自称普通の高校生は走り出す
一気に四話投稿して完結します。
俺は前世の知識を持つだけの普通の高校生だ。
前世の俺は辺境の開拓村に住む、猟師の父と薬師の母の家に産まれた普通の村人だった。
子供の頃から家の手伝いをして、開拓村を少しでも大きな村にするために頑張っていた。
日によっては、朝から晩まで森の中を駆け回って獲物を狩ったり。
日によっては、狩った獲物の皮を剥いで毛皮に加工したり。
日によっては、山で採取した薬草をすり潰し、薬を作ったり。
日によっては、村から街まで狩った獲物の素材を売りに行ったり。
本当に色々な事を経験し、身を粉にして働いてきたと思う。
お陰で、狩りの腕では父を超えることが出来た。
一日で仕留める獲物の数が父よりも多くなってきたのだ。
その時の、父の嬉しそうな、それでいて悔しそうな感情がなぜか感じ取れた。
十五で成人する頃には母にも薬師の技術、魔法の技術を何とか認めてもらった。
「キースが一人でも多くの人の役に立てたら母さんも嬉しいわ」
その時の母さんが眩しいものを見るかのような目をしていたのを覚えている。
しかし、二十五の時に魔物の大量発生が起こり、俺の生まれ育った開拓村はあっけなく飲み込まれた。
俺も開拓村の被害を少しでも減らすために父と母と一緒に立ち向かってみたが結果は無残なものだった。
千年に一度。
この長い期間が俺も含め、人々の認識を狂わす。警戒をし、用心をしつつも規模を見誤る。
被害の結果を知りつつも、魔物の大量発生を軽く見てしまう。
当時の俺も含めて、全ての人がそうだったのだろう。
頑張れば生き残れる。
死に物狂いでやれば、なんとかなる。
その結果、なんともならなかった。
両親は開拓村であっけなく魔物の大量発生で命を落とした。
俺も撤退しながら善戦はしたが、最後にはプッタの街で爺さんを助けるために身代わりになり命を落とした。
そして気が付けば日本で転生していた。
何処にでも居る普通の家庭に産まれた、普通の子供、山田 太郎として。
何の因果か、普通の高校生になった俺は突然、前世で生きていた世界に転移した。
しかも、また魔物の大量発生を経験することになった。
これは偶然なのか、それとも運命なのか。考えても結論は出なかった。
しかし、出来ることはやらなくてはいけない。
普通の高校生なので前世ほど戦えない俺でも前世の知識がある。
プッタの辺境伯領主であるダンカン・プッタ様には俺が前世の知識を持つことを、全て話した。
今では英雄とされているキースだった事を含めて全部だ。
ダンカン様は英雄視していたキースが転移者では無かった事を残念そうにしていたが、俺の話を最後まで聞いたくれた。
そして、今回の魔物の大量発生への対応を再検討してくれた。
魔物の大量発生への認識は修正出来たと思う。
これが一人でも多くの被害を減らすことに繋がれば良いと思う。
パアァンッ!
魔物の大量発生が始まった。
今は店の戸締まりを厳重にして、ネコと愛ちゃんは二人一緒に二階の部屋へ避難させている。
街壁の外で食い止めてくれている騎士や冒険者達の頑張り次第で街への被害が変わってくる。
被害をゼロには出来ないだろうが、上手く行けば半壊で終われるかも知れない。
そんな希望的願望を持つ時点で俺も魔物の大量発生の規模を見誤って居たのかもしれない。
オォォォォォォッ!
外で戦っているであろう者たちの叫びが此処まで聞こえてきた。
俺は何をやっているのだろう。ふと思った。
なんで俺はこんな目にあっているんだろう。そんな事も思った。
街の外では血を流しながら戦っている人達がいる。
その中には駆け出しの冒険者や新米の騎士も居るんだろう。
そんな人達でも頑張っているのに、俺はここで震えている。
なんだろう?なんか腹が立ってきた。
自分自身に対してもそうだし、この状況に対してもだ。
俺は魔物の大量発生で一回死んだ筈だ。
なのに何でもう一度魔物の大量発生を経験しなきゃならんのだ?
あー、ダメだ。
本当にむかっ腹が立ってきた。
俺は家を抜け出し、北門まで走り出した。




