皇子のスキル
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「届いた?!ってか月割れてない!!??」
ミナミの絶叫が響く。月はおおよそ4分の1が無くなっていた。そのまま崩壊していく。
「…!!!!」
老師はもう白目を剥いて倒れている。皇子も戸惑ったように自分の手のひらを見つめている。
「ど…どうしよう?!月無くなっちゃった!」
「無くなるとまずいか?」
呑気に皇子が訊いてくる。パニックに陥ったミナミは、両手で頭をぐしゃぐしゃに掻きむしった。
「当たり前じゃん!潮の満ち引きが無くなっちゃう!」
(あと…あと何だっけ?自転?自転が早くなるんだっけ?地軸の傾きも変わる?)
自分が空に打ってみろと言ったせいだ。ミナミはさめざめと泣き始めた。
月は粉々に砕け散り、破片すら見えない。もうお終いだ…そうミナミが絶望した時、皇子が両手を空に突き出した。彼の魔力が真っ直ぐに天へ駆け登る。
「…何やってんの?ヨッシー」
「土魔法で戻せるかもしれん」
「いや、無理っしょ。あれ、自分で作ったものしか直せないじゃん」
「試してみる。“月よ、元に戻れ”」
大量の魔力が天に届いた。ミナミも魔力が見える。その煌めきが凝縮すると、時を巻き戻すかのように砕けた月が再生していく。時間にして1分ほどか。皇子は月の再生に成功した。
「土魔法じゃと?バカな。全く違うぞ!これは…」
何事もなかったかのように、満月が空にある。いつの間にか老師が復活していた。
「これはスキルじゃ!」
「スキル?俺の?」
「お主、自分のスキルが分からんと言っとったな。これがそれじゃ」
興奮した老師は水晶球の記録を確認した。ミナミも喜びと安堵でへたり込む。
「なぜまだ泣いている?」
「良かった…月が無くならなかった…」
心配して覗き込む皇子に、泣き笑いの変な顔を見せる。乙女の矜持より安心感が勝った。
「心配させてしまったな。すまない」
彼が手を差し伸べる。それにつかまりながらミナミは首を振った。問題が解決したのなら、それでいい。彼女は何事も引きずらない性格だ。
「スキルが分かって良かったね!ヨッシー」
笑顔で最近教えたグータッチをする。皇子も笑って拳を合せた。絶対外れスキルではないとは思っていたが、こんなに凄いやつだったとは。やっぱりチートだ。ミナミは可笑しくて笑いが止まらなかった。
老師が帰って皇子のスキルを検証すると言うので、実験はこれで終わった。三人は帰路に就いた。
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あらゆる壊れたものを再生する力。それが皇子のスキル“再生”だった。
老師は屋敷の実験室で、色々なものを使って検証した。その結果、無生物は時間の経過に関係なく復元できることが分かった。生物は時間の制限があった。昆虫から哺乳類まで、失くした部位はいつでも再生できる。だが命そのものは、24時間を超えると生き返らなかった。
「タイムリミットは1日かぁ…」
実験の犠牲になった鶏をスキルで捌きながら、ミナミはつぶやいた。まだ人間での実験はしていない。だが老師はマッドサイエンティスト気味なので、そのうちどこかで死体を調達してきそうだ。
(でもちょっと怖い)
いくら魔法世界だとは言え、死者の復活など大丈夫なのだろうか。ミナミの心配をよそに、皇子と老師は今日も実験を繰り返している。肉だけになった鶏を保冷庫にしまい、彼女も茶を飲みながらそれを見学した。
「壊れる、という概念から離れてみよう。毒で汚染された水を“再生”してみろ」
「分かった」
老師が分かりやすいように色のついた毒をまぜた水槽を用意する。皇子が手をかざすと、みるみる無色透明の水に戻る。中で死んでいた小魚も復活していた。
「成功じゃな。魚も生き返っておる。体内の毒も無効化されたようじゃ」
予想が証明されて、嬉しそうな老師が結果を書き込む。皇子はその様子をじっとみて何かを考えていた。老師が気が付いて訊く。
「?なんじゃ?」
「老師に“再生”をかけると若返るのかと」
「ぶふぉっ!!」
ミナミが茶を噴き出した。
「…するなよ。誰も儂だと分からんようになったら困るでな」
憮然とした顔で禁止される。皇子は肩をすくめた。仕草がだいぶこちらの人間らしくなってきている。
「老師の若いころ、見たいな~。イケメンだったって自慢してたじゃん~」
ケタケタと笑いながら、ミナミが勝手なことを言う。老師は無視してノートに書き込み続けた。
「若返ったものを、さらに加齢させることはできるのか…次はそれじゃな」
「どうやって実験する?」
「老いたものか…何かあったかの?」
老師が実験室を見回すが、年を取った実験動物はいない。ミナミがまた口を挟んだ。
「老師の髪の毛だけ使えば?元から白いんじゃないんでしょ?」
「なるほど。良いか?老師」
皇子が訊くと、老師は仕方なく頷いた。
「髪だけじゃぞ」
「ああ」
結果的には、成功した。老師の髪は輝くような金髪に戻った。全く似合っていない。ミナミは笑い転げた。
「モーリー、早う戻せ!」
鏡で結果を確認した老師が命令する。皇子が再びスキルを使うと、白髪に戻った。実験は成功した。
「笑いすぎじゃ!ミーナ!レポート20枚追加じゃ!」
「ひえぇええ~!?」
老師に怒られ、宿題を追加されたミナミはその夜は徹夜となってしまった。




