12話 平凡聖女は美容魔術を披露する
町の視察に行った翌日。
大勢に回復魔術をかけて疲れただろうと、公爵様からはお休みをいただいた。
折角だからミラさんにもお休みを取ってもらい、今日は一人で過ごす予定だ。
「お休みって、今日は何をしようかしら……?」
公爵様のところに来てもう何度かお休みはもらっているが、王女殿下にお仕えしていた頃よりも休みが多い。
以前はお給料にも余裕がなく、服をつくろったり、少しでも殿下の役に立とうとお休みでも調べ物をしたりと休みでも忙しく過ごしていたが、今はもうそんな心配もなく、どうやって過ごしたらいいだろうと少し時間を持て余していた。
「あの、申し訳ありません。ジゼル様、今日はお休みだと聞いたのですが少しよろしいですか?」
「どうぞ、入ってください」
誰だろうと思っていると、公爵様に仕える侍女の一人、ナタリアさんだった。
私より二歳年上の伯爵家出身の方だが、今日は何故か顔をスカーフで覆ったまま入ってくる。
「ナタリアさん、どうなさったのですか? そのスカーフは……?」
「実は顔と腕を火傷をしてしまって……。あの、顔だけでも治療をお願いできませんか? 公爵様にお尋ねしたら、ジゼル様が頷いてくださるならと許可をいただいて来ています」
「酷い火傷……! とても痛いでしょう。すぐに魔術をおかけします」
どうやら料理中にかまどの火が跳ね、手で顔を庇ったが、顔にも火の粉が飛んでしまったそうだ。
「これで、どちらの火傷も治ったはずです」
「すごい……! どこも痛くありません! ジゼル様、本当にありがとうございます! 実はこれから婚約者とデートだったんです。ジゼル様に断られたらデートはお断りしないといけないかもと覚悟していました。本当に、ありがとうございます!」
怪我が治って嬉しいと涙をにじませるナタリアさんに微笑みかける。
「この後デートに行かれるのでしたら、火傷の治療だけではなく、美容魔術もかけましょうか」
「美容魔術ですか……?」
「肌を美しく整えて、潤してくれます。お化粧のノリもよくなりますし、お肌がモチモチのスベスベになります」
「……よくわかりませんが、お願いしてもいいですか?」
「もちろんです!」
王女殿下のところで鍛えた美容魔術をかける。
(久々だけど、うまくかけられたわね)
回復魔術よりは難しいが、長年使っていた魔術をそう簡単には忘れたりしない。
「上手くできたと思います。鏡をどうぞ」
「すごい……! なんだか肌が輝いているみたいですね! それに本当にモチモチのスベスベ……。火傷の治療だけではなく、こんな素晴らしい魔術までかけていただき、ありがとうございます!」
「喜んでいただけて嬉しいです。ところで、デートの待ち合わせは大丈夫ですか?」
「あっ! もうこんな時間なんですね!? 急いで支度をしないと……。ジゼル様、お礼にお土産をたくさん買って参りますから!」
「デート、うまくいくといいですね」
そう言って私はナタリアさんを見送った。
美容魔術は乱れた食生活のせいでニキビができてしまった王女殿下のために回復魔術を応用して作り出した。
王女殿下に食生活を見直して野菜を取るよう進言したものの、あの殿下が私の言うことを聞いてくださることはない。
なのに、ニキビさえ治せない聖女は無能だとすごくご立腹されて、必死で何とかできないかと頑張った。
もともと回復魔術は、体の怪我や病気を治す魔術だ。
ニキビも肌の炎症や異常で起きるらしいのだが、調べたところ、ニキビは症状が小さすぎて回復魔術をかけても術式に検知されないらしい。
だから回復魔術の範囲を肌に限定し、異常部位だけではなく、体表の全体的に回復魔術をかけることで治療を行ってみたのだ。
(結果的に、それが大成功だったのよね)
肌全体に回復魔術をかけるため、ニキビが治るだけではなく、副次的に肌がモチモチのスベスベになったのだ。
(殿下はとても喜ばれて、お仕えしている時は、毎朝晩に美容魔術を使うのが日課になってしまわれたし)
それに、最初にニキビを治した時も、私の頑張りは当然だと、殿下から褒められることもなかった。
むしろ、侍女として主人から言われる前に動けと叱責をもらった気がする。
一応、報償は出されたらしいが、子爵家の方に送られたため、私は何も受け取っていない。
(今は誰かが代わりをしているのかしら……?)
ふと疑問に思ったが、首を振る。
もう私が殿下にお仕えすることはないし、きっと異母妹がうまくやっているだろう。
あの時頑張った結果がこうして、今役に立っているのだし、過去のことは忘れてもいいのかもしれない。
(ナタリアさんにデートがどうだったか、聞くのが楽しみだわ)
そんなことを考えながら、私はお茶を淹れようと厨房にお湯をもらいに向かった。
その日の夕方。
クッキーや、瓶に沢山詰まったカラフルな飴、高級なお茶の葉などを持って、ナタリアさんがお礼に来てくれた。
「こんなにいただいて、いいんですか?」
「私だけでなく、彼からのお礼も一緒なんです。ジゼル様のおかげで、彼がいつもより綺麗だって褒めてくれて、とても喜んでくれました。だから、気にしないで受け取ってください」
嬉しそうにはにかむナタリアさんの様子に、まるで自分まで幸せな気持ちになる。
「では遠慮無くいただきます。そうだ、また、美容魔術が必要な時はいつでも声をかけてくださいね」
その言葉に、ナタリアさんはあっという顔になる。
「そのことですが、他の侍女仲間にも教えてもいいですか? いつもより綺麗だけどどうしたのって言われて、皆興味を持っているみたいだったんです……。私だけ、こんな素晴らしい魔術をかけてもらったのも申し訳ないですし……」
「全然構いませんよ。よかったらその方達にもかけましょうか?」
「ジゼル様がよろしければお願いします」
別に隠しているわけではないのだし問題ないと答えると、ナタリアさんはほっとした様子だ。
もう一度火傷の治療のお礼を言って、彼女は帰っていった。




