第20話 チートデバフでダンジョン攻略は余裕だったのに、美人三人組からは相変わらず嫌われている
ダンジョン内の草原を四人で進みながら、
先頭で警戒するリヴィア、後ろで周囲を見回すエステル、静かに続くセラフィナを眺めつつ、
最後尾のカナタは三人の立ち位置からパーティ構成を頭の中で整理していた。
(前衛にリヴィア、後衛にエステル、回復にセラフィナ……バランスはかなりいいな)
剣士、魔法使い、ヒーラーという典型的な編成だと感心しながら眺めているうちに、
ふと一つの疑問が浮かんだ。
「で、俺は何すればいい?」
カナタは歩きながら、三人の様子を探るように視線を向けた。
すると間髪入れずに返事が返ってくる。
「いらないです」
セラフィナが振り返りもせず、あまりにも自然な口調でそう言い切った。
「え?」
カナタは予想外の返答に、思わず間の抜けた声を漏らした。
だが三人は特に気にする様子もなく歩き続けている。
「じゃあ後ろから敵にデバフでもかけようかな」
カナタがどこか気楽な様子で軽い調子のままそう言った、その瞬間だった。
「ちょっと待って!」
エステルがぴたりと足を止め、苛立った表情のまま勢いよく振り向く。
「あんた、何個スキル持ってるのよ!」
「一つ」
カナタはまたこの質問かというような少し呆れた顔で、あっさりと答えた。
一瞬の沈黙。
「嘘つき!!」
エステルの怒鳴り声が草原に響いたあと、
四人はそのままダンジョンの奥へ向かって歩き続けた。
三人の背中を見ていたカナタが、ふと思いついたように口を開いた。
「三人ってどういう関係?」
質問を聞いた三人は一瞬だけ互いの顔を見て、誰が答えるか探るような空気になる。
「幼馴染」
リヴィアは前を向いたまま表情一つ変えず、短く答えた。
カナタはその答えを聞き、少し意外そうな表情になる。
「へぇ……」
カナタは三人を見比べながら、ふと思いついたように続けた。
「リヴィアが一番年上?」
リヴィアは歩く足取りを乱さないまま、当然のことのように小さく頷く。
「……そうね」
カナタは次にセラフィナを見る。
「じゃあセラフィナが一番下?」
セラフィナは面倒な質問だと言いたげな目でカナタを見て、淡々と答えた。
「そうですね」
そのやり取りを聞いていたカナタは、納得したように一度頷く。
「エステルは想像通りだな」
その瞬間だった。
「どういう意味よ!!」
エステルが眉を吊り上げ、怒った様子で勢いよく振り向いた。
それを見ていたカナタが、試すような視線で問いかけた。
「このパーティで一番頼りになるのは誰?」
「そりゃ私でしょ!」
エステルが胸を張り、自信満々の表情で即答する。
カナタは先頭を歩くリヴィアへ視線を向け、答えを待つように声をかけた。
「リヴィアは?」
リヴィアが前を向いたまま、特に迷う様子もなく答える。
「セラフィナね」
カナタは続けてセラフィナへ視線を向ける。
「じゃあセラフィナは?」
セラフィナも迷いなく、落ち着いた声で言い切る。
「リヴィアです」
その瞬間、エステルの動きがぴたりと止まる。
カナタはそんなエステルを見ながら、どこか可哀想なものを見るような目を向けた。
「その目やめて!」
* * *
ダンジョンを四人で進みながら雑談を続けていると、
先頭を歩いていたリヴィアがぴたりと足を止め、
わずかに腰を落として前方の草原の奥を鋭い目で見据えた。
その動きにエステルとセラフィナもすぐ反応し、
会話は一瞬で途切れ、先ほどまでの軽い空気が嘘のように張り詰めた。
草原の奥から低い唸り声が響き、重い足音が地面を踏み鳴らすように近づいてくる。
やがて暗がりの中から姿を現したのは、大きな体と牙を持つ緑色の怪物だった。
オーク。
その姿を見た瞬間、エステルの表情がわずかに強張る。
「……昨日の奴に似てる」
エステルが呟く小さな声には緊張が混じっていた。
リヴィアは無言のまま剣を抜き、低く構える。
セラフィナも一歩後ろへ下がり、いつでも回復魔法を使える位置に立った。
三人の空気が一気に戦闘モードへ変わる。
そんな中、カナタだけは三人の緊張を少しでも和らげるように、
