13話 平凡聖女は骸骨公爵に相談される
その夜。
私の部屋に、たくさんの侍女達がやってきた。
「ジゼル様、申し訳ありません。ナタリア様に、肌を美しくする美容魔術があると伺って来たのですが……」
「えっ、あなたも来たの?」
「なんであなたがいるのよ!」
「もちろん、ジゼル様の美容魔術をかけてもらうためよ。悪い?」
「あなた、既に婚約者がいるじゃない」
「だからって、綺麗になりたいと思って何が悪いの!」
部屋の中には、現在休憩中の侍女が全員いるのではないかというほどに、屋敷にお仕えしている女性が集まっていた。
「はい、そこ。ジゼル様は順番に美容魔術をかけておられますから、喧嘩しないでください」
「ミラさん、ありがとうございます」
ミラさんもお休みだったのに、あまりにも私の部屋に人がいることに気がついて、整理を手伝いに来てくれた。
(流石にこの人数にかけるのは今日だけよね……?)
そんなことを思いながら、来てくれた人に魔術をかけていく。
皆喜んでくれているが、魔術がどのくらい保つのかと聞かれたり、またかけてほしいと頼まれたりもして、困ってしまう。
(皆様の美容への執念を甘く見ていたかも……)
王女殿下は自分以外に美容魔術をかけることを禁じていたから、この状況を想像できなかったということもある。
そうして、一人一人に魔術をかけていっていた時だった。
「これは何の騒ぎだ」
「――っ、旦那様!」
「公爵様……」
公爵様の声に、侍女達が急に姿勢を正す。
「ジゼル嬢、説明を頼む」
公爵様に尋ねられ、私はナタリアさんの治療を行い、美容魔術をかけたこと、他の侍女達も美容魔術に興味があると言われ、皆に魔術をかけると言ってしまったことを話す。
「それでこの人数が集まったと」
「折角集まっていただいたので、今日はこれから全員に魔術をかけようかと思います」
「なるほどな。ちなみにこの人数全員に魔術をかけるのに、どのくらいかかる?」
「えっと、深夜はまわらないと思いますが……」
私の答えに、公爵様は眼光を鋭くする。
「私には食事の栄養に気を配り、規則正しい生活をするようにと指導するのに、ジゼル嬢はそれを破ると言うことか?」
「いえ、そんなわけでは……」
「では、私がこの場を取り仕切っても文句はないな」
公爵様の迫力に思わず頷く。
あっと思って侍女達の方を見るが、皆も必死で頷いているので問題なさそうだ。
「では、ジゼル嬢が美容魔術を使うのは一日に五名までとする。また、ジゼル嬢には自身の休日に美容魔術を使うことを禁じる。ということで、今日はもう全員部屋に帰るように」
この場で並んでいる順に名前を書かせ、管理は執事のモーリスさんがするように決まった。
残念そうにする侍女達に、公爵様は言う。
「では、お前達も休日を返上し働くというのだな?」
私にそういうことを願ったと気がついたようで、皆、私にお休みの日に悪かったと頭を下げて帰っていってくれた。
全員が帰ったところで、公爵様が言う。
「もうこんな時間だ。ひとまず明日の午前中まで休みを延長しよう」
「このくらい平気ですが――」
「もし私が平気だと徹夜で執務をしていたら、ジゼル嬢はなんと言う?」
「ゆっくり休んでほしいです……。回復魔術もかけると思います」
「そういうことだ。ちなみに、自分に回復魔術はかけられないのか?」
「聖女の魔術はどれも自分には効果が出ないのです」
「そうか。あまりに疲れているようならと思ったが、意外と不便なのだな」
頷くと、公爵様は視線を和らげ私を見る。
「ジゼル嬢が職務に真面目で責任感が強いことは知っているが、頑張りすぎるところは心配している。だから私のためにも休んでほしい」
「……わかりました」
「では、夜分に失礼したな。明日は昼食後に私の執務室に来てほしい」
公爵様はそう言うと、私の部屋を後にした。
翌日。
私は言われた通りに、午後から公爵様の執務室に向かった。
「お休みをいただき、ありがとうございました」
「ゆっくり休めたか?」
「はい。あの後はすぐに休んだので、ぐっすり寝ました」
「今回は偶然気がついたからよかったが、また何か困ったことがあれば、相談してほしい。力になろう」
「その時はお願いします」
そうして、公爵様は表情を引き締める。
「それで、実は、私もジゼル嬢に相談があるんだ」
「私にですか? ご体調に変化がございましたか?」
慌てて尋ねる私に、公爵様が首を振る。
「体調は問題ない。そうではなく、公爵家の事業のことについてなんだ。以前この領で王都に出荷する花を育てていると話したが覚えているか?」
頷く私に公爵様は説明を続ける。
「育てている花のうち、出荷できるものは実はごく一部なんだ。虫の被害にあったり風で倒れたりと、廃棄されるものも多くてな。本来なら捨てられるはずの花を有効活用をしたいと思い、女性向けの化粧水を作ろうと考えている」
「いいお考えだと思います」
昨日、美容にかける女性達の思いを実感したばかりだ。
「その開発に、ジゼル嬢にも加わってもらいたい」
「私にできるでしょうか……?」
「ジゼル嬢にしか頼めないことだ」
「もしかして、美容魔術をご期待されていますか?」
美容魔術は人にかけるものであるため、そちらの効果を期待してのものだと役に立たないかもしれない。
そう思って尋ねると、公爵様は首を振る。
「ジゼル嬢の美容魔術も素晴らしいと思うが、今回は薬草クッキーや薬草茶などのレシピを生み出したジゼル嬢の知識に期待している」
そんな風に公爵様に言われて胸が騒ぐ。
「知識……?」
「そうだ。薬草の効能を調べ、その効果を落とさないように誰にでも味わえるようなレシピにまとめあげるなど、深い知識があってこそのことだろう? そしてそれは、並大抵の努力ではできないことだと思う。だからこそ、そんなジゼル嬢に開発に加わってもらえれば、きっとこの開発もうまくいくと思ったんだ」
真っ直ぐにこちらを見つめて話す公爵様に、私は驚くと同時に照れてしまう。
(今まで誰かにこんなに褒められたこと、なかったから……)
もしかしたら、公爵様がご健康になられた今、私の仕事が減るからと気を遣われてのお声がけかもしれない。
一昨日行ったような視察も、そう頻繁に行われることもないだろう。
そうだとしても嬉しかった。
「私でよければ是非ご協力させてください」
「ジゼル嬢が協力してくれて嬉しい。絶対に、この取り組みを成功させよう」
そう言うと、早速公爵様はこの計画について詳しい説明をしてくれた。




