自称普通の高校生は日本人と会う
プッタの街にある食堂『タロウ亭』は瞬く間に繁盛した。
営業時間は昼の数時間だけの限定百食の定食のみというのも妙な希少価値を出したのかも知れない。
昼前から店の前に行列が出来、開店の五分前には猫獣人が人数の締め切りをする。
中には獣人族を快く思っていない者も居たが、ここ『タロウ亭』でそんな事を言えば店主から出入り禁止を言い渡されるので誰も口にしなかった。
ちなみに、ご近所さんは営業時間終了後にコッソリと提供しているのでご近所さんからの苦情等は出なかった。
「ふぅー、おつかれさん!」
俺は窯の火に灰を被せて火を落としながら今日も一日頑張ってくれたネコを労う。
「おつかれさまです」
ネコも額の汗を拭いながらテーブルを拭いていた手を止めて掃除を終了させる。
今日の営業が終わり、内緒のご近所さんへの提供も終わった夕方前。
いつもなら少しの休憩をしてから夕食の準備を始めるのだがその日は少しだけ違った。
「ごめんください」
そう言いつつ店に入ってきたのは四十歳ほどの黒目黒髪の男性だった。
身長は俺より少し高そうな百八十センチくらい。
服装はここプッタでよくある平凡な服なのだが、伸びた背筋と整えられた髪の毛が妙な清潔感を出している。
この人、凄くスーツとか似合いそうだなと思いつつ要件を伺ってみる。
「はい。なんでしょう?すいませんが本日の営業は終わっているのですが……」
「あぁ、いえ、そうではなくてですね。いや、もちろん、そちらも興味はあるのですが、本日お伺いさせていただいたのはですね、おぉっと失礼、わたくし、こういうものです」
少々あたふたしながらも男が名刺を差し出してくる。
まんまサラリーマンのようだなと苦笑しながら名刺を確認する。
冒険者PT 『大和魂』
代表 佐藤 裕太
その名刺にはこう書かれていた。
大和魂……以前、冒険者ギルドで聞いた転移者が作ったPT。
てっきりパラリラ系の人達かと思って敢えて接触を避けてきた人達。
めっちゃ普通の人だった。
「あなたは日本人ですか?」
佐藤さんは聞いてきた。別に俺も隠しているわけでもないので「はい、そうです」と答える。
「あぁ、いえ、別に警戒させるつもりは無いんですよ。タロウって名前がどうも気になってましてね。もし、なにかお困りのことがあれば援助やお手伝いが出来ればと思ってましてね……って普通に答えましたね」
手をパタパタさせながら言葉を繋げ、そしてまさかのノリツッコミ。
なんだか、一人であたふたしてて楽しい人だ。
まぁ、なにわともあれお客様だ。
まさかの同郷、同じ日本人が訪ねてきてくれたんだからお茶でも一杯。
俺は厨房に入り、先日山で自生しているのを見つけた茶の葉からお茶を淹れる。
いつの間にかテーブルに腰掛けた佐藤さんにお茶を淹れた湯呑みを差し出す。
お茶の香りに気がついたのか「おっ」と一息漏らしてからゆっくりとお茶を啜る。
目を閉じた佐藤さんからツツーっと涙が流れる。分かるぞその気持。俺も初めてこの世界でお茶を飲んだときと同じリアクションだ。
だから、ネコはその変な人を見る目を辞めなさい。それは地味に俺も凹むから。
「まさか、まさかこの世界で緑茶が飲めるとは……」
佐藤さんは湯呑みを両手で持ち感慨深そうにつぶやく。
全く日本が感じられないこの世界でほんのひと時でも日本を思い出して貰おうとお茶を用意した俺の気持ちは伝わったようだ。
「ちなみに、お茶菓子とか無いんですか?」
しかし、この佐藤さん、日本人らしい奥ゆかしさは何処へやら図々しくも茶菓子を要求してきやがった。
ねぇよっ!お茶だけ飲んで帰れ!




