湖の祠
「クロ、見てよ。そろそろ日が昇るよ。」
ゆっくりと星達が消えていき太陽が現れた。
鳥たちが一斉に飛び立ち、暖かな光に包まれて、まるで今この瞬間に全てが生まれ出たかの様に感じられた。
「今日が生まれたね。」
「それ!オレも同じこと思ったよ!」
この場所は、山の中腹辺りに位置していて、同じ位の小高い山々に囲まれた盆地になっていた。少し離れた所には湖が見える。
「朝ご飯食べたら湖まで行ってみよう。」
「いいね!アックの世界に何があるのか楽しみだよ!」
−−−−−−−−−−−−
「ねえクロ、ネコになったんじゃなかったの?」
「どっから見てもオレはネコだよ!黒ネコのクロだ!」
「僕の知ってるネコはね、翼なんて無かったよ?」
「さてはアック!この翼が羨ましいんだな!カッコいいだろー!」
「いや、確かに恰好良いけどさ。まぁ、喋ってる時点で今更だよな。」
「アックだって、カメのクセに人型になってるじゃないか!」
「……ホントだ…気付かなかったよ。そういえば僕、カメだったね。」
「そういうものだと受け入るとよいよ?」
「もう人間じゃないんだものね。」
「アック?人間だって『人』の形に似せた容れ物だって、もう理解してるんじゃない?」
「うん。何となく…。」
「あはは!結局アックもこの星で生まれた魂だからね!この星の水を飲み、果物を食べ、息をする事でさえ霊性を上げてくれる筈だよ。所詮、姿形なんて魂の現れであって、実体じゃないからね。」
「でも修行するって、滝行とかするのかと思ってたよ。」
「やりたいなら構わないけど、その行為自体に意味はないなあ。」
「そうなんだね。」
緩やかな坂道を下り、湖が見えてきた。ひんやりと水の香りが気持ち良い。さっきから何故か赤とんぼがクロの尻尾に群がっている。クロも面白がって、尻尾をゆらゆらと揺らしていた。
湖畔まで来ると、湖の底まで澄んだ湖水に魚が泳ぐ姿が見える。湖面には三つの中島が見えたが、その一つに見事なアーチ型の橋が架けられていた。
「あの中島に行ってみよう。」
橋の手前にある鳥居を潜り、朱塗りの欄干に感嘆しながら橋を渡る。
そこには、凛とした趣きの小さな祠が一つあった。




