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皇子のスキル

            ♡




「届いた?!ってか月割れてない!!??」


 ミナミの絶叫が響く。月はおおよそ4分の1が無くなっていた。そのまま崩壊していく。


「…!!!!」


 老師はもう白目を剥いて倒れている。皇子も戸惑ったように自分の手のひらを見つめている。


「ど…どうしよう?!月無くなっちゃった!」


「無くなるとまずいか?」


 呑気に皇子が訊いてくる。パニックに陥ったミナミは、両手で頭をぐしゃぐしゃに掻きむしった。


「当たり前じゃん!潮の満ち引きが無くなっちゃう!」


(あと…あと何だっけ?自転?自転が早くなるんだっけ?地軸の傾きも変わる?)


 自分が空に打ってみろと言ったせいだ。ミナミはさめざめと泣き始めた。


 月は粉々に砕け散り、破片すら見えない。もうお終いだ…そうミナミが絶望した時、皇子が両手を空に突き出した。彼の魔力が真っ直ぐに天へ駆け登る。


「…何やってんの?ヨッシー」


「土魔法で戻せるかもしれん」


「いや、無理っしょ。あれ、自分で作ったものしか直せないじゃん」


「試してみる。“月よ、元に戻れ”」


 大量の魔力が天に届いた。ミナミも魔力が見える。その煌めきが凝縮すると、時を巻き戻すかのように砕けた月が再生していく。時間にして1分ほどか。皇子は月の再生に成功した。


「土魔法じゃと?バカな。全く違うぞ!これは…」


 何事もなかったかのように、満月が空にある。いつの間にか老師が復活していた。


「これはスキルじゃ!」

 

「スキル?俺の?」


「お主、自分のスキルが分からんと言っとったな。これが()()じゃ」


 興奮した老師は水晶球の記録を確認した。ミナミも喜びと安堵でへたり込む。


「なぜまだ泣いている?」


「良かった…月が無くならなかった…」


 心配して覗き込む皇子に、泣き笑いの変な顔を見せる。乙女の矜持(きょうじ)より安心感が(まさ)った。


「心配させてしまったな。すまない」


 彼が手を差し伸べる。それにつかまりながらミナミは首を振った。問題が解決したのなら、それでいい。彼女は何事も引きずらない性格だ。


「スキルが分かって良かったね!ヨッシー」


 笑顔で最近教えたグータッチをする。皇子も笑って拳を合せた。絶対外れスキルではないとは思っていたが、こんなに凄いやつだったとは。やっぱりチートだ。ミナミは可笑しくて笑いが止まらなかった。


 老師が帰って皇子のスキルを検証すると言うので、実験はこれで終わった。三人は帰路に就いた。




            ♡




 あらゆる壊れたものを再生する力。それが皇子のスキル“再生”だった。

 老師は屋敷の実験室で、色々なものを使って検証した。その結果、無生物は時間の経過に関係なく復元できることが分かった。生物は時間の制限があった。昆虫から哺乳類ヤギまで、失くした部位はいつでも再生できる。だが命そのものは、24時間を超えると生き返らなかった。


「タイムリミットは1日かぁ…」


 実験の犠牲になった鶏をスキルで(さば)きながら、ミナミはつぶやいた。まだ人間での実験はしていない。だが老師はマッドサイエンティスト気味なので、そのうちどこかで死体を調達してきそうだ。


(でもちょっと怖い)


 いくら魔法世界だとは言え、死者の復活など大丈夫なのだろうか。ミナミの心配をよそに、皇子と老師は今日も実験を繰り返している。肉だけになった鶏を保冷庫にしまい、彼女も茶を飲みながらそれを見学した。


「壊れる、という概念から離れてみよう。毒で汚染された水を“再生”してみろ」


「分かった」


 老師が分かりやすいように色のついた毒をまぜた水槽を用意する。皇子が手をかざすと、みるみる無色透明の水に戻る。中で死んでいた小魚も復活していた。


「成功じゃな。魚も生き返っておる。体内の毒も無効化されたようじゃ」


 予想が証明されて、嬉しそうな老師が結果を書き込む。皇子はその様子をじっとみて何かを考えていた。老師が気が付いて訊く。


「?なんじゃ?」


「老師に“再生”をかけると若返るのかと」


「ぶふぉっ!!」


 ミナミが茶を噴き出した。


「…するなよ。誰も儂だと分からんようになったら困るでな」


 憮然とした顔で禁止される。皇子は肩をすくめた。仕草がだいぶこちらの人間らしくなってきている。


「老師の若いころ、見たいな~。イケメンだったって自慢してたじゃん~」


 ケタケタと笑いながら、ミナミが勝手なことを言う。老師は無視してノートに書き込み続けた。


「若返ったものを、さらに加齢させることはできるのか…次はそれじゃな」


「どうやって実験する?」


「老いたものか…何かあったかの?」


 老師が実験室を見回すが、年を取った実験動物はいない。ミナミがまた口を挟んだ。


「老師の髪の毛だけ使えば?元から白いんじゃないんでしょ?」


「なるほど。良いか?老師」


 皇子が訊くと、老師は仕方なく頷いた。


「髪だけじゃぞ」


「ああ」


 結果的には、成功した。老師の髪は輝くような金髪に戻った。全く似合っていない。ミナミは笑い転げた。


「モーリー、早う戻せ!」


 鏡で結果を確認した老師が命令する。皇子が再びスキルを使うと、白髪に戻った。実験は成功した。


「笑いすぎじゃ!ミーナ!レポート20枚追加じゃ!」


「ひえぇええ~!?」


 老師に怒られ、宿題を追加されたミナミはその夜は徹夜となってしまった。

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