あえて気楽そうな表情を浮かべながら前を見ていた。
「大丈夫、俺がデバフかけるから」
カナタは軽く手を振りながら言う。
(三人が普通に倒せるくらいまで弱くしておくか)
チートによるデバフが発動し、オークの体がわずかにぐらついた。
「……あれ?」
エステルは何かに気づいたように眉をひそめ、ちらりとカナタへ視線を向けた。
オークの動きは明らかに鈍く、先ほどまで感じていた威圧感が嘘のように弱まっていた。
リヴィアもオークの異様な動きの鈍さに気づき、警戒を崩さないまま低く呟いた。
「……動きが遅い」
「今よ!」
エステルが素早く杖を構え、次の瞬間には炎の魔法が放たれる。
オークの体が炎に包まれ、苦しそうな声を上げる。
その隙を逃さずリヴィアが前へ踏み込んだ。
無駄のない動きで距離を詰め、鋭い斬撃を叩き込む。
普段より明らかに軽い手応えだった。
「……弱い」
リヴィアが小さく呟く中、オークは反撃しようと腕を振り上げるがその動きも遅い。
リヴィアは余裕を持ってそれを避け、さらにエステルの魔法が追撃する。
オークの体が炎の衝撃で大きく揺れ、巨体がぐらりと不安定に傾いた。
「今!」
リヴィアが最後の一撃を放ち、剣がオークの首元を深く斬り裂いた。
巨体が崩れ落ち、重い音を立てて地面へ倒れた。
草原に静寂が戻り、エステルがゆっくり息を吐いた。
「……なんか、やけに楽だったわね」
リヴィアも剣を軽く振って血を払う。
「……そうね」
セラフィナは倒れたオークを見つめたまま、何も言わず静かに立っていた。
三人とも口には出さないが同じことを感じていた。
――さっきのオーク、弱すぎた。
そんな三人の様子を少し後ろから見ていたカナタが、どこか満足そうな顔で声をかける。
「なあ、俺のデバフどうだった?」
三人の視線がわずかにこちらへ向く。
エステルは少し考えるような顔をしたあと、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「……まあ、楽だったわね」
リヴィアも短く頷く。
「動きが鈍かった」
セラフィナも落ち着いた声で続けた。
「確かに、普段より戦いやすかったですね」
三人とも認めた。デバフの効果は確実に出ていた。カナタは満足そうに口角を上げる。
(よしよし、ちゃんと役に立ってるな)
そして少しだけ期待を込めて言った。
「じゃあさ、このパーティに俺、必要じゃない?」
一瞬だけ沈黙が落ちた。三人の視線がカナタへ向く。そして――
「要らないです」
セラフィナが迷いなく即答した。
「え?」
カナタが思わず聞き返す。セラフィナは表情を変えないまま淡々と続けた。
「三人でも戦えますから」
エステルも腕を組んだまま頷く。
「そうね」
リヴィアも静かに言った。
「問題ない」
完全に一致した意見だった。カナタは少しだけ呆然とする。
(いや、今めちゃくちゃ役に立ったよな……?)
しかし三人の態度は変わらない。評価はしたが必要とは思っていない。カナタは小さく息を吐いた。
その後も探索は続いた。
ダンジョンを進みながら何度かモンスターと遭遇する。
ゴブリンの集団、ウルフ、そして小型のオーク。
そのたびにカナタはこっそりデバフをかけ、三人はそれに気づくことなく普通に戦闘する。
リヴィアが斬り、エステルが魔法を放ち、セラフィナが回復する。
その連携は驚くほど自然だった。カナタは少し後ろを歩きながらその様子を眺める。
(やっぱりこの三人、強いな……)
戦闘のたびに実感する。
だが、三人の態度は最後まで変わらなかった。
距離は遠く、視線は冷たい。それでもカナタだけはどこか楽しそうだった。
そうして探索を一通り終え、四人はダンジョンの出口へ向かう。
ダンジョンを抜け、外の光が視界に広がる。
ダンジョンの外へ出ると夕方の空気が静かに流れていた。
入口の前で三人が立ち止まる。契約は――一日だけ。今日のパーティはここまでだった。
「終わり」
リヴィアが短く言った。
「これで約束は果たしたわよ」
エステルも腕を組んだまま頷く。
「これで解散ですね」
セラフィナも静かに続けた。三人の態度は最後まで変わらなかった。




