【 遠い記憶 】
雨が降っていた。
もういつから降っていたのかも分からないほど、長い長い間降っていた。
もしかしたら、最初からずっと降っているのかもしれない。
辺りは水で溢れ、もう何処かに流れる事も無く、只々世界は水の中だった。
僕は大きな大きな木の根元の小さな穴に縮こまって、ひたすらに降り続く雨だけを眺めて生きていた。
世界はそういうものだった。
降り続く雨をただ眺める事が生きるということだ。
そこには喜びも悲しみも無かった。
怒りも絶望も無かった。
誰かに傷付けられることも、支配される事も無かった。
生きることとは、何も無い事と同じであった。
そうだ、僕は長い長い間、何も無かった。
死というものさえ無いのだから、時間などというものも無かった。
世界は黒と灰色しか無く、冷たくて、静かだ。
だがある時、一人の少女が現れた。
青い髪をした少女だった。
少女は僕をじっと見つめて、去って行った。
その時から、少女は毎日現れた。
現れては、僕に色々な話をしてくれた。
いつからか、僕は少女が来ることを楽しみにするようになった。
少女が帰ってしまうのを寂しいと思った。
気が付けば、少女は僕の生きる目的になっていた。
『あなたの名前はアックにするわ。』
「…僕の名前はアック。」
『私はファニー。一緒においで。』
そう、少女の名前はファニー。
僕の生きている理由…この世界の全てであった。




