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君の隣に  作者: ミサ
第2章
29/35

その28

「いらっしゃいませ!」

 扉を開けると、威勢の良い声が店内に響いた。入口にいたスタッフに予約の名前を告げると、すぐに奥の個室へと案内される。



「おぉ! 朝倉、来たな」

 部屋の中にはすでに大勢のクラスメートが集まっていて、誰がどこにいるのかさえ判別出来ない。

 そんな中、林原が俺に気づいて合図を送ってきた。その林原の声につられて、中にいた面々が一斉に振り向いた。俺は一瞬その光景に怯んで、恐る恐る片手を上げて挨拶する。

「よぉ、みんな久しぶり」

 そんな俺の方を見て、みんな驚いた様な顔をしている。

 何で? 俺、何かしたか?

「……さ…つき…ちゃん?」

 林原の横に座っていた後藤の視線が、俺の後ろにいる人物に注がれている。

「麻美ちゃん…? 麻美ちゃんだよね!」

 後ろに立っていたメイは頷きながら、嬉しそうに後藤に話し掛ける。

 俺はメイを先に部屋の中へ入れた。メイは靴を脱ぐと後藤の方へと近づいて行った。

「五月ちゃん! 来てくれたんだねー 久しぶり、元気だった?」

「うん、元気! ごめんね、なかなか連絡出来なくて……」

「ううん、こうやって来てくれて嬉しい! 今日はゆっくり出来るんでしょ?」

「2、3日こっちに泊まる事にしたから」

「良かったぁ! 今日はいっぱい話しようね」

 2人は10数年振りの再会に盛り上がっている。すでに彼女たちの周りには、当時仲の良かった女子が移動してきて2人に話し掛けていた。

 そんなメイ達を横目で見ながら、俺は林原の横に座った

「よぉ、お疲れ! 思ったより早かったな」

 林原は俺に笑いながら、ビールを差し出した。俺はそれを受け取ると半分程一気に飲み干す。

「あぁ、少し早めに家を出て来たからな」

「麻生も一緒に来たのか?」

「ついでだからな」

「ふーん……だけど、さっき2人が入って来た時、何か場違いな感じだったな」

「何だよ、それ」

「目立つっていうか---美男美女っていいよなぁ、絵になるっ!」

 うんうんと林原は頷いた。

「…お前、酔ってるのか? そう言えば、結婚決まって良かったな。おめでとう」

 俺はすかさず話題を変えた。林原は少し照れた様に笑っている。

「おぉっ ありがとう! まさか、自分がこんなに早く結婚するとは思わなかったよ」

「まさか…出来ちゃった婚か?」

「違う、違う! ずっと一緒にいたかったし、麻美となら楽しい家庭が作れるだろうなぁって考えて……あいつがいれば俺は仕事も頑張れるって思った」

 そう言った林原は本当に幸せそうだった。

 俺は祝福する気持ちと、羨ましく思う気持ちがない交ぜになって複雑な気分だった。



 その後は久しぶりに会ったクラスメートと、酒を飲みながら仕事の話や近況等を話して盛り上がっていた。

 メイは当時仲の良かったグループの中心にいて、笑顔で話をしている。

 良かった…楽しそうだ。俺は少しホッとした。



「はぁーい! みんな、注目して下さぁい」

 突然立ち上がり、大きな声でみんなの注目を集めたのは---橋本だった。

 みんなは各々の話を中断すると、橋本へ視線を移した。

 そのタイミングを見計らって、橋本は林原と後藤を手招きした。

「知ってる奴もいるとは思うけど、何とうちのクラスから夫婦になるカップルがいます。林原と後藤---何か一言お願いします」

 そう言って、2人へ挨拶を振る。2人は顔を見合わせながら照れている。

「おめでとう!」

「よかったね!」

「結婚式はみんなを呼んでよ!」

 クラスのみんなが、お祝いの言葉と拍手を2人に贈る。

 後藤は頬を染めながら、目を潤ませていた。

 そんな彼女を見つめながら、林原が照れた様にみんなに向かって挨拶をした。

