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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・29.5


 ショージとフスマは別々の場所から誘拐されていたが、水口と面識のあるショージがいたという訓練所からまとめて迎えが来ることになっていた。

「最後までショージとフスマを守ってあげるように」

 そうリクとカイに言い付けて航は朝早くから出勤し、美馬も念のためにと曹操とパーカーを施設に残してマンションに戻っていた。

 水口はショージとフスマの迎えが来る時間までに施設に出勤する予定ではあったが、一応にと迎えにくる訓練所とそこの責任者の名前などをスタッフに説明していた。

 保護犬たちも午前中からドッグランで遊んでいるが、ショージとフスマは大事を取って保護施設の事務所内にいた。自然、航の言いつけを守っているリクとカイも、美馬に忠実な曹操とパーカーもショージとフスマの傍にいた。

 でっかい犬が4頭も事務所内をうろついてはいたが、特に暴れることもなく、おっとりと時間は流れた。

 予定より早く着きそうだという電話がかかって来たのは10時頃だった。迎えに行く予定だった訓練士の都合が悪くなり、代理の者が来ると。名前を聞いたら、その訓練所のスタッフ名簿にある名前だったので、特に疑いもしなかった。

 それから間もなくしてやって来た迎えの人間はちゃんとしたネームプレートも着けていたし、渡された名刺にも不自然なところはなかった。

 ただ、事務所で迎えの人間を見たフスマが震え出した。



「どうした?」

 震え出したフスマの口元に耳を寄せ、ショージが訊いた。

「……この人……、私をあそこへ連れて行った人……」

 ショージははっと顔上げると曹操とパーカーを探した。周りを見回し、リクとカイを見つける。

「こいつら、偽物だ!」

「にせもの?」

 リクとカイはショージとフスマの傍に行き、耳を寄せる。

「私を誘拐した人……」

 震えるフスマの声を聞いたリクとカイは、ペットキャリーにそれぞれふたりを入れようとするスタッフに覆い被さった。

「リクくん!カイくん!退いて!」

 あっけなく退かされる。

 仕方がないので今度はペットキャリーに触れている手に自分の手を重ねる。

「ダメだって」

 笑いながらスタッフは手を退かす。

 さらにペットキャリーとスタッフの間に入り可愛い顔でスタッフを見上げる。

「あとでね」

 顔をぐりぐりされながら横にやられた。

 手詰まりになったリクとカイは曹操とパーカーを探しながらいったん事務所を出ると、見つけた。

「あいつら偽物だって」

 飄々と言うリクに曹操が派手に驚く。

「ニセモノ!?」

「誰も話し通じないし、ショージたち守んなきゃいけないから、ちょっとおれらついて行くから」

「ついて行くって!危ないですよ!天道殿が戻って来てから伝えた方が!」

「だーいじょうぶ。お兄ちゃんなら、おれらのことみつけられるし」

「何を根拠に……!」

 唖然とする曹操にリクが言う。

「あいつらの車、あれだよな?隙見て乗るから、よろしく」

 言いおいてリクとカイはスタスタと駐車場の車の陰に潜んだ。

 たしかに今曹操とパーカーが下手に騒いだところでどうしようもない。キャリーバッグの中で怯えるショージとフスマに「大丈夫、絶対助けるから!」と伝え、ふたりが積み込まれようと車のハッチバッグが開いたところで大声で騒ぎ始める。

 普段、美馬の傍にいる曹操とパーカーは絶対に吠えない。威嚇もしない。美馬を守ろうとするときには、美馬とその誰かの間に無言で分け入るくらいである。決して吠えない。

 そのふたりが吠え始めたことでスタッフも、シェパードとドーベルマンが吠え始めたことで偽物の迎えも気を取られ、その隙にまんまとリクとカイは車に乗り込んだ。

 危険を感じたスタッフが曹操とパーカーをドッグランへと連れて行く。

 これでよかったのだろうかと曹操もパーカーも後悔する。できれば自分たちも追いかけたい。それとも、噛みついてでもあの偽物たちを引き留めるべきだったのだろうか。

 せめて誰かがリクとカイがいないことに早く気がついてくれればと思っていた。



 乗ったは良いがノープランである。

 リクとカイはそんな子だ。

「とりあえず、出すか」

 ペットキャリーの扉を開こうとしたら、ロックが上下から押さなければならないばねタイプだった。

「……面倒くせえ」

 開けようとしたところで気づかれた。

「おまえらどっから乗って来た!?」

 助手席の男が振り返って驚いている。フスマを誘拐したという男だ。

「ゴールデン?」

 運転している男がバックミラーを見ながら言う。

「黒いラブもいる」

 リクとカイを見据えたまま助手席の男が言った。

「ラッキーだな」

 運転している男が言った。

 見つかった瞬間、ヤバっと思ったリクとカイであったが、男が「ラッキーだな」と言った瞬間、自分たちもラッキーだと確信した。たぶん、お兄ちゃんが来るまで時間が稼げる、と。



 たまたまだった。

 そのスーパーは露口の行きつけだし、車の中でお留守番は毎回やっている。暑さ対策のために少し窓は開いているが、脱走なんてしたことがない。ライのくせに。だって毎回露口は、上手にお留守番できたご褒美を買ってきてくれるから。ここのお総菜コーナーのトンカツとから揚げはとても美味しい。なんだかんだで露口はライに甘い。

 たまたまだった。

 駐車場の向こうから「助けて!」と聞こえた。次いで「え~」という不満そうな合唱が聞こえた。その「え~」には聞き覚えがあった。

「リク?カイ?」

 声のした方を見ると、ゴールデンの尻尾がちらりと見えた。

「え。なになになになに」

 窓の隙間に鼻を入れ、顔を入れ、右手を入れて肩を入れ、まんまと上半身を窓から出したライはしゅぽんとそのまま飛び降りる。そして全速力でリクとカイが乗せられた車に駆け寄りするりと乗り込む。

「え、なになになになに、なにやってんの皆んな、なに?」

 乗り込むなり喋り出したライに一同は驚いたものの、すぐに「しっ」とライの口を塞ぐ。

 走り出した車の中でどうライに説明しようかとリクが迷っていると、助手席の男が振り返って叫んだ。

「なんで見るたび犬が増えるんだ!?」




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