表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/37

Minority Town(5)

 劇場を出ると、すぐに僕とイケダのセレクトベルが鳴りはじめた。確認するまでもなく(確認はするんだけど)、そこに表示された文章は小人の言っていた通りの内容だった。

 少数決の結果、条件を満たした者にうんとひどい罰を与えることが決まったということ、今夜七時から劇場でよそ者たちの歓迎会を行うので参加してほしいということ――その二つの情報を僕らに伝えて、またセレクトベルは沈黙してしまう。

 沈黙しているのは僕とイケダも同様だった。恐怖や焦り、不安などの感情がごちゃ混ぜになった、なんとも重苦しい沈黙だ。

 小人の笑みが、頭にこびりついたようにいつまでも離れなかった。緊張のためかひどく喉が渇いていて、コカ・コーラかなにかを一気飲みでもしたい気分だった。


「何も悪いことなんてしてないタカフミがひどい罰を受けるだなんて、どうすれば……」


 たっぷりと時間を置いてから、イケダの口からこぼれたのはそんな頼りない言葉だった。

 だけどそんな言葉を聞いたからこそ、僕はある一つの決意をする。弟をさらわれて混乱しているイケダに代わって、僕がどうにかしてこの状況を打開しなくちゃいけない。こんなふざけた街の中で、イケダタカフミのことを助けることができるのは、僕だけだ。あんまり可愛いヤツじゃなかったけど、僕がタカフミを助けなくちゃいけないんだ!


「僕が……僕がなんとかするよ」

「ほ、ほんとに!?」イケダの顔が一気に破顔する。

「ほんとだよ、なにがなんでも助ける。僕はタカフミに、こんな街に留まり続けてほしくないんだ。タカフミはまだ小さいし、これからどうなるかなんて僕らには分からないじゃないか」

「でもこの街の人はみんな、弱いけど優しくて……」


 タカフミがさらわれたというのに、イケダはまだそんなことを言っていて僕は呆れる。


「そんな話は後だよ! 今はタカフミを助ける方法を考えるんだ」


 そして僕はイケダにひとつの提案をする。上手い作戦とは言い難いんだろうけど、タカフミを助けるために僕らにできることなんて、今の時点ではこのくらいしかないように思えたんだ。

 僕とイケダは手分けして通りを歩き、目に入ったほとんど全員に声をかけていった。

 セレクトベルの満たしてはいけない条件について、この街の町長について、劇場について、その他にこの街について何か知っていることや気づいたことがあればなんでもいいから教えてほしい。そんな風に頼んでいくと、ある人は親切に、ある人は露骨に嫌そうな顔をしながら、自分の知っている情報を教えてくれた。

 あんな質問をして、なんとなくこの街の住人に怒られるかもしれないと覚悟していたけど、そうはならずに僕はホッとした。


「最初は少し怖かったけど話してみるといい人ばかりだな、この街の人たち」


 オレンジ色にその景色を変えていく少数決の街の路地で、イケダはそう言った。


「あぁ、僕もそう思ったよ。この街の人はいい人ばかりだった」


 本心だった。別に足がない人や同性愛者のことを怖がっていたわけじゃないし、あの性格のひねくれた小人の姿を目にしたからという理由もあるかもしれないけど、それは正直な僕の気持ちだった。

 僕らは手に入れた情報のそれぞれをお互いに交換することにする。

 集まった情報のひとつひとつは大したものじゃないけど、その全てをあわせて考えてみると、僕の脳みその中心近くになにかしら訴えかけてくるものが確かにあった。


『三ヶ月前にアナちゃんという女の子が急に姿を消したんだ』


『夜中になるとうちの排水溝からたまに話し声が聞こえるのよね。怖いわぁ……』


『目が見えないだけの僕と比べものにならないような、それを障がいと呼ぶのもはばかられるような姿をした人間たちが、この街のどこかでひっそりと暮らしているって噂さ』


『劇場には何回か行ったことがあるけどさ、町長は見たことないよ。人前に出るのが嫌いだっていう噂さ』


『少数決で全てを決めるっていうこの街のやり方に、誰もが共感しているわけじゃないさ。それでも僕はこの街が気に入っている』


『夜中にどこかから、話し声が聞こえるんだよ。気のせいかもしれないけど』


『アナちゃんとは知り合いだった。彼女はいつもセレクトベルで自分の意見が通らないって笑ってたよ』


『この街には幽霊がいるんだ』


 セレクトベルの満たしてはいけない条件やこの街の町長、そして劇場についてはほとんど分からないままだったけど、その代わり僕らはこうして面白い情報をいくつも手に入れた。

 その中でも特に僕らが気になったのは、事故で半身がマヒした男性の言っていた言葉だった。この街には、幽霊がいるんだ……。


「幽霊だなんて……そんな馬鹿な」そう言ったイケダは、とても分かりやすくぶるぶるっと肩を震わせていた。

「小人がいるんだから、幽霊がいたって不思議じゃないよ」


 自分の恐怖心をごまかすために、僕はそんなことを言ってにやりと笑う。


「やめろよな」イケダは力なくそんなことを言い返すだけだった。


 そして僕はまた、イケダにひとつの提案をする。噂話によると、この街のどこかにあるかもしれない秘密の場所。まるで幽霊のように微かな声だけをこの街に漏らしているその場所を探し出すための、とある提案を。

 本当にそんな場所があるのかも、あったとしてそこにタカフミがいるのかも分からないけれど、僕らはただホテルに戻ってゆっくりくつろいだりするわけにはいかないんだ。


「……分かった、モリカワ君の言うとおりやってみるよ」僕の提案を聞いてひとしきり悩んだ末に、イケダはそう言った。「でもさ、本当にあの劇場のどこかに秘密の場所に通じる道があるのかな?」


 イケダの疑問は当然だ。それでも、僕はその可能性が高いんじゃないかと踏んでいた。


「もし本当にこの街に秘密の場所があるならさ、町長が知らないはずはないと思うんだ。でも町長はほとんど外に出ずに、ほとんどの人がその姿を見たことがないだろう」


 僕がそう言うと、イケダはひとしきり考えるしぐさを見せてから言った。


「つまり劇場の中から、その秘密の場所へ行けるってことか」

「すべて推測でしかないんだけどね。秘密の場所なんてものはないかもしれないし、町長は夜中にこっそり外へ出てるのかもしれない。秘密の場所があったとして、タカフミはそこにいないかもしれない。でもタカフミが劇場のどこかにある秘密の場所に監禁されてる可能性が、僕は一番高いと思ってる。僕を信じてほしいんだ」

「分かった。でも、監禁か……」


 その言葉の不穏な響きに、僕とイケダはしばらく押し黙ってしまう。監禁――なんて悪意に満ちた言葉なんだ。

 それから僕らは簡単に、歓迎会に来た人たちに紛れて劇場に入り込んでからのことを打ち合わせて、オレンジから紺色に変わり始めるその奇妙な街を劇場に向かって歩いた。

 今置かれているひどく非現実的な環境に、僕はいまだに慣れることができそうになかった。当たり前の毎日から、僕は本当に、遠く遠く離れてしまったみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