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19話 平凡聖女は骸骨公爵と祭りを楽しむ

 馬車を町の入り口で下り、私は公爵様と目抜き通りを歩いていた。

 花祭りの時期限定で道路脇には屋台が並び、食べ物や土産物、この領地で採れた花を加工したポプリなどを扱うお店が並んでいる。


 道行く人はこの間視察に来た時よりも多く、祭りだからか皆着飾っている。

 そして、公爵様は気がついていないようだが、道行く女性達の多くが、公爵様を気にしていた。

 振り返って見ている人もいて、隣を歩く男性に注意されている人もいる。


(そうよね、この美貌だもの。公爵様は健康になられたのだし、きっとすぐに奥様を迎えられるかもしれないわね)


 そうなると、流石に公爵様のお屋敷でお世話になるわけにはいかなくなるだろう。

 このお祭りに公爵様と来られるのは今年で最初で最後かもしれない。

 考えると、どうしてか胸が痛んだ。


「どうかしたか?」

「いえ、大丈夫です」


 公爵様に心配され、首を振る。


(今は、公爵様とお祭りを楽しむべきよね)


 そう気持ちを切り替えると、ふと公爵様が辺りを見回した。


「祭りだから人が多いな。ジゼル、はぐれないよう手を繋がないか」

「……わ、わかりました!」


 エスコートの延長だとわかっているが、改めて言われるとドキドキしてしまう。


「気になる店があれば、教えてほしい。見ながら広場に向かおう」

「はい!」


 そんな話をしている私達の横を、花を飾り付けた馬車が通っていく。

 広場に向かって走って行く馬車と、広場から出てくる馬車と入れ替わっているようだ。

 隣を歩く公爵様に尋ねる。


「広場の方で何かあるんですか?」

「あれか。広場で馬車のお披露目をしているんだ。パレードの時は馬車をゆっくり見る時間はないからな。時間ごとに区切って、領民にお披露目する時間を作っていると聞いている」

「後で見てみたいです! こ……キース様は毎年見られているんですか?」

「こうして祭りに来られるのは久々だ。これもジゼルのおかげだな」

「キース様が頑張られた結果です」


 そうしていると、ふと気になる屋台を見つけた。


「キース様、あのお店を見ていいですか!」

「もちろんだ」


 私は公爵様と共にお店に向かう。

 そこは色々な花を押し花にして、可愛らしい便箋や封筒を売っていた。

 他にも押し花を梳き込んだノートやメモ帳など、文房具が沢山置いてある。


「わぁ! かわいい!」


 今日はたくさんお小遣いを持ってきている。

 公爵様が気前よくお給料をくれるし、今まであまり使って来なかったから、今日は心置きなくお買い物をするつもりだ。

 だが、流石にこのお店だけで使ってしまうわけにはいかないと、どれを買うか絞っていく。


「どれにしよう……」

「何に迷っているんだ?」


 気になった物を見ながら悩んでいると、気がつけば思った以上に近くに公爵様がいた。


「……キース様!」

「そんなに驚かなくていいだろう」

「すみません。夢中になってしまっていて」

「そんなにこの店の商品が気に入ったのか?」

「はい! とっても可愛くて」

「なら、この店の商品を一通り購入してもいいが?」

「えっ!? いえ、それは大丈夫です!」


 ぎょっとして慌てて断って、付け加える。


「お給料で自分の物を買うのが夢だったので」

「そうだったのか。余計なことを言ってしまったな」


 幸い、店主は冗談だと思ったようだ。


(流石公爵様。お買い物の規模が違うわね)


 変なことに感心しながら、ノートとレターセットのお会計をしてもらう。

 本当は一つだけに絞ろうとしていたけれど、選べなかった。

 レターセットは誰に出す予定もないけれど、今日でなければ買えないと思うと、諦めたら後悔しそうだと思ったのだ。

 買い物が終わると、公爵様が隣の店を見ながら言う。


「私の買い物にも付き合ってくれるか?」

「もちろんです。何が気になったのですか?」


 隣のお店は、アクセサリーを扱う店のようだ。

 髪留めやネックレス、ブレスレットなどが並べられている。


「キース様?」

「可愛らしいものが沢山あると思ってな。これなど、ジゼルに似合いそうだ」


 公爵様は、水色の宝石を使った髪留めを手に取る。


「お兄さん、お目が高いですね。うちのはどれも小さいけど本物の宝石を使ったものなんですよ」


 店主がそうおすすめしてくるが、私は首を振る。


「髪飾りは今日キース様がくださったお花で充分ですから」

「そうか」


 あっさり頷いてくれた公爵様にほっとする。

 そんなやり取りをしていると、つい台に並べられたブレスレットに目が行った。

 銀色のチェーンに紫色と水色の宝石が組み合わさっており、そこに使われている紫色の石がなんとなく公爵様の瞳の色に似ていると思ったのだ。


「そちらの方が好みなのだな」


 あっと思ったときには、公爵様はそのブレスレットの代金を聞いている。

 代金を支払うと、公爵様は私の腕に購入したばかりのブレスレットを付けてくれた。


「こちらを、ジゼルに。今日の記念だ」

「ねだったつもりはなかったのですが……」


 公爵様は首を振る。


「私がジゼルに贈りたいと思ったんだ。迷惑だったか?」

「いいえ。嬉しいです。ありがとうございます。大切にします」


 早速腕に付けてもらったブレスレットをそっと撫でる。

 きっと公爵様の元を離れても、この贈り物は私の大切な宝物であり続けるだろう。


 その後は、他の屋台を見ながら広場まで歩いた。

 薔薇の花がこれでもかと飾り付けられた馬車は、なかなかの迫力だ。


「これは確かにパレードだけではなく、近くでも見たいですね」

「各農村で薔薇の色の組み合わせが違ったり、飾り付け方に工夫があって面白いんだ」


 昔は先代の公爵様による表彰なども行われていたようだが、前公爵様が亡くなられた後、公爵様も幼かったこともあって中止され、今はパレードだけになっているらしい。

 昼過ぎに行われたパレードを見学して、私達は帰路についた。

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