4話 平凡聖女は骸骨公爵からドレスを贈られる
通されたのは、豪華な客室だった。
(王宮に準備されていた高位貴族向けのお部屋みたい……)
壁には絵画が掛けられ、高そうな壺なども飾られている。
「こちらの部屋だが、不便なことがあったら言ってほしい。すぐに対処させよう」
そう言われて、目を瞬かせる。
「あの、本当に私がこのお部屋を使ってよろしいのですか?」
「何か気に入らないところがあったか? 一応、ここがこの屋敷で一番格が高い客室なのだが……」
「そういう意味ではありません。その、豪華過ぎるというか……私は他の使用人の方と同じ扱いで良いのですが……」
公爵様は首を振る。
「私はジェラン子爵令嬢に専属聖女として相応しい扱いをと思っている。それに忘れているようだが、あなたは王女殿下から婚約者としてこちらに遣わされてきた。そのような存在を使用人と同じように扱っていたとなると外聞も悪い。気になるなら、専属聖女としての働きで返してほしい」
「……かしこまりました」
身分不相応過ぎて肩が凝りそうだが、断るのは難しそうだ。
「それと、侍女を紹介しておこう。屋敷のことで何か分からないことがあれば、彼女に聞くように。ミラは年も近いからきっと要望を言いやすいだろう」
「侍女のミラです。よろしくお願いします」
「ジェラン子爵家のジゼルと申します。公爵様の専属聖女として、これからお世話になります。どうぞジゼルとお呼びください」
ミラさんは、赤みのある金髪をきっちりと束ねている。
二十代半ばくらいの、できる女性といった感じの人だ。
公爵家に仕えるような侍女だ。
下手したら自分よりも身分が高い人かもしれない。
「ひとまず今日は旅の疲れを癒やしてほしい。明日から頼んだぞ」
公爵様が部屋を出て行かれた後、ミラさんが言う。
「早速ですが何かお手伝いはございますか。お荷物を解いたりなど、お一人では大変でしょう」
「大丈夫です。もともとカバン一つだけですし、すぐに終わりますから」
「……お荷物は後から運ばれてくるのだと思っておりましたが、もしや今、お持ちのそちらだけなのでしょうか」
私が頷くと、ミラさんは目を瞬かせている。
流石に貴族令嬢としてドレスを持って来ていないとは思わず驚かれたようだ。
私もできたら公爵領の教会に身を寄せようくらいの考えでいたから、服のことは考えてもいなかった。
(王宮務めの時は、お仕着せがあったし……)
そこまで考えてハッとする。
「あの、もし可能でしたら明日から、公爵家のお仕着せをお借りすることはできますか?」
「お仕着せをですか……。それで聖女としてお力を使われる際に、何か差し障りはございませんか」
「特にはございません。王宮では、侍女服で過ごしておりました」
「では、少々確認して参ります」
何か用事があれば、ベルを鳴らせば別の侍女が来るからと言い置いて、難しそうな表情でミラさんは部屋を後にした。
侍女服を借りることができなければしばらくはこの服で過ごして、お給料が出てからお洋服を揃えてもいいかもしれない。
クローゼットに荷物をしまうと、ひとまず部屋を見て回る。
(わぁ……! お風呂までついてる!)
魔道具が使われているようで使い方はわからないが、この部屋で自由にお風呂に入ることもできるらしい。
(至れり尽くせりってこのことかしら。明日から、頑張ろう……!)
そんな風に思っていたところで、ミラさんが戻ってきた。
服については心配ないとだけ言われ、お風呂の使い方を教えてもらう。
晩餐も部屋に運んでくれるそうだ。
途中、清書された契約書を執事が持ってきてくれて、そちらにサインも施す。
私はそれまでの疲れもあり、夕飯とお風呂を終えると早めに就寝した。
ベッドもふかふかで、夢のような寝心地だった。
翌朝。
朝食を終えると、大荷物が運ばれてきた。
形からしてドレスの入った箱のようだが、私に心当たりはない。
「これは一体……?」
「旦那様からです。どうぞ中をご確認ください」
ミラさんに促され一番上にある箱を開くと、中には可愛らしい黄色のドレスが入っていた。
他の箱もすべてドレスのようだ。
桃色や紫、青色など、形や色が異なる素敵なドレスがたくさん届けられている。
「なんてきれい……」
「お気に召されましたか」
ドレスに見蕩れていると、微笑みを浮かべたミラさんに見られていたことに気がつき頬を抑える。
「とても素敵だと思います。ですが、昨日私がお仕着せを貸してほしいと言ったからですよね。こんなに高価なもの、いただく理由がありません……」
「お気になさらず。旦那様からカードを預かっております」
ミラさんからシンプルなカードを渡される。
――これも待遇のうちだ。気にせず受け取ってほしい。
公爵様のサインと共に、流麗な文字でそう記されていた。
確かに衣食住心配はないと言われたが、ここまでしてもらっていいのだろうか。
戸惑う私に、ミラさんがにこりと笑みを浮かべる。
「お礼を直接おっしゃると、喜ばれるかと思います。早速、お召し替えをいたしましょう。何色のドレスをお召しになりますか?」
一瞬、遠慮してもとのワンピースのままで過ごすことも頭をよぎったが、それはかえって失礼だろうと、悩んだ末に、一番最初に目に入った黄色のドレスを選ぶと、ミラさんが着替えを手伝ってくれた。
(私が着てしまって、本当に申し訳ないくらい素敵なドレスね……)
柔らかなレモンイエローの布地には繊細なレースが縫い付けられ、このドレスを着るだけで、自分がきちんとした令嬢のように見える。
「とてもお似合いです。折角ですから髪を結ってよろしいですか」
「お願いします」
ミラさんの手によって支度が調ったところで、公爵様のご都合を聞きにいってもらう。
まだ何も成していないというのにここまで手厚い待遇を受け、私の方は気合いは十分だ。
今から構わないという言葉に、私は公爵様のところへと向かった。




