第19話 賭けで強制パーティ成立、嫌われたまま“月光の祈り”とダンジョンへ
翌朝。
カナタはいつもより早く目を覚ました。
窓の外はまだ静かで、朝の光が宿の部屋にゆっくり差し込んでいる。
(今日はやらないといけないことがあるからな、
本当ならもっと寝ておきたかった……)
大きく伸びをして、昨日の出来事を思い出す。
色々ありすぎて疲れていたが、目覚めは悪くない。
高級レストラン。
タイトドレス。
そして――終始最悪だった空気。
(あいつらに嫌われてんのは間違いないけど……)
カナタはベッドの上で天井を見上げながら、僅かな手応えを確かめていた。
(悪くない流れだったんじゃないか?)
ドレスを渡して、食事をして、プレゼントも渡した。
会話はほぼ喧嘩だったが、それでも三人と長い時間を過ごしたのは事実だ。
(俺のハーレム計画……一歩前進したよな)
小さく満足げに頷き、次の行動に移るためにカナタは体を起こした。
(次は――パーティだな)
三人とパーティを組めれば距離は一気に縮まるが、問題が一つあった。
(普通に誘っても、秒で断られるだろうな……)
昨日の態度を思い出すだけでそれはほぼ確定だと分かり、カナタは腕を組んで考え込む。
(どうやって巻き込むか……)
しばらく考えたあと、ふと昨日の出来事が頭に浮かんだ。
――契約。
――賭け。
(……あ、そうだ。もう一回賭けをしよう)
単純な話だった。
――三人の中には絶対にその賭けに乗る人物がいる、
金髪の魔術師をカナタは思い浮かべた。
(あいつなら、間違いなくこの賭けに乗ってくる。
短気で単純な性格だから、少し挑発したり餌をやればすぐ食いつくはず)
そう考えた瞬間、カナタの中で作戦は決まった。
カナタはベッドから立ち上がり、軽く体を伸ばす。
今日も忙しくなりそうだと感じながら、
まず、三人ともう一度会わなければ話は始まらないと考える。
(……どこで会うのがいいか……そうだな、街の外でいいか)
カナタはそう考えると、すぐにチートを起動した。
目の前にいつものウィンドウが静かに現れる。
【SEARCH:月光の祈り】
▷ 現在位置:冒険者宿街エリア
▷ 行動予定:15分後 城壁外へ移動
(十五分か……急がないとやばいな)
予想より早い。
カナタはベッドから立ち上がり、急いで身支度を終わらせる。
「テレポート」
次の瞬間、景色が切り替わる。
カナタが立っていたのは、サウス・アルデの城壁の外だった。
朝の空気がひんやりと流れ、遠くには街道が伸びている。
(まだ来てないな)
周囲を見渡しながら、門の方へ視線を向ける。
しばらく待っていると、城壁の門が開き、検問を通過した三つの影が外へ出てきた。
黒髪の剣士。
金髪の魔術師。
銀髪のヒーラー。
――月光の祈り。
三人は楽しそうに言葉を交わしながら、そのまま街道へ向かって歩いてきている。
カナタはその様子を見ながら、内心で小さく呟く。
(仲良さそうだな……てか、俺のハーレムめっちゃ美人だわ……)
カナタは軽く手を上げ、何事もない朝の挨拶のような顔で声をかけた。
「おはようー」
三人の視線が一斉にこちらへ向く。
そして――
「うわ……」
リヴィアが露骨に顔をしかめた。
まるで地面から何か嫌なものが生えてきたかのような表情だった。
「なんでここにいるのよ!」
エステルは指を突きつける勢いで怒鳴る。
カナタは平然とした顔のまま、特に気にした様子もなく答える。
「たまたま」
「嘘つけ!!」
エステルは間髪入れずに否定し、三人の視線が一斉に向けられる。
特にリヴィアの視線は鋭く、まるで刃のようにカナタへ突き刺さっていた。
「……もう会わない約束だったでしょ」
淡々とした声だが、明らかに冷たい。
カナタは不思議そうな顔で、わずかに首を傾げる。
「そうだったっけ?」
「はぁ!?」
その一言で、エステルの怒りが一気に爆発した。
「もう付きまとわないでよ!」
