自称普通の高校生は天職を見つける
冒険者PT『大和魂』のリーダー佐藤さんが『タロウ亭』に来てから数日、いつもと変わらない日々が過ぎていった。
たとえ、黒目黒髪の初見のお客さんが『タロウ亭』の定食を食べ終えた後お茶を要求してきたりといったことがあったり、「ハンバーグないの?」と無茶を言ってきたりしても、『タロウ亭』の営業が終わればどこからともなく黒目黒髪の転移者の集団が現れ、店の中に勝手に入ってきてテーブ席で勝手にくつろぎ始めても、断固としていつもと変わらない日々が過ぎていったと言ってやるゾ、こんちくしょう。……どうしてこうなった?
「いやー、うちのメンバーに話したんですよー」
悪びれる様子もなく、邪気のない笑顔で『大和魂』リーダーの佐藤さんはお茶を啜る。
そう、いつの間にか『タロウ亭』は『大和魂』のたまり場になってた。まぁ、お代はしっかり頂いているので文句の言いようも無いんだけれどね。
そんな俺と佐藤さんのやりとりを『大和魂』で魔術師をしている女性、中村 愛美さんが腐った目をして見ている。
彼女の初対面での第一声が「太郎くんは掛け算に興味ある?」と謎の言葉だったので、念の為に「攻めの反対は?」と聞いたら「受け!」と即答されたので多分、そっちの人なんだろう。ちなみに俺は「守り」と言って欲しかった。
ちなみに彼女は『大和魂』の斥候担当、高橋 博さんとリーダーの佐藤さんが絡み合う薄い本を制作しているらしい。
先日、ネコに自主制作の薄い本を渡そうとしていたので遠慮なくアイアンクローをかましておいた。
何も知らない純真無垢な少女に何をしている!
ある意味被害者でもある高橋さんは三十代の落ち着いた雰囲気の男性で今も静かに薄い本を眺めながらお茶を啜っている。
てか、その薄い本、あなたが書かれているんですけど良いんですか?
そして、中村さんに次のリクエストとか言ってますけど……?あぁそうですか、あなたは腐った男性なんですね。
他にも個性豊かなメンバーはいるけどそれは追々。
ひとつ確かな事があって、『大和魂』には普通のってか、マトモな人が一人も居ない。
唯一の良心とも言える、『大和魂』の頭脳とも言うべき影のリーダーが山本 愛ちゃん、十歳。なんでっ!?
彼女は四歳の時に異世界に転移して速攻で人攫いに会い、三年もの間、非合法の人身売買の犠牲となっていた凄まじい過去を持つ少女だ。
その壮絶な過去のせいで感情は薄くなっているものの、本来の才能なのか非常に頭の回転が早く、少ない言葉数で的確なアドバイスをしているらしい。
今日はそんな彼女のために、みんな大好きハンバーグを作ろうと思う。
初めて客として見せに来た時に「ハンバーグないの?」と言っていたのが少々気になっても居たからだ。
多分、大好物なんだねハンバーグ。
さて、この世界ってか、プッタの街しか知らないけど、肉ってやつは厚ければ厚いほど良いという頭の悪い奴が好みそうな趣向がある。
つまり、せっかくの肉をミンチにするなんてとんでもない!って考えがある。なので、この料理は転移者にしか受けない。
この世界の人間に出そうものなら、その瞬間に村八分にされるかも知れない。下手したら店に火を付けられて異端者呼ばわりされるのも冗談ではなく現実に起こるかも知れないほど深刻に真剣な問題だ。
なので、営業時間終了後のこの時間にしか出せない限定メニューだ。
さて、取り出しましたのは一昨日の午前中に俺が仕留めてきたイノシシの肉。熟成もさせて良い感じです。
これを包丁で細かくミンチに。ちょっと歯ごたえも欲しいのでたまにゴロっとした塊も。
それに、卵と玉ねぎっぽい野菜、パン粉を練り合わせて、軽く塩コショウ。
ヤギのミルクを淹れて更に捏ねる。
人肌で肉の油が溶けてしまうので、魔法での温度管理も忘れずに。
食べやすい大きさに空気を抜きながら成型したら、熱したフライパンにジュワァー!っとね。
キラキラした目でハンバーグを見つめる愛ちゃん。感情が薄いっても無いわけじゃない。ちゃんと好奇心の塊みたいな目をしてくれる。
ゆっくりとナイフをいれてハンバーグを口に運び、ゆっくりと噛みしめるように咀嚼。
「……おいしい……」
その一言が聞きたかった!
普通の高校生である俺が異世界に馴染み始めて、人に料理を提供することが自分の天職になるんじゃないかと思い始めた瞬間だった。
「……これが伝説のハンバーグ……」
違うけど、ある意味この世界じゃ伝説かもね。




