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5話 平凡聖女は骸骨公爵の過去を知る

 昨日の応接室ではなく、公爵様の執務室の方に呼ばれた。

 公爵様は、相変わらず体調が悪そうで、酷い顔色だ


「公爵様。この度は素敵なドレスを贈っていただき、誠にありがとうございました」

「至急用意したため既製品しか準備できなかったが、よく似合っている。気に入ってくれただろうか」

「もちろんでございます。ご厚情に報いるべく、精一杯務めさせていただきます」


 目を細める公爵様にドレスをつまんで礼をする。


「早速ではありますが、朝の健康確認をいたしましょう。お側に寄って、お手に触れてもよろしいですか」

「構わない」


 側に行き、跪こうとすると、隣に座るようにと促される。

 公爵様の護衛を見ると頷いているので、問題ないようだ。


「失礼いたします」


 隣に行き、腰を下ろすと、早速公爵様の手を取った。


「まずは公爵様の体の状態を確認し、不調が見つかりましたら、その場所に回復魔術をかけていきます」

「わかった。昨日の説明の通りだな」


 公爵様に負担がいかないよう、慎重に制御をしながら、重ねた手から魔力を流す。

 簡単に言うと、この魔術は相手の体に私の魔力を通し、その通り具合を見ることで相手の体の悪いところを探すものだ。


(公爵様は病気というよりも、魔力回路の不調かしら……。通りが悪いというか、ところどころ魔力が滞っているところがあるみたい)


 昨日よりも詳細な原因が分かって、私はどう対応しようか少し頭を悩ませ、結局尋ねてみることにした。


「公爵様は今まで魔力回路にご不調があると言われたことはございますか」

「聖女の魔術はそのようなことまでわかるのか。発作の薬を処方してくれた王宮医が、魔力の循環が滞りがちのように見えるとは言っていた。ただ、病気由来のものではなく、生来のもの故、対処はできないと。私は、他の者よりも魔力が多い。発作は、その詰まった魔力が無理に流れようとした際に起きていると言っていた」


 公爵様の答えに、私は治療方針を決める。

 生まれつきの不調であれば、完全に治すことは難しいかもしれないが、魔力を流した感覚から改善はできそうだと思う。


「でしたら、本日は、魔力循環を補助する魔術を弱くかけて様子を見ましょう」

「そのようなことができるのか!?」


 驚きの表情を浮かべる公爵様に、私は頷く。


「それと、もしよろしければ公爵様の治療記録などを拝見させていただきたいのですが、ご許可をいただけますか」

「それは構わないが、関係あるのか?」

「わかりません。ですが、私にできる精一杯のことをしたいのです」

「……好きにするといい。記録は執事が保管している」

「では、魔術をかけます。もしご気分が悪くなるようなことがあればすぐに仰ってください」


 私から視線を外しながらも頷いた公爵様に魔術をかける。


施術が終わると、早速執事のところへと向かった。


「こちらが、旦那様がお生まれになってからの記録となります」

「ありがとうございます。聖女の資格に誓って、公爵様の治療にだけ使わせていただきます」


 私が公爵様に魔術をかけている間に指示が通っていたのか、執事のモーリスさんは公爵様の健康状態について全ての記録を見せてくれた。


 それらは確かに治療には役立つ情報ではあったのだが、考えていた以上に公爵様のプライベートな事情に踏み込む内容で、私は表情を崩さないようにするのが精一杯だった。

 とはいえ、そんなことはモーリスさんにはお見通しだったようだ。


「どうなさいましたか?」

「いえ。思った以上に、公爵様がご苦労をなさっておられることに驚いてしまって……」

「そうでございましたか」


 公爵様は五歳の頃に両親を相次いで亡くされてしまっていた。

 その後、特に酷く体調を崩し、その際に王宮医も呼ばれ聖女の治療も受けたようだ。

 しかし体調は良くならず、ずっと不調を抱えて過ごしてこられたらしい。


「五歳の時に大きく体調を崩されているようですね」

「ご両親を相次いでなくされた影響だと思います。もともと奥様は旦那様がお生まれになった後は、ご体調を崩し気味でした。その年に酷い風邪が流行りまして、あっけなく――」

「それは……お悔やみ申し上げます。お父君も、同じお風邪で?」

「はい。大旦那様は、亡くなられた奥様を何より大事になさっておいででした。奥様を亡くされてお気落ちされていたところ、すぐに同じお風邪を召されてしまい、亡くなられました」


 モーリスさんは悲しげに続ける。


「旦那様は、ご両親をほぼ同時期に亡くしてしまわれたショックで魔力暴走を引き起こされ、そのせいで余計に発作を起こされるようになったのです」

「おつらかったでしょうね」


 当時を思い出しているのか、遠い目をするモーリスさんに、ふと気になったことを尋ねる。


「領地の方は、どうなさっておられたのですか」

「旦那様が王家の血を引いておられることもあり、恐れ多くも陛下が後見をしてくださいました。領地には身元が確かで能力のある管財人が派遣され、その時に王宮から医師も遣わしていただいたのです」


 公爵様自身は陛下の対応に感謝とより一層の忠誠を捧げると共に、成人後、つつがなく領地を引き継ぐために幼い頃から勉強に邁進されていたらしい。

 十八歳の成人を機にやっと領地を継がれたそうだ。


「だからでしょうか。旦那様は領地のためならばとお体を犠牲になさる傾向がございます。しかし、昨日、ジェラン子爵令嬢の治療を受けられてから、今のところ一度も発作を起こされておりません」

「たまたま、かもしれませんよ……?」

「そのようなことはありません。お顔の色も一昨日とは比べられない程によくおなりです。もしかしたらこのまま、お元気なお姿を見られる日が来るのではないかと楽しみに思っております」


 そこまで言うと、モーリスさんはしっかりと私の目を見て胸に手を当てる。


「ジェラン子爵令嬢、どうぞ旦那様のことをよろしくお願いいたします」

「私も聖女として、出来る限りのことをさせていただくつもりです。至らない点がございましたら、どうぞご遠慮なくご教示いただけたらと思います」


 そうして、普段の公爵様の生活リズムや食生活などについても教えてもらった。

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