開戦前夜7
「嫌です」
意外なところで問題が出た。
フィンが同行を拒否したのだ。
今回の件の重要な人物である。
彼が動かなければ、わからないことだらけだった。
「嫌です、本当に嫌です」
半分べそをかいているフィンは、アリサと三人の兵士に囲まれていた。
「でも、あなたが来ないと何も始まらないわ」
兵士の一人が言った。
まだモジモジしながら、フィンはその兵士の顔を見る。
兜に隠れて表情はよく見えない。
フィンは納得できないという視線を送った。
「フィン様、お覚悟を決めてください」
困ったような顔で兵士の後ろに立ったアリサが言う。
そのアリサの顔を見て、ますますフィンは泣きそうになる。
そして目の前の兵士に向かって言った。
「卑怯ですよ、アリサ様」
兵士が兜をずらして、堪えきれないといった感じで笑った。そこにはアリサの顔があった。
「これぐらいしないと、ダメでしょ。そもそもお城から出られないんじゃ、何もできないじゃない」
「ですけど」
言いかけたフィンの声をかき消すような、大声があがった。
「男ならさっさ覚悟をしろ! 自分のやろうとしていることに、責任がとれないなら異を唱えるな!」
違和感なく軍服を着こなしていたのはミサだ。むしろ普段着ているため、着こなすという表現は少々違うのかもしれない。
「早く着替えちゃいなさい」
ミアだった。
こちらはラインが出ないように、大きめの服を着ている。彼女の膨らんだ胸は、きつめの下着に押し込められている。
ミアが指差した先には赤を主にした、フリル付きのドレスがあった。所々にピンクの刺繍が入り、可愛らしさを強調している。
「だったら僕も軍服にしてください。なんでドレスなんですか」
ミサが首を横に振る。そしてフィンの肩を掴んでグッと引寄せ睨んだ。
「お前のように軟弱な兵士がいるか! つべこべ言わずに早く着ろ」
そのまま引き裂くように服を剥いでいった。
数分を待たずして、そこには可愛らしいお嬢様が立っていた。
「やっぱりよく似合うわ」
着替えさせ終わったミアが、ゆっくりと見物する。小顔に大きな眸、そして線の細い体はどう見ても女の子だった。指は細く、手袋をしているように白い。
「お化粧もしてみていいかしら? 何か小物も必要ね」
真面目に考え込むミアの後で、アリサはお腹を抱えて笑い転げ、ミサはドキドキしていた。メノアは苦笑いしながらミアを手伝い、フィンはその間震えていた。
その日の日記にフィンは
『おもちゃにされた』
と書いた。
今までで味わったことのない屈辱だった。
そして、二度と女装しないと誓った。
しかし、ミサの日記には
『あれならいける』
と一言だけ書かれていた。




