園遊会への誘い
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魔力実験から1月。皇子とミナミは、魔法の修行の合間に、ハンターの仕事や王太子の弓術指南をこなしていた。忙しいながらも、充実した日々を送る。
特に皇子のスキルは急成長を遂げていた。老師との検証によって、“再生”のみならず、浄化、毒無効、治癒、若返り、老化、呪詛無効、蘇生が可能になっていた。
(魔法は奥が深い。老師が一生を研究に捧げるのも分かるな)
今の皇子は戦いよりも魔法の可能性を探る道が楽しい。ミナミという相棒がいるのも良い。彼女の奇想天外な魔法は、実に面白い。お互いに競ったり教えあったりして、他の属性魔法も順調に伸びていた。
今日は王太子の護衛騎士たちに稽古をつけている。皇子の魔法攻撃を織り交ぜた訓練は厳しい。だが騎士たちは、予測不能の方向からで襲い来る攻撃を、護衛対象を守りつつ、見事にかわしていた。開始から30分経ったところで終了を告げる。
「それまで!防衛部隊は良い動きだったぞ。攻撃部隊は全員、あと20分掛かり稽古!」
攻撃部隊が集まってくる。皇子は練習用の剣を抜いて、打ちかかってくる一人一人をの相手をした。
◇
全ての稽古が終わった時、訓練場に立っている騎士は数人だった。初めは全員倒れていたのを思うと、成長を感じる。
「教官殿、ありがとうございました!」
数分もしたら全員立ち上がり、礼をする。皇子は頷くと訓練場の出口に向かった。とたんに見学していた令嬢たちに囲まれる。
「モーリー様!タオルをどうぞ!」「喉は乾いておりません?お茶はいかが?」「今日も素敵でしたわ!」「御髪を結うリボンを受け取ってくださいまし!」…
今日は貴族の礼装は着ていない。騎士たちと同じ軽鎧をつけただけの姿だ。何がそんなに珍しいのか、皇子には理解できない。群がる令嬢たちを無下にもできず閉口していると、思わぬ人物がやってきた。
「ユリア姫のお成りである!下がりなさい!」
横柄な口調の女官らしき女が現れた。静かになった令嬢たちは、王族を腰を落として迎えた。
女官に囲まれた少女が歩み寄ってくる。
「モーリー様。ごきげんよう」
ユリア姫は頬をバラ色に染め、挨拶をする。皇子は膝を突いて答えた。
「これはユリア姫。御機嫌よう」
「立ってください!お仕事中にお邪魔して、ごめんなさい」
「もう終わったところだ。何か御用か?」
皇子が立ち上がって訊くと、姫はますます顔を赤くして黙ってしまう。すると女官が代わりに言う。
「姫様はそなたを園遊会にお誘いです」
「園遊会?」
「そうじゃ。来週の園遊会に出席を命じます」
居丈高な女官の物言いに、令嬢たちがざわめく。姫が慌てて言い変える。
「命令ではないわ。お願いよ」
潤んだ瞳で見上げられる。断り辛いが、
「姫。俺は平民だ。宮中に出入りするわけにはいかぬ」
皇子は身分を盾に断る。園遊会など面倒極まりない。だが姫は尚も言い募る。
「で…でも!お兄さまの先生ですし!お父様のお許しも得ています!」
(なぜ許可しているんだ?あの王め…)
どう言い逃れようかと考えていると、そこへ王太子が来た。侍従らとミナミも連れている。
「おやユリア。どうしたんだい?こんな所で」
いつもの外向けの微笑みを浮かべ話しかけてきた。一同、頭を下げて王太子に礼を表す。
「お兄さま…。私、モーリー様を園遊会にお誘いしたくて…」
「そうなの?やあ師匠。ミーナ嬢から騎射の合格を貰ったよ」
王太子が晴れやかに報告してくる。今日は騎射の訓練をミナミに任せていたのだ。
「分かった。次は俺が確かめよう」
「ええ?モーリーのテストもあるの?」
「当然だ」
二人で立ち話をしていると、令嬢たちがため息をついて謎の会話を交わしている。
「尊いわ…」「金の君と黒の君のツーショット…」「絵師に描かせましょう…」
一方、王太子は姫に事情を訊いていた。
「なるほどね。園遊会に。ミーナも来る?僕から招待状を送るよ」
こちらは平民ということを忘れている。話を振られたミナミは畏まって答えた。
「恐れながら殿下。それに参加すると、我々に何か良いことがあるのでしょうか?」
「んー。美味しいお菓子があるかな」
「それなら遠慮いたします。1ゴルドにもなりません。むしろマイナスです」
確かにその日にハンターの仕事は入れられない。貴族服の出費もある。
「だったら私が!二人のお給金を出しますわ!それなら…」
姫が妙な提案をしてくる。吝嗇なミナミのせいで、話がこじれてきた。
「いけません。姫様の予算は、すべて国民の血税です。こんな顔が超絶良いだけの男を侍らせるために使っては、民に示しがつきません」
「え…?」
至極真っ当なようでいて、そうでないような諫言に、姫が戸惑っている。皇子は額に手を当てて呆れた。王太子は噴き出すのをこらえている。
「想像してください。姫様のお金で着飾った美男が、貴族たちに何と言われるかを。『顔で取り入った平民め』『王家に集るウジ虫よ』『姫は詐欺師に騙されておいでだ』…」
ミナミが情感を込めて皇子を貶める。姫は真っ青になって震え出した。
「私…私そんなつもりじゃ…」
「姫の『推し』方は間違っています。このご令嬢たちをご覧ください。彼女たちは『推し』の為になることしか考えていません。これぞ正しい『推し活』です!」
令嬢たちが一斉に頷く。ミナミと彼女たちに謎の連携が生まれている。王太子が笑いをかみ殺して口を挟んだ。
「ではこうしよう。僕がモーリーとミーナを園遊会に招く。もちろん仕事の一環としてだ。支度もこちらで用意する。当日は、ユリアと令嬢たちが彼を守るんだよ」
「はいっ!」
この場で王太子の決定は絶対だ。姫は笑顔を取り戻し、令嬢たちも使命に燃えている。ミナミも懐が痛まない申し出に頷いている。
ただ一人、皇子だけが苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。