エステルは腕を組んだまま、はっきりと敵意のこもった目で睨みつける。
そしてセラフィナが、静かな口調のままはっきりと言い切った。
「これ以上付きまとうなら、衛兵に突き出します」
完全に拒絶の態度だった。
その空気を気にした様子もなく、カナタは口を開いた。
「それより、俺の秘密知りたくない?」
その言葉に三人の足がぴたりと止まり、エステルが怪訝そうに振り返る。
「……秘密?」
リヴィアも腕を組んだまま視線を向け、
セラフィナも静かな目でカナタを見つめる中、
カナタは余裕の笑みを浮かべた。
「俺のランク、当ててみてよ」
「は?」
エステルが露骨に嫌そうな声を出すが、カナタはそのまま続ける。
「当てたら、俺の秘密を全部教える」
三人の視線がわずかに動く。
「外したら――今日一日、俺とパーティ組んで」
「やるわけないでしょ!」
エステルが即座に怒鳴るが、カナタは気にした様子もなく言った。
「一人一回答えていいよ」
その瞬間だった。
「Sランク!」
エステルが自信満々の表情で、迷う様子もなく即答する。
一瞬、空気が止まり、リヴィアが呆れた声を出す。
「……なんで答えるのよ」
「だって、ランクなんて数個しかないんだから当たるわよ!」
セラフィナが小さく息を吐き、呆れたような視線をエステルへ向ける。
「この子はほんとに……栄養が胸に詰まってますね」
「ちょっと、セラフィナ!!」
エステルが顔を真っ赤にして振り向く中、カナタは笑いをこらえながら言った。
「他の二人は?」
リヴィアは腕を組んだままわずかに考える素振りを見せ、
慎重にカナタを観察したあとで短く答える。
「……A」
その答えを聞いたセラフィナも落ち着いた様子で、静かな口調のまま続けて答えた。
「Bにします」
三人の答えが出揃うとカナタは余裕のある表情のまま小さく頷き、
どこか楽しそうな様子でポケットに手を入れて一枚のカードを取り出し、
それを三人の前にゆっくりと掲げて見せた。
そこに刻まれていた文字は――Fランク。
三人の動きがその場でぴたりと止まり、空気が一瞬だけ凍りついたような沈黙が流れた。
「「「……は?」」」
三人の視線が一斉に冒険者証へと集まり、
エステルが信じられないという顔で眉を寄せて睨みつける。
「嘘でしょ!」
「……ありえないわ」
リヴィアも低く呟くが、その横でセラフィナだけは少し前に身を乗り出すようにして、
冒険者証をじっと見つめていた。
「でも……本物ですね」
契約魔法が反応していないため嘘ではないことが明らかになり、
状況を理解した三人の顔が同時に悔しそうに歪む。
「今日一日だけよ!」
エステルの横でリヴィアも腕を組んだまま冷たい視線をカナタへ向け、
警戒と苛立ちを隠さない低い声で続ける。
「……それで終わり」
そしてさらに釘を刺すように言葉を続ける。
「次会いに来たら、何も言わず即衛兵に突き出すわ」
セラフィナも静かな表情のまま小さく頷き、
二人の言葉に同意するようにカナタへ落ち着いた視線を向けていた。
「分かった」
カナタは三人から強い警戒や敵意を向けられている状況にもまったく気にした様子を見せず、
むしろどこか楽しそうな軽い調子のまま話題を変えるように尋ねる。
「今日は何するんだ?」
エステルは少しだけ言いづらそうに視線を逸らしながらも、不機嫌そうな声で短く答えた。
「……ダンジョン」
カナタはその答えを聞いてわずかに眉を上げ、からかうような調子で口を開く。
「昨日やられかけたのに勇気あるな」
その一言でエステルの表情が一気に変わり、顔を真っ赤にして勢いよく振り向く。
「うるさい!!」
三人は明らかに不機嫌な様子のままその場で踵を返し、
苛立ちを隠さない足取りで街道を進み始め、
カナタはそんな三人の後ろを当然のように追いかける形で歩き出した。
こうして四人はそのままダンジョンへ向かい、
やがて入口へ到着するとそのまま中へ足を踏み入れていった。




