自称普通の高校生はドンと構える
俺が転移してきたこの世界はだいたい千年に一度、魔物の大量発生が起こる。
俺が持つ前世の記憶は千年前の魔物の大量発生で命を落としたキースという男のものだ。
死ぬ間際に助けた人物が当時のプッタ辺境伯領主だったことから今では英雄として街の一番目立つところに銅像として飾られている。
俺自信は顔から火が出るくらいに恥ずかしい話のなので出来るだけその場所には近付かないようにしている。
俺がこの世界に転移してきてから出会う人達全てが『千年前』という言葉を使っている事に目を背けるのもそろそろ限界かもしれない。
毎日の狩りで結構な数の獲物を狩り続けていられる『異変』を認めるべきかもしれない。
魔物の大量発生が近付いてきている。
ある意味、この魔物の大量発生他のためにプッタの街は千年前から準備を始めてきたと言ってもいいだろう。
現在は三重に街壁を貼り、魔物の大量発生に耐えられるようにしている。
押し返すとか、迎え撃つではなく『耐える』と表現するところからも魔物の大量発生の深刻さ、脅威を察することができるだろう。
だからといって戦力を持たないわけではない。
少しでも魔物の大量発生の被害を減らすためにも戦力は必要だ。例えそれが襲い来る津波に両足を踏みしめて耐える行為だとしても。
そんな僅かばかりの抵抗のために駆り出されるのが腕っ節の強い冒険者達であったり、本来は辺境の治安を守る私設騎士団であったりする訳だ。
当然『大和魂』にも指名が入った。
上級の戦士職でもあるリーダーの佐藤 裕太さん四十歳。
斥候担当の高橋 博さん三十歳。
中級の魔術師で腐女子の中村 愛美さん二十歳。
一年前に転移してきた回復担当見習いの伊藤 和夫さん二十五歳。
ちなみに、『大和魂』の頭脳であり良心でもある山本 愛ちゃん十歳は自分の身を守る事すら出来ないのでお留守番となり、何故かウチ、『タロウ亭』で預かることになった。「私の事は気にしないでネコちゃんといつものようにしてて……薄い本みたいに……」とか言ってたけど、謂れのない誤解だ。何もしてないし、するつもりもない。
魔術しか使えない魔術師達にはあまり解らないみたいだけれど、魔法を使う俺には分かる。マナが濃くなってきている。
前世の時と同じ、魔物の大発生が始まる兆候だ。
早ければ明日、遅くても一週間くらいで北の森から魔物が押し寄せてくる筈だ。
前世の知識と、現在公表されている情報を合わせても魔物の大発生が何故起こるのか解らないそうだ。
仮に魔物の大発生が起こる条件や理由、原因が分かったとしても、魔物の大発生でそういった情報が失われたりするので後世に残らないんだろう。
「じゃぁ、行ってくるわ」
そう言って愛ちゃんを除く『大和魂』の四人が北門へ向かって出ていった。
森の様子や雲の流れる速さ、そういった環境の変化で領主館の人は魔物の大発生が近いことを疑っているらしい。
なので、最近は陽が登ってから陽が落ちるまで冒険者達と騎士団達は交代で北門から北の森を警戒しているそうだ。
残された俺達の会話は少ない。
ほんの少しだけ人より狩りの経験があったしても、今は失われたとされる魔法が少し使えるからと言っても普通の高校生である俺が魔物の大発生で役に立てるとは思えない。
確かに前世の俺は大活躍をしたのだろう。現に英雄なんて肩書で銅像まで作られている。
しかし、前世の俺と決定的に違うのは根本的な身体能力。これだろう。
魔法で身体強化をすることは出来るが、前世のスペックで全力の身体強化をしてもあっけなく死んでしまった訳だから、基本スペックの落ちる普通の高校生では更に足手まといになる可能性が高い。何よりも「助けに来たぜっ!」って颯爽と格好良く現れたクセに何の役にも立てなくてあっけなく死んでしまったら、それこそ死んでも死にきれない事になりそうだ。
なので現在の俺が出来ることをやる。
悔しい気持ちはあるけれど、逃げ出したい気持ちもあるけれど、なんで自分が?って気持ちももちろんあるけれど、今はネコと愛ちゃんが家に居るわけだし、せめて彼女たちが不安がらないように俺はドンと構えておこう。
頭のいい愛ちゃんには直ぐに見抜かれそうな虚勢だったとしてもね。




