供え物
翌朝、少し寝坊したアックは小川で顔を洗ってすぐに裏庭に向かい、湖の祠にお供えする野菜を収穫していた。
茄子に大根、リンゴに葡萄やトマトなど、立派に育った野菜と果物で用意した籠が見る見るうちにいっぱいとなる。
「あれ?こんな所に桃の木があったんだ。全然気づかなかったよ。」
畑から少し離れたところにポツンと生えた木に、美味しそうな桃が一つだけ生っていた。
アックは早速それをもぎ取ると、クロに見せようと小屋へと戻った。
「ねえクロ!みてみて、美味しそうな桃があったんだ!食べてみようよ!」
「それは……それは祠にお供えすると良いよ…さて、オレは出かけるとしよう。」
クロはちらりと桃を見たが、興味なさげに外へと消えて行ってしまう。
「なんだよ…クロったら桃が嫌いなのかな。」
アックはクロの余りの素っ気無さに少し面食らってしまったが、もう日も高くなって来ているので、収穫したばかりのキュウリを齧りながら祠へと向かうことにした。
湖につくと、鳥居の上に数羽のカラスがアックを迎える様にとまっている。
「こんにちは、君が達丸君かい?」
一羽のカラスに話しかけてみると、それに答えるようにカー!カー!と一斉に鳴き出した。
「うわっ!!もしかして全員達丸君!?」
……フフフ……
「えっ?」
アックの頬をふわりと風が撫でていった。
「今の…なんだろう?誰か居るの?」
不思議な感覚に辺りを見渡すが、誰も居ないようだ。
アックは首を傾げながらも祠の掃除をすると、草を編んで籠を作り、持って来た野菜と桃を並べてお供えする。
「僕の家の裏庭で採れた野菜と果物です。とっても美味しいので、どうぞお召し上がりください。」
……フフフ……
すると。先程の様に微風がアックの頬を撫でたかと思うと途端に突風となり、祠の前でつむじ風を巻き起こした。
「うわっ!!」
アックは思わず目をつぶって、顔を背けてしまう。
『フフフッ…アックと申したな。』
「…えっ?」
アックが驚いて目を開けると、そこには白く長い髪と真っ赤な瞳をした美しい女神が立っていた。
『其方は、その供え物の意味を知っておるのか?』
「…え?…えっと……」
『これは仙桃。其方は、私に求婚したのじゃ。』
「え?…えええーーっ!!」
まるで悲鳴のようなアックの叫び声が、長閑な湖に響き渡るのであった。