「えーっと、祝福の言葉ありがとう。俺と麻美は半年後に結婚します---式にはみんなを招待したいんだけど、来てくれるよな?」

 林原の言葉に全員が『当たり前だろ』『来るなって言っても行くから』といった返事を返した。

「よしっ、全員招待するから欠席は無しだぞ」

 その言葉にみんなが口々に『当たり前』と答える。

「あの…本当にみんなにこんなに祝福されて、私感動してます……林原君と結婚なんて中学の頃には想像もしてなかったのに、今はとっても幸せです。ありがとう…」

 後藤も涙声でみんなへ挨拶する。そんな彼女の肩を林原がそっと抱き寄せると、後藤はぽろぽろと涙を零した。

「後藤! 湿っぽくなったら駄目だろ! 折角のおめでたい話なのに……さて、ではあと1組…カップルがいるんだよなぁ……そっちも挨拶してもらおうか」

 橋本は満面の笑みでそう言うと、何故か俺の方を見た。

 何だ?--- 俺は思わず身構えた。

「---じゃ、朝倉…と麻生、こっちに来て挨拶、挨拶。麻生は中学以来だから、近況も聞かせてくれよ」

 手招きしながら笑顔でこちらを見ている。その場にいる全員が俺達を見ながら拍手している。

 俺はメイの方を見た。するとメイは橋本の方へと歩いて行く。

「おい、朝倉! お前も来いよ」

 そう橋本に言われ、俺はみんなの視線を感じながらメイの横へと並んだ。

 俺が並んだタイミングで、橋本が再び口を開いた。

「えー2組目はこちらの…朝倉、麻生のカップルです。2人は偶然再会したそうですが…どういった経緯で?」

「朝倉君の勤める会社のブランドのイメージモデルを私がすることになって……それで再会したの」

 メイは俺の言葉を遮るようにしゃべり始めた。

「それで付き合う事になったのかぁ……良かったな、2人とも。やっぱりお前達は付き合う運命だったんだなぁ」

 しみじみと言う橋本に、誰かが『お前が言うと何か感動が薄くなるから言うな』と苦言する。

 その言葉に対して反論している橋本を横目で見ながら、俺はメイに小声で囁いた。

「お前、何で否定しなかった? 誤解を正すチャンスだったのに」

「…そんな事しても、場がシラケるだけでしょう? どうせ今だけだもの…朝倉君は嫌よね? ごめんね、今日だけ我慢して」

「な…っ…」

「おい、朝倉! 麻生があのモデルの『メイ』って事で、心配もあるんじゃないか? 周りにはイケメンのモデルも多いだろうし、声かけられそうだよな」

 橋本の質問は俺の胸に刺さった。的射すぎだよ! 橋本!

 酔いも回っていた俺は、つい本音を零してしまった。 

「……確かに、相手のモデルに嫉妬もするよ。撮影の時なんて物凄く近づくからな…時々、耐え切れなくてスタジオ出る時もある」

 俺の言葉に、メイが驚いた様にこちらを向いた。

「うわぁ、目の前でそれはキツイな」

「だけど仕事だし…上がってきた写真を見たら「あぁ、やっぱり綺麗だ……凄いな」って感心するよ」

「…なぁ、それって惚気と思っていいのかな?」

 橋本は面白そうに俺達を見てる。横を見るとメイが顔を真っ赤にして俯いていた。

「あぁ、そうだ」

「ごちそうさまです……で、お前達は結婚は?」

「……それは、まだまだだ。今はお互い仕事が忙しいしな」

 俺の言葉に橋本は納得した様に頷いた。

「そうか…あ、でも、結婚式には全員呼べよ」

「勿論、結婚式をする時は全員呼ぶさ!」

 半ば自棄で言った俺の言葉に、橋本以下クラスの面々が歓声を上げた。

 それから後は、再びそれぞれの会話に戻っていった。



「---おい、朝倉!大丈夫か? しっかりしろ」

 誰だ? 俺は意識が混濁している中で聞こえた声に集中しようとした。

「いいわ、私の部屋に運んでくれる? 時間も遅いし、このまま帰したら家の人が驚く---」

「わかった」

 自分の体が担がれている様に感じたが、意識があったのはそこまでだった。



  



 







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