ろにいる人物に注がれている。
「麻美ちゃん…? 麻美ちゃんだよね!」
後ろに立っていたメイは頷きながら、嬉しそうに後藤に話し掛ける。
俺はメイを先に部屋の中へ入れた。メイは靴を脱ぐと後藤の方へと近づいて行った。
「五月ちゃん! 来てくれたんだねー 久しぶり、元気だった?」
「うん、元気! ごめんね、なかなか連絡出来なくて……」
「ううん、こうやって来てくれて嬉しい! 今日はゆっくり出来るんでしょ?」
「2、3日こっちに泊まる事にしたから」
「良かったぁ! 今日はいっぱい話しようね」
2人は10数年振りの再会に盛り上がっている。すでに彼女たちの周りには、当時仲の良かった女子が移動してきて2人に話し掛けていた。
そんなメイ達を横目で見ながら、俺は林原の横に座った
「よぉ、お疲れ! 思ったより早かったな」
林原は俺に笑いながら、ビールを差し出した。俺はそれを受け取ると半分程一気に飲み干す。
「あぁ、少し早めに家を出て来たからな」
「麻生も一緒に来たのか?」
「ついでだからな」
「ふーん……だけど、さっき2人が入って来た時、何か場違いな感じだったな」
「何だよ、それ」
「目立つっていうか---美男美女っていいよなぁ、絵になるっ!」
うんうんと林原は頷いた。
「…お前、酔ってるのか? そう言えば、結婚決まって良かったな。おめでとう」
俺はすかさず話題を変えた。林原は少し照れた様に笑っている。
「おぉっ ありがとう! まさか、自分がこんなに早く結婚するとは思わなかったよ」
「まさか…出来ちゃった婚か?」
「違う、違う! ずっと一緒にいたかったし、麻美となら楽しい家庭が作れるだろうなぁって考えて……あいつがいれば俺は仕事も頑張れるって思った」
そう言った林原は本当に幸せそうだった。
俺は祝福する気持ちと、羨ましく思う気持ちがない交ぜになって複雑な気分だった。
その後は久しぶりに会ったクラスメートと、酒を飲みながら仕事の話や近況等を話して盛り上がっていた。
メイは当時仲の良かったグループの中心にいて、笑顔で話をしている。
良かった…楽しそうだ。俺は少しホッとした。
「はぁーい! みんな、注目して下さぁい」
突然立ち上がり、大きな声でみんなの注目を集めたのは---橋本だった。
みんなは各々の話を中断すると、橋本へ視線を移した。
そのタイミングを見計らって、橋本は林原と後藤を手招きした。
「知ってる奴もいるとは思うけど、何とうちのクラスから夫婦になるカップルがいます。林原と後藤---何か一言お願いします」
そう言って、2人へ挨拶を振る。2人は顔を見合わせながら照れている。
「おめでとう!」
「よかったね!」
「結婚式はみんなを呼んでよ!」
クラスのみんなが、お祝いの言葉と拍手を2人に贈る。
後藤は頬を染めながら、目を潤ませていた。
そんな彼女を見つめながら、林原が照れた様にみんなに向かって挨拶をした。
「えーっと、祝福の言葉ありがとう。俺と麻美は半年後に結婚します---式にはみんなを招待したいんだけど、来てくれるよな?」
林原の言葉に全員が『当たり前だろ』『来るなって言っても行くから』といった返事を返した。
「よしっ、全員招待するから欠席は無しだぞ」
その言葉にみんなが口々に『当たり前』と答える。
「あの…本当にみんなにこんなに祝福されて、私感動してます……林原君と結婚なんて中学の頃には想像もしてなかったのに、今はとっても幸せです。ありがとう…」
後藤も涙声でみんなへ挨拶する。そんな彼女の肩を林原がそっと抱き寄せると、後藤はぽろぽろと涙を零した。
「後藤! 湿っぽくなったら駄目だろ! 折角のおめでたい話なのに……さて、ではあと1組…カップルがいるんだよなぁ……そっちも挨拶してもらおうか」
橋本は満面の笑みでそう言うと、何故か俺の方を見た。
何だ?--- 俺は思わず身構えた。
「---じゃ、朝倉…と麻生、こっちに来て挨拶、挨拶。麻生は中学以来だから、近況も聞かせてくれよ」
手招きしながら笑顔でこちらを見ている。その場にいる全員が俺達を見ながら拍手している。
俺はメイの方を見た。するとメイは橋本の方へと歩いて行く。
「おい、朝倉! お前も来いよ」
そう橋本に言われ、俺はみんなの視線を感じながらメイの横へと並んだ。
俺が並んだタイミングで、橋本が再び口を開いた。
「えー2組目はこちらの…朝倉、麻生のカップルです。2人は偶然再会したそうですが…どういった経緯で?」
「朝倉君の勤める会社のブランドのイメージモデルを私がすることになって……それで再会したの」
メイは俺の言葉を遮るようにしゃべり始めた。
「それで付き合う事になったのかぁ……良かったな、2人とも。やっぱりお前達は付き合う運命だったんだなぁ」
しみじみと言う橋本に、誰かが『お前が言うと何か感動が薄くなるから言うな』と苦言する。
その言葉に対して反論している橋本を横目で見ながら、俺はメイに小声で囁いた。
「お前、何で否定しなかった? 誤解を正すチャンスだったのに」
「…そんな事しても、場がシラケるだけでしょう? どうせ今だけだもの…朝倉君は嫌よね? ごめんね、今日だけ我慢して」
「な…っ…」
「おい、朝倉! 麻生があのモデルの『メイ』って事で、心配もあるんじゃないか? 周りにはイケメンのモデルも多いだろうし、声かけられそうだよな」
橋本の質問は俺の胸に刺さった。的射すぎだよ! 橋本!
酔いも回っていた俺は、つい本音を零してしまった。
「……確かに、相手のモデルに嫉妬もするよ。撮影の時なんて物凄く近づくからな…時々、耐え切れなくてスタジオ出る時もある」
俺の言葉に、メイが驚いた様にこちらを向いた。
「うわぁ、目の前でそれはキツイな」
「だけど仕事だし…上がってきた写真を見たら「あぁ、やっぱり綺麗だ……凄いな」って感心するよ」
「…なぁ、それって惚気と思っていいのかな?」
橋本は面白そうに俺達を見てる。横を見るとメイが顔を真っ赤にして俯いていた。
「あぁ、そうだ」
「ごちそうさまです……で、お前達は結婚は?」
「……それは、まだまだだ。今はお互い仕事が忙しいしな」
俺の言葉に橋本は納得した様に頷いた。
「そうか…あ、でも、結婚式には全員呼べよ」
「勿論、結婚式をする時は全員呼ぶさ!」
半ば自棄で言った俺の言葉に、橋本以下クラスの面々が歓声を上げた。
それから後は、再びそれぞれの会話に戻っていった。
「---おい、朝倉!大丈夫か? しっかりしろ」
誰だ? 俺は意識が混濁している中で聞こえた声に集中しようとした。
「いいわ、私の部屋に運んでくれる? 時間も遅いし、このまま帰したら家の人が驚く---」
「わかった」
自分の体が担がれている様に感じたが、意識があったのはそこまでだった。




