迷宮にて
「さっぱり解らないということは、分かったよ。考えても分からないということも分かった。」
「うんうん、頑張って説明した甲斐があって良かったよ。さて、そろそろ外に出てみよう。」
そこそこ重そうな木製の扉であったが、クロが触れると呆気なく開いた。少し肌寒い風が吹き込んでランプの光が揺れる。
「すごいな。まるで絵本の世界だ。」
深い森の向こうから、大きな大きな満月が見える。草むらからは虫の鳴き声が聞こえ、小屋のすぐ近くに小さな川が流れていた。
そこに架る小さな橋。川辺には蛍が飛んでいて、胸が締め付けられる程の懐しさが込み上げてくる風景だった。
「綺麗な夜だね。うん、素晴らしい!これがアックが描いた世界なんだね。」
「僕がかい?」
「勿論さ!オレはこの景色は知らない。初めて見るよ!」
「…ねぇクロ。僕は姫のことを知っている様な気がするんだよ。」
「あはは!アック、それ一番不味いかも。いや…それ、本当に?」
「……ぇ?」
「そうだね、アックは忘れてしまった大切なものを思い出さなければならないね。まあ、アックの大切なものなんて、ひとつしか無いしね!」
「さて、そろそろ寝るとしよう。オレは明日の日の出が見たいからね!」
クロはそう言うと、すっかり猫の様にひゅっと家へと入ってしまった。
「たったひとつの大切なもの…か…。」
アックは大きな月を見上げ、小さなため息を一つこぼすのであった。




