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犬がすっかり兄弟になりまして。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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犬がすっかり兄弟になりまして・32


 藍沢の車に乗る直前、電話を切った橋本に航は腕を掴まれた。

「君は、……関係ないんだよね?」

 選んでいるような言葉に、航はピンと来て目が座る。なので噛み砕くように、教え諭すように言ってやった。

「僕は、犬と、喋れるんです」

 以上です。そう言って航は車に乗り込んだ。

「そうなんです。兄上殿は私たちのことがヒトに見えてるし、言葉もお分かりになるんですよ」

 後部座席の窓からサイゼリヤとベローチェがフォローを入れたが、橋本に届くことは無かった。


 

 施設に戻って航は美馬に訊いた。

 妊娠している犬を飛行機や船に乗せて海外に送ることはあるのか。動物のお腹に異物を詰めた事例はあるのか。

「どうしてそんなこと……」

 青ざめる美馬に、リクとカイ、ショージとフスマにそんな危険が迫っていると告げた。

「どうしてそんなこと天道さんが……」

「犬に聞いたからです」

 食い気味に航は言った。事務所の中には美馬だけではなく、水口も保護施設のスタッフもいた。だが航は構っていられなかった。

「ルイにも聞きました。ショージにも聞きました。さっき、レオパルトんとこのマリアにも聞いてきました。あそこにいた犬たちは繁殖だけじゃない。なんなのかわからないけど、クスリの実験と、たぶん運ぶのに使われてたんです」

 美馬も水口も、スタッフたちもその場にいる全員が絶句した。

 荒唐無稽のはずなのに、航なら、もしかしたら犬と話せるのかもしれないと思ったのと、航の話が本当だったらそれはとんでもない犯罪であり虐待であるという怒りを感じて。


 その日は結局事件の進展はなく、宿直のスタッフを除いて皆帰宅した。

 朝になれば警察も撤退した保護棟の事務所はいつも通りで、ドッグランも病院も変わりなく営業する。呼ばれてなくても航も来る。もはやスタッフたちも航のことを犬に近い施設の人間だと思い始めている。

 さすがに美馬は警察からの連絡をいつでも受けられるように保護棟の事務所に詰めていたが、急報は意外なところからもたらされた。

「美馬さん、手伝いに行ってあげたら?」

 笑いながらドッグランに来ていた客が美馬のもとへやってきた。ショージたちの事件のことなどもちろん知らない。

「どうしたんです?」

 疲れを悟られないよう、普段と変わらぬ人好きのする笑顔で美馬は答える。

「ほら、これ。街中をハスキーが走り回ってるんですって。捕まえに行ってあげたら?」

 客はSNSに上げられた動画を美馬に見せた。

 そこには、リードの無い、ベスト型のハーネスだけを着けたハスキー犬が、追ってくる人々を躱しまくり逃げまくる姿が映し出されていた。

「……ライくん……?」

 美馬のかすかなつぶやきに、航も怪訝な顔で動画を横から覗く。

 間違いなくライだった。

「美馬さん!露口さんに連絡して!曹操!パーカー!」

 航は保護棟の中をうろうろしていた曹操とパーカーを呼ぶ。

「捕まえに行くぞ!」

「リクとカイか!?」

「違う!ライだ!美馬さんも!」

 航は電話をしている美馬を引っ張って自分の車へと連れて行く。美馬は通話しながら引っ張られながら、器用に入り口に掛けられていたリードを手に取る。スタッフもトリーツの入ったバッグなどを渡し送り出す。

「露口さん!?」

 やっと通じたのか声を大きくする美馬のスマホから悲痛な声が聞こえてきた。

『美馬さん!!ライが!!』

「今からライくんのところへ行きます!露口さんも来てください!」

『もういます!いるんですけど、言うこと聞いてくれなくて……!』

 露口の声は涙で震えていた。

『このままじゃ、捕まったら殺処分になっちゃう……』

「誰か噛んだんですか!?」

 驚いて美馬が訊く。

『噛んではないです……!噛んではいないんですけど……、全然捕まらない……』

 最後の方は嗚咽でかき消される。

「大丈夫です。殺処分になんかさせません。とりあえず落ち着いて。ライくんから目を離さないで。そっちに着いたらまた連絡します」

 電話を切った美馬は手で口を覆い、険しい顔で考え込む。たぶん捕まえる算段を立てているんだろうと航は思った。

「……ハーネス着けてましたね」

 前を向いたまま航が言うと、美馬は頷いた。

「あのタイプを着けているということは、犬に慣れている人が最後に触っていると思うんです。でもリードまで付けられなかった……」

「ハーネスが嫌で逃げちゃったんでしょうか?」

「その可能性もあります。でも、ライくんだったら、本当に嫌ならハーネスを着けられる前に逃げてると思うんです」

「ライにハーネスを着けられる人……。よっぽどいい人とか?おやつくれるような?」

 うーんと美馬は唸った。

 午前中とはいえ休日の渋滞のあおりで、なかなか街中に近づけない。道を変えようと方向指示器を出したところで美馬の電話が鳴った。露口だった。

「もしもし!何かありましたか!?」

『美馬さん!どうしよう!!』

 露口の声はもはや悲鳴だった。

『警察がいっぱい来て……、爆発するから犬に近づかないようにって……!!』

「!?」

 美馬はスマホを耳から離して凝視し、航は急ブレーキを踏みそうになった。 




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