相手を想ったプレゼント?
「⋯⋯なんで飯食うだけで、こんな疲れなきゃならんのだ⋯⋯」
「⋯⋯ゆうくんが、始めたんでしょ⋯⋯」
謎の食べさせ合いを、羞恥心を捨てて何度も繰り返していたが、具がなくなったので不毛な戦いは終わりを迎えている。
「先に始めたのお前だろ」
「一回だけのつもりだったんだよ!」
「そうか、そりゃ悪かったな」
話しながらも残ったアヒージョのオイルに、パンを浸して頬張る。オイルに溶け込んだ旨味がパンを通して伝わる。揚げ物は残った油の処理に悩むが、この料理にはその心配が必要ない所が魅力だ。
(食い終わったし、もう終わりだな)
料理も作り、食事も食べ終わった。所詮擬似クリスマスだ。少し、名残惜しい気もするが⋯⋯
(余計な事考えるな)
頭を振り、必要のない思考を飛ばす。練習、これはあくまでも夏希の練習なのだ。
「さて、飯食い終わったし終わりにするか」
そうして、俺と夏希の早めのクリスマスは終わりを迎える。
「あ、そういえばプレゼントあるよ?」
まだ終わらなかった。マジでか。随分やる気なんだなこいつ。
「いらない?」
いや、そんな事はないんだが⋯⋯
「俺なんも用意してないぞ?」
まさか、プレゼント交換までする気とは思わなかったので、何も用意がない。
「大丈夫だよ。私が渡したいだけだから。⋯⋯その、目瞑ってもらっても良い?」
「構わないけど、ドッキリとかはなしにしてくれよ?」
言われた通りに目を瞑ると、夏希がいた方向から、ゴソゴソと何かを取り出す音がする。音から察するに、そこまで大きいものではないが、一体何をくれるのだろうか?
あまりに高いものだと、こちらとしても返す物を考えなくてはならない。だが、それよりも⋯⋯
(中々楽しみだな)
女子からプレゼントをもらえるという、あまりない体験に浮かれているのか、目を瞑っているこの時間も中々に面白い。果たして夏希が考える俺へのプレゼントとはどんな物なのだろうか。
「ゆうくんは、彼女さんからもらうプレゼントだったら、どんな物が欲しい?」
目を閉じた暗闇の中での、夏希からの質問。
「⋯⋯どんな物、か」
夏希からの問いに対して、少しだけ考えてみるが、特に欲しい物は思いつかない。
「相手の事を考えてくれたプレゼントなら、何でも嬉しいんじゃないか?」
「ふーん、例えば?」
「料理をよくするから、圧力鍋買ってくれるとか」
「それは、高すぎると思うんだけど⋯⋯」
それはそうだな。まぁ単純に欲しいものが思いつかないというのが今の本音だ。
「あくまで一例だよ。俺の事を見て考えて、渡されたプレゼントなら何でも嬉しいさ」
「ふーん、そっか」
正直言うと、サプライズプレゼントというよりは、一緒に相談して買いに行った方が色々効率的だとは思っている。この状況で言うつもりもないが。
「というか、何の質問だよこれ」
「何でもない。もう良いよ、目開けてもらって」
聞きたかった事を聞き終えたのか、夏希から声がかかったので目を開ける。俺の目の前には⋯⋯
「⋯⋯なんもないんだけど」
何も無かった。机の上には今回作った料理跡が残っているくらいで、他に見つかるような物はない。
「大丈夫。もう送ったから」
「送った?どういう意味⋯⋯」
夏希の言葉を問いただす前に、自分の携帯から通知音がなる。電源をつけて通知を確認する。
「ああ、なるほどな」
そこには、以前俺が夏希に送った事がある、千円分のカフェのギフト券が表示されていた。
「どう思った?」
「嬉しいのは嬉しいけど、拍子抜け感は否めないな」
「そうでしょ?良かったよ、分かって貰えたみたいで」
夏希はどうやら以前の意趣返しを行いたかったようだ。確かに、プレゼントを渡すと言われてこの内容は違うかもしれないが⋯⋯
「彼女から贈られるプレゼントだっていうなら、少しは期待しても良いだろ」
それは相手との関係性と、時期にもよるだろう。⋯⋯まぁ、今もその関係は変わらず、今日だけが特別なんだが。
「ゆうくんの事、ちゃんと考えて選んだんだけど。これなら良い?」
「それなら仕方ないな」
夏希の軽口に笑ってしまう。まぁ嬉しい事には嬉しいしな。
「ありがとな。今日の帰りにでも使わせてもらうわ」
「え、早いね使うの」
「気分はクリスマスだからな。ケーキくらい食っても良いだろ」
カフェでドリンクとのセットを頼めば、千円で収まるだろう。ちょうどいいクリスマスプレゼントだ。
「へぇ⋯⋯良い使い方だね」
そうだろう。突発的に降ってきたものにしては、良い使い方だ。
「んじゃ、出る準備するわ。鍵返してくる」
「分かった。玄関で待ってて良い?」
「別に先に帰っててくれても良いんだけどな」
律儀に待とうとする夏希に苦笑しながら、洗い物を片付け、一旦職員室へと向かう。
「先生、鍵返しにきました」
「そうか、そこに置いといて⋯⋯」
担任に鍵を渡そうと声をかけると、俺の顔を見て何か思案しているようだ。
「なんですか?人の顔ジロジロ見て」
「いやぁ?なんか随分と機嫌が良さそうに見えてなぁ。何か良いことでもあったか?」
⋯⋯自分では何でもない事だと言い聞かせてはいたが、どうやら担任に分かるくらいには、浮かれていたらしい。
「まぁ⋯⋯少しあったかもしれないですね」
「ほう?素直だな。何があったか詳しく」
「すみませんけど、人待たせてるんで」
「ほう!それはすまないな!はよ行って来い!」
そう笑う担任に、何か面倒な事を思われている気がした。いつもなら「先生が思っているような事はないです」と釘を刺す所だが。
「んじゃ、先に失礼します」
今の状況が、そうやって否定出来る状況ではないことは、流石に自分でも分かっていた。




