魔力量
◇
秋も深まった頃、老師が弟子たちを野外に連れ出した。二人の魔力の限界値を測りたいと言う。王都から馬で1日ほど行くと、老師の領地がある。山野しかないそこは、主に老師の実験に使われているそうだ。
「本当に誰にも会わないね…」
街道沿いの宿を出て、森を2時間ほど馬で行く。その間、領民らしき人間は見なかった。
「領民はおらんよ。儂は管理できんしな」
老師は馬を歩ませながら言う。いい年のはずだが、騎馬でも平気な様子だった。
森を出て、開けた場所に出た。秋の枯れ草が広がる草原だった。そこで実験をする。
「お前たちはすでに魔法の基礎は修めた。その魔力を限界まで使うとどうなるのか。今日は記録を取らせてもらうぞ」
老師は水晶の球を取り出した。それで記録ができるらしい。
「ミーナはファイヤーボールとウォーターボールをできるだけ大きく、強く打ってみろ。土魔法は…ストーンウォールをどこまで高く出せるかやってみろ」
老師が指示を出す。ミナミは馬が逃げないように森の出口の木に繋ぐと、草原の中心まで行く。皇子は老師と離れた場所で見ることにした。
「行くよー!!」
まずは火魔法で頭上に火球を出す。徐々に大きくしていき、直径3メートルほどになったところで、天に放つ。空高く昇った火球は、爆発霧散した。草原に衝撃波が伝わる。凄まじい威力だった。
「なんちゅうパワーじゃ…。100人は軽く吹き飛ばせるな」
老師は帳面に記録しながら唸る。確かに軍事に転用したら脅威だろう。だが、ミナミは決して人を傷つけることはしない。殺人に対する禁忌が強いからだ。
「次ぃー!ウォータボール行きまーす!」
弾む声から、全力で魔法が打てる喜びが伝わってくる。水球も同じほどの大きさにして、今度は水平に放った。草原にまばらに生える低木をなぎ倒して、1キロほど先で爆発させる。
「なんでいちいち爆発させるんじゃ?!」
老師が疑問を皇子にぶつける。彼女の魔法は、かなり変わっている。皇子は苦笑して教えた。
「派手で綺麗だから、だそうだ」
「綺麗…分からん。なんじゃそりゃ」
茫然としながらも、老師は書き続けた。
「出でよストーンウォール!!」
ミナミは要らぬ詠唱をわざわざ唱える。それも彼女のこだわりらしい。
足元から幅5メートルほどの壁が生える。それはぐんぐんと伸びて、天高く聳え立った。下からではもはや天辺がどこなのか見えない。
「高すぎて失敗じゃな。ミーナ!もっと城壁のような壁を作るんじゃ!」
老師がミナミに大声で言う。ミナミは天に届いた壁を消すと、
「出でよ!シンデレラ城!」
と意味不明の呪文を唱えた。するとミナミの前の草原の100メートル四方の土が盛り上がり始める。見る間にそれは高く伸び、複雑な形を作り出していった。
「なんじゃこりゃ…」
数秒後、それは城になった。高い尖塔をいくつも持つ瀟洒な城だ。屋根は青く、旗が翻る。堀と石垣の城壁を備える、王城のような城だった。
こちらの常識ではありえない魔法なのだろう。老師は口を開けて自失している。
(一瞬で城を作ってしまうとは…。軍が欲しがるな)
また心配の種が増えてしまった。ミナミの能力は危険なものばかりだ。
「いやーさすがに限界。もう何も打てないや」
ミナミが笑顔で帰ってきた。意識が戻った老師が詰め寄る。
「何じゃあの魔法は!?本当に土魔法なのか!?」
「小さい模型みたいなのが作れたからさー。実物大もいけるかなーと思って」
「普通、ストーンウォールと言えば、1枚の土の壁じゃろうが!それが何で城になる!?」
「さあ?想像力?」
とりあえず三人で城の中に入ってみる。外見だけの張りぼてかと思いきや、壁も固く、部屋も窓もある。階段で上階へ行くこともできた。本物の城と言って良い。
「これの民家バージョン作れば、旅先で宿に泊まらなくても良いってこと?」
ミナミは節約できると喜んでいる。相変わらずズレている。
「…この魔法を人前で使うのは禁止だ」
「えー!?」
「お前の力は軍に向いている。見られれば必ず面倒なことになるぞ」
皇子の禁止令に不満顔だが、理由を伝えれば渋々納得する。老師は城の中を詳細に水晶球に記録した。そして外に出て、城を消した。
◇
次は皇子の番だ。計測不能といわれた魔力量を、限界まで出したことはない。
ミナミですらあの威力だ。さらに上の皇子ではどうなるのか。全員気を引き締めた。
「モーリーは…そうじゃな。風魔法からいってみるか」
皇子は自身の周りに風を生む。少しづつ風力を高め、風の壁の大きさを増す。同時に高さも増すと、竜巻ができた。もっと魔力を込めようと思った時、ミナミが叫ぶ。
「ストーップ!!ヨッシー!止め!馬が飛んじゃう!」
いつの間にか強風は草原全体に及んでいた。馬を繋いでいた木が倒れるほどに傾いでいる。慌てて皇子は魔法を止めた。
「もっと広い場所でないとダメか。モーリー、今ので魔力はどれほどだ?」
「半分以下…いや、もっと少ないな」
これでは全力など出したら、草原全てを吹き飛ばしそうだ。老師も同じ意見だった。
「では魔力全開で4キロに及ぶ、と仮定しておく。次は水にするか。…慎重にな」
水球を浮かべる。どこまで大きくしても魔力に限界はこない。草原いっぱいに水が広がる。空が見えなくなると、老師が青ざめて言った。
「これが落ちてきたら、どうなるかの?」
「洪水だね!チートすぎて笑える~」
ミナミはなぜか腹を抱えて笑っている。
「老師。どうする?」
皇子は師に訊いた。老師は首を振った。
「止めじゃ。一応聞くが、魔力はどれほど使った?」
「ほとんど使っていない」
「…モーリーに関しては日を改める。もっと広い場所を用意せんとな」
実験の中止が決まる。ミナミは不満そうに口を尖らせた。
「えー!?一回くらい全力見せてよ。空にバカーンって打てば良いでしょ?」
「うむむ…。儂も見たいが…」
老師は迷っている。結局、火魔法をかなり遠くまで打ってみることになった。
「大丈夫、大丈夫。成層圏まで何もない世界なんだから」
「せいそうけん?」
皇子は全力で練った大きな火球を空に打ってみる。雲を突き抜けてその先は見えない。
「よく見えんな。モーリー、風で雲を払ってみろ」
「分かった」
上空に風を起こして雲を押しやると、火球が尾を引いて上昇していくのが見える。
三人はその先に満月が出ていることに気付いた。
「まさか届くわけないよねー」
ミナミが額に手をかざしながら、不吉なことを言う。
「そんなバカなこと…」
老師が笑って答えた時、月が、欠けた。




